079⚫️平和と武器・兵器・武装の伝播の関係
北の大陸と西の大陸の諸国家は、いまや相互に同盟を結び、南の大陸からの侵攻に備えている。
しかし、ひと昔前の両大陸では、限られた資源と食糧を巡って国家間の争いを繰り返し、決して良好な関係ではなかった。
状況を変えたのは、ラベンダー公国による大量の穀物生産と、その安価な流通である。
これにより北の大陸は、いくつかの不幸な戦争を経て実質的に統一され、ボレリア国王アーサーを盟主とする安定体制が築かれた。アーサーは姉テレーゼと共にラベンダー公国と連携し、ラベリアや部族国家とも理想的な相互補完関係を形成している。
西の大陸もまた、コロニア・ラベリアの統治者ゴライブ・デ・ヴラドルフ伯爵を中心に経済・文化交流を拡大した。特に食文化の伝播は顕著で、調理材料から調理法に至るまで広く共有され、共通の生活文化を生み出している。
こうして築かれた恒久の平和、’パクス・ラベリアーナ’は、しかし南の大陸の侵攻によって急変する。
各国は兵の増員と武装の強化を進めたが、ラベンダー公国が保有する電撃兵器、すなわち矢の’静雷’や剣の’雷牙’といった先端技術は普及していない。
その理由のひとつは、平和であったからだ。
強力な武器が不要となり、害獣・害虫対策も確立されたため、各国は軍備より生活物資の改善に力を注いだのである。
もうひとつは、これらの兵器が悪用される危険性があったためである。
電撃による非殺傷制圧は、裏を返せば、戦闘技術や体力に関係なく他者を容易に無力化できるということだ。血を流さず短時間で犯罪が可能となれば、一定数の悪意ある者が利用する可能性は否定できない。
だが、新たな侵略者が現れたとき、状況は一変する。
旧来の弓矢・槍・刀による戦闘では、戦術や戦略の優劣に加え、軍事物資の量が勝敗を左右する。
新技術を用いた新戦法が偏在しているという事実は、公国の周辺諸国を除けば、他の国家は旧態依然とした武装に頼らざるを得ないという現実を突きつけるのである。




