071⚫️なぜ悲しそうなのだ?
ガルド・バルハインは、捕虜交換に出向いた。
’交換’としてはいるが、実質的には引き取りである。
北の大陸への途上にある小島。それは南北大陸の航行のちょうど中間地点にある。
もとより通商は多くはない。たまたま漂流した船が流れ着く、その潮流の行き先。
北からも南からも、難破した船やその乗組員が辿り着く位置にある。
古来よりそこで偶然出会った者同士で、互いの故国については知っていた。
だが、その海路を行き来するだけの船と航海術がなかったのである。
しかし、この数世代の間に帆船の建造技術は、
期せずして両大陸で同じ様に進歩した。
逆風に対しても前進する技術、外洋の荒波に耐える船体、
食糧の保存方法の工夫。
何よりそれらを後押ししたのは、
見果てぬ世界を見たいという本能的な欲求があったことは言うまでもない。
世界の端はどうなっているのか。
太陽は沈んだあと、どのように昇ってくるのか。
夕陽はなぜ大きいのか、雨はなぜ降るのか、雷は神の怒りなのか。
自分たちの世界を中心に回る星々、満ち欠けする月。
ヒトの好奇心は、ついに遠方の大陸への到達を可能にしたのである。
「将軍閣下、下船のお支度を。」
部下に促されて、バルハインは白昼夢から覚める。
捕虜を引き取り、王都にもどり鍛え直す。
海王国家ではない自分たちには、まだまだ学ぶことが多いのだ。
闘う前に座礁し、敵に助けられるなどという汚名は雪がねばならぬ。
自軍の兵をひと目見て、バルハインは違和感を覚えた。
なぜ、悲しそうなのか。捕虜という状態を脱し、祖国に帰るというのに。
こころなしか、彼らの体つきが兵のものではなく、
弛みきった富裕層のそれに見える。
何があったのだろうか。
バルハインの疑問をよそに、引き渡しの手続きは粛々と進む。
だが、兵たちの沈んだ眼差しだけが、彼の胸に重く残った。




