072⚫️どこ行きの船?
人間には欲がある。
知りたいことを知ろうとする欲、会いたい者に会うという欲、
数えればキリはない。
それらの多くの欲の中で、しばしば’見る’・’聞く’・’嗅ぐ’・’触れる’・’味わう’、
の5つがその基本であると言われる。
着目すべきは、’味わう’のでなはいだろうか。
他の欲に比べ、食べることには胃袋の限界がある。
古代の栄華を極めた国での富を極めた階層は、
一度満腹になったあと、その飲食物を吐き出してあらためて食事をしたという。
つまり五感の中で、限界が明らかに存在し生存本能を満たす最も基本的な欲が、
味覚にあると言えるのではないか。
最高の美食を知ったものは、ある意味で不幸である。
その記憶が薄れるまで、美味という感動を文字通り味わえないからである。
「おい、元気か?なんだ、お前もか。」
「そっちだって・・・なんか痩せてきたんじゃないのか。」
「うん・・・。北の大陸で食べた’テリヤキ’が忘れられん。」
「あっ、やっぱり!おれもあの酒、’ムゲンサイ’、もう一度飲みたくてたまらん!」
「他の連中もおんなじような・・・禁断症状っていうのか?どうも毎日、やる気がでなくってな。」
「・・・ここだけの話だぞ。・・・北に行く商船があるらしい。向こうに着けば、なんとかなる。」
「えっ、そうなの?いついつ?おれにだけ、教えてくれ・・・。」
こらあ!なんでこんなに大勢が詰めかけてるんだ?!
わしの船に乗ろうとするんじゃない!
わしらは大陸の西に向かうだけだ!
だれだあ、北の大陸行き、なんてデマを飛ばしたヤツわあ!




