謎の男
この作品はフィクションです。
実在の人物や団体とは関係ありません。
シシリアの訃報は朝、ルシエルの耳にも入って来た。今日はパーティー最終日。つまり、シシリアとルシエルが正式に結婚する日だった。
リベロフ「何故だっ!何故こうなった!!バロナン!!」
バロナン「…現在、シシリア様の死亡の原因を捜査中でございます。」
リベロフ「警備は滞りなく行われていたのではないのか!?何故シシリアが死ぬことになるんだ!!貴様、何故ルシエルとシシらを結婚させねばらなぬのか、忘れたわけではないだろうな!?」
バロナン「忘れてなどおりませんっ…」
リベロフ「なら何故こうなったのだ!!!」
興奮し激昂するリベロフは突然咳き込んだ。バロナンも頭の中では焦っていた。ここでシシリアに死なれては困る理由があったからだ。
その頃、ルシエルはシシリアの自室にいた。今朝、侍女が彼女起こすために部屋をノックしたが、返事がなくドアを開けると彼女は寝台の上で亡くなっていた。
彼女が寝ていた布団の上は生々しくもまだ赤い血で濡れていた。部屋の隅には、ルシエルがプレゼントしたあの青いドレスが飾られていた。
彼女の遺体は既に別の場所に移動されていたが、ルシエルはそこで祈りを捧げた。
そんなルシエルの背後に、レイが現れた。
レイ「ルシエル様」
ルシエル「急に声をかけるなよ。驚いたじゃないか。」
レイ「…申し訳ございません。」
ルシエル「…ねぇ、今、この付近に人はいる?」
レイ「いえ。他の者の鼓動はありません。」
ルシエル「そう。」
レイ「…。」
ルシエル「…人として失格かな。シシリアが死んで、喜んでいる自分がいる。」
レイ「…。」
ルシエル「……最低かな。こんな僕。」
レイ「ルシエル様はシシリア様との結婚を望んでおりませんでしたから。その感情は当たり前のことだと思います。」
ルシエル「でも、シシリアと結婚できなかった僕は、父さんにとってはなんの価値もない。」
ルシエルの心境はかなり複雑だった。シシリアと結婚しなくて済んだ喜びと、バロナンにとってなんの価値もなくなってしまった脱落感。
レイ「っ…そんなことはありません!ルシエル様はあの女と結婚しなくたって…!!」
少し焦ったように言葉を発するレイ。ルシエルはレイの肩に左手で触れた。
ルシエル「大丈夫だよ。……ありがとう、レイ。」
レイ「っ…出過ぎた真似を、してしまいました。」
ルシエル「僕のことを思ってしてくれたんだろ。かまわないよ。もう行こうか。」
そう言って、部屋を出ようとした時だった。
「なぁ、ここで何かあったのかい?」
レイ「!!!」
背後から声がして振り向くと、部屋のテラスに誰かが立っていた。レイが慌ててルシエルの前に剣を構えて守るようにたった。
レイの耳は鼓動が聞こえるほど耳がいい。一定の範囲内いる生物の鼓動を聞くことができる。それなのに、テラスに立つその人間の鼓動にレイは気が付かなかった。
レイ「貴様っ!!何者だっ!!!」
黒い服に身を包み、顔は深くフードをかぶっていてよく見えなかった。ただ、長く白い髪がフードの隙間から垂れ下がっていた。
?「まぁ落ち着けよ。ただ、ここで何かあったのか聞いただけだろ?」
少しレイはパニックになっていた。自分の近くにいる生物の鼓動を感知できる環境に慣れすぎていた。故に、レイの耳をすり抜けて来たこの人物が少しだけ怖いと感じた。
?「主人を守る忠実な下部。いい部下を持っているんだね。ルシエル。」
ルシエル「!」
何故か、ルシエルの名を知っていた。だが、ルシエルは目の前の人物に心当たりはなかった。
ルシエル「何故、僕の名前を?」
?「…ぁ〜。覚えてない、か。まいったな。」
男は額に手を当てた。
何か困った様子で、何かを考えていた。そして、何かを閃いた様子をみせた。
?「ぁ、これか。顔が見えないからだな?」
ルシエル「?」
そう言って、その人物は黒いフードを取った。靡く白い長髪に雪よりも白い肌。尖った耳と唇の隙間から見えるまるで牙のような八重歯。真っ白なまつ毛と鮮血のように赤い瞳。
その姿はまるで人とは思えない風貌であるが、神々しく美しい顔立ちが神秘的だった。
だが、ルシエルにはその人物に見覚えはない。
ルシエル「…?」
?「え。マジ??わかんない?」
ルシエル「……わからない。何処かで会っただろうか?」
?「なっ。」
その人物はその場に落ち込んだようにしゃがみ込んだ。
美しい顔立ちとはいえ、背丈はかなりある。綺麗な声ではあるが低音で男であることは間違いない。こんな特徴的な見た目の人物。どこかで会ったことがあるのなら、忘れるわけはない。
ルシエルの前にいるレイの手は震えていた。レイの耳でも感知できなかった上に、人とはかけ離れた異次元の見た目。だが、ルシエルは何故かその人物に恐怖心はなかった。
男はフラフラと立ち上がると、はっと息を吐いた。
?「まぁいい。連れ去るまでだ。」
レイ「貴様っ!!」
?「お前、邪魔。」
レイは反応できなかった。いつの間にか男が目の前まで来ていた。レイの視界が男の手ひらで覆われたその瞬間、一瞬強い風が吹いて、目の前に大きな背中が現れた。
レイ「っ…アヴェルタっ!!」
アヴェルタ「大丈夫っすか!?レイ!!」
突如現れたアヴェルタは、謎の男を体当たりで突き飛ばした。だが、男は無傷でそこに立っていた。
レイ「何故お前がここにいる!!屋敷で待機なはずだろ!?ルシエル様のことは私がっ!!」
アヴェルタ「それは後から説明するッス!今はあいつからルシエル様を守る事が大事ッス。」
そう言ってアヴェルタは背中から剣を取り出した。レイもそれを見てアヴェルタの隣りで剣を構える。
レイ「っ…チッ、私の耳は使えない。貴様の風でどうにかできるか?」
アヴェルタ「それが…、この部屋に入ってから、力を使おうとすると、強制的に無効化されるんすよね。」
レイ「!!」
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