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群青のアウトル  作者: しゅん
6/15

第三皇女シシリア

この作品はフィクションです。

実在の人物や団体とは関係ありません。


 謁見の間でリベロフに挨拶をした後、ルシエルは次にシシリアに会いに向かった。部屋まで使用人に案内され部屋の前までつくと、何やら大きな物音が聞こえた。


「だからそうじゃないって言ってるじゃないっっ!!!」


 ドア越しに聞こえたのはシシリアの罵声と何か食器が割れる音だった。


ルシエル「はぁ…」


 そんな状況に深くため息をついた。


「しばらくお待ちください。中で何かトラブルがあったようで…」


 ルシエルをここまで案内してきた使用人は、顔を真っ青にしながら焦ったようにそう言った。


ルシエル「構わないよ。僕が言ったほうがシシリア様も落ち着くだろうし。任せて。」


「…ご配慮、感謝いたします。」


 ドアの前にいる使用人をどかして、ルシエルはドアをノックした。


シシリア「誰よ!!」


 荒ぶった声。何がそんなに気に入らないのか、これからパーティーだと言うのにかなり怒っているようだった。

 シシリアは出会った頃からそうだが、気性が荒いところがある。気に入らないことがあると、今のように酷く荒ぶって怒り出す。


ルシエル「シシリア様。ルシエルです。」


 ドア越しにそう声をかけると、シシリアは驚いていた。


シシリア「ルシェ!?嘘っ!もうそんな時間なの!?」


 午前10時。この時間にルシエルは、シシリアの元を訪ねると手紙で約束をしていた。時間を把握していなかったのか、シシリアはルシエルの登場に驚いていた。


シシリア「ごめんなさい。ルシェ…私ったら時間を勘違いしていたわ。まだ準備が終わっていないの。」


ルシエル「そうでしたか。それでは、別の部屋でお待ちしております。」


シシリア「え、ええ!すぐ準備するわ!」


 ドア越しにそんな話をして、ルシエルは近くの使用人と目を合わせるとその場から離れた。ルシエルは応接の間に案内されて、そこでしばらく待っていることにした。


ルシエル「レイ。部屋で何があったんだ?」


 誰もいない空間に話しかけるルシエル。再び何処からともなくレイが現れる。ルシエルの座るソファの後ろに跪いていた。


レイ「侍女が粗相をした様です。口紅の色が思っていた色と違うことに怒っていたようです。」


ルシエル「…そんなことか。」


レイ「噂によると最近侍女がまた変わったようで。その侍女が気に入らないようです。」


ルシエル「へぇ。また変わったんだ。」


 シシリアの侍女はよく変わっている。10年前にいたいた侍女のことを、シシリアはよく気に入っていたらしい。だが、その侍女がいなくなってから、彼女は気性が荒くなったと前に聞いたことがある。


ルシエル(情緒不安定な女と結婚とか…勘弁してくれ。)


 ルシエルはそう憂いてため息をついた。

 そもそも、ルシエルがシシリア主催のパーティ以外に顔を出さないのは、彼女のそんな気性の荒さが原因だった。

 シシリアが参加しないパーティーに、ルシエルが参加したと知ると彼女は嫉妬に狂ってしまう。バロナンはそれを良くしっていた。故に、ルシエルは体が弱いことを言い訳にして、シシリア主催のパーティー以外に参加させなかった。


ルシエル「レイはどうおもう?僕がシシリア皇女と結婚することについて。」


 そんな質問を護衛に投げかけて、ルシエルは優雅に紅茶の入ったカップを口に運んだ。


レイ「僭越ながら、皇女殿下は我が主人には相応しくありません。」


ルシエル「ははっ…言うねぇ。他の人に聞かれてたら、打首じゃ済まないよ。」


レイ「問題ありません。この付近に他の人間の鼓動はありませんから。」


ルシエル「そっ。」


レイ「あの、ルシエル様。」


ルシエル「ん?何?」


レイ「……本当にこのままでよろしいのですか?」


ルシエル「……んー、どうだろうね。」


レイ「…。そろそろ、皇女殿下がいらっしゃいます。」


ルシエル「わかった。」


 それだけ言って、レイはまた何処かに消えた。ルシエルは持っていたカップをテーブルに置いて、ソファから立ち上がった。

 レイの言った通り、直ぐにシシリアが現れた。バァアアンとドアを開けて慌ててきた様子で部屋に入ってきた。


シシリア「ルシェ!」


 ルシエルの顔を見て嬉しそうな顔をして抱きついてきた。そっと手を回してシシリアの体を支えた。


 シシリアは黄緑色の瞳に癖毛の赤茶の顔。可愛らしい丸い瞳が特徴的である。


シシリア「会いたかったですわ!ルシェ!」


ルシエル「僕もですよ。シシリア様。」


シシリア「えへへ」


 嬉しそうに笑って、彼女はルシエルの胸に顔を埋めた。

 シシリアはこの誕生日で20歳になる。カリスティ帝国の法律で言えば成人である。彼女が成人を迎えた時、ルシエルと結婚することが決まっているのだ。


シシリア「やっとこの日が来ましたわ。この一週間が過ぎた頃には、私は貴方と正式な夫婦になるのですね。」


ルシエル「…そうですね。」


 ニコッと笑って見せた。そんなルシエルの美しい顔がシシリアは大好きだった。

 彼女は美しい男性が好みであった。昔から美男子にしか興味がなく、本に出てくるような美しい男と結婚するのが夢だった。

 青い瞳に美しいブロンドの髪。女性のように美しい顔立ちで、ルシエルはシシリアにとってはまさに理想の美男子である。


シシリア「パーティーは好きだけど、早く終わって仕舞えばいいのに!貴方と夫婦になることの方が楽しみで仕方がないわ。」


ルシエル「そうですね。」


 ルシエルに抱きつくシシリアは緑色のドレスに身を包んでいた。緑色はカリスティの王家を象徴する色。


シシリア「貴方がくれたドレスもとっても素敵だわ。ありがとう。」


 それは、ルシエルが選んで彼女に贈ったドレスである。現在アリスチナの淑女の間では、とあるロマンス小説が流行しており、シシリアもその小説の愛読者であった。


 その一部シーンに、ヒロインがパートナーから特別な日に自分の瞳と同じ色のドレスをプレゼントするというシーンが描かれていた。シシリアがそれに憧れているのを知っていたため、あえてそれを模したのである。


 流行りのデザインに輝くエメラルドグリーンの生地で作られている。東の海の大粒の真珠が散りばめられている上に、胸元には大きなエメラルドのがあしらわれている。

 煌びやかなパーティー会場でも、目立つ衣装である。


シシリア「でもね、ルシェ。このドレスはとっても気に入っているのだけれど、どうして緑色なのかしら。」


ルシエル「緑色は王家の象徴ですから。」


 そう言ったルシエルに対して、シシリアは深くため息をついた。何かに落胆したような、期待はずれにあったようなため息だった。


シシリア「…ルシェ。私の好きな小説を真似てくれたのは嬉しいけど、緑色じゃ意味ないのよ。」


 シシリアの声のトーンが下がった。そして、そっとルシエルから身体を離した。


 『愛しい君には自分の色を身につけてほしい。』小説の中では、そんな台詞と共にドレスを贈るシーンが描かれている。ルシエルの瞳の色は深海のような青い瞳。


シシリア「貴方のその青色でなければ意味がないのよ。」


 そう言ってルシエルの目を指差した。少し動けば爪が目に刺さる勢いである。


ルシエル「…申し訳ございません。」


 少し震えた声で謝った。そして、ルシエルはシシリアの前に跪いて謝罪した。だが、シシリアはギラリとした瞳でルシエルを睨むように見る。その目が苦手だ。


シシリア「謝罪はいらないのよ。ルシェ。なぜ、緑色を選んだの?」


ルシエル「シシリア様は緑色のドレスを好んできておりましたので、シシリア様が好きな色をと思い選んだのです。」


シシリア「……確かにそうだけれど。このパーティーの後、私たちは夫婦になるのよ。こんな特別な日に、なぜ青色のドレスを選ばなかったの?」


ルシエル「…配慮が足りずに申し訳ございません。」


 再び頭を下げる。心拍数が上がり、少しだけ視界がぼやっとしてきた。


シシリア「ええそうね。貴方が女性の気持ちを理解できないのはわかっていたけれど、こんな日にまで配慮がないなんてね。少しは勉強したらどう?」


ルシエル「…」


シシリア「一週間。」


 シシリアは跪くルシエルの顎の下に手を添えてクイッと上に持ち上げた。


シシリア「貴方の美しい顔に免じて一週間あげるわ。一週間後の最後のパーティーの日は、このドレスよりも素敵な“青色”のドレスを私にくれないかしら?」


ルシエル「わかりました。猶予をいただき、…ありがとうございます。」


 内臓がぎゅっと掴まれる気分になった。胃の奥から何かが込み上げてくるような感覚があった。


シシリア「期待してるわね?ルシェ。愛しているわ。」


 そう言ってルシエルと視線を合わせるようにしゃがんだシシリアは、ルシエルの頬を両手で包んでキスをした。


シシリア「貴方との初夜を楽しみにしているわ。」


 そう言ってシシリアは、立ち上がって部屋から出て行った。ルシエルは立ち上がって頭を下げる。バタンとドアが閉まった。


ルシエル「オエっ…!!」


 その瞬間、ルシエルはその場に吐いてしまった。床が吐瀉物で汚れてしまった。


レイ「ルシエル様っ!!」


 つかさず何処からかレイが現れて、ルシエルの背中をさする。口を手で抑えるも、込み上げてくるものが止まらない。胃の中に何もないのに、吐き気が止まらない。


レイ「使用人を呼んできます!」


ルシエル「はぁっ…はっ…はぁぁっ、はぁ…っ」


 立ってられないほどの眩暈と気持ち悪さ。シシリアの目がバロナンの目と記憶の奥にある知らない誰かの目とその他大勢の目と重なって見えた。


レイ「ルシエル様っ!!」


 意識が失いかける中、戻ってきたレイが慌てて駆け寄る。いつも冷静なレイが必死な顔をしていた。そんな様子を見て、また一つ忘れていた記憶が一瞬だけ蘇った。


ルシエル「………兄さん」


レイ「!」


 そのままルシエルはその場で気を失った。



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