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第5話「サンドワーム」‐②

 一触即発、火花を散らす魔法使いたちを置いてタイハクは一目散にその場を去る。


 早まる歩調は向かい来る人波を躱し、難なく通り抜けていく。検問待ちの商人隊の横をすり抜け、上手く逃げおおせたアバニと合流し海へ爪先を向ける。突如背後で派手な光と音が散った。野次馬の声が木霊する。驚いたアバニを落ち着けようと顔を上げたタイハクの目前を荒れ狂う馬車が駆け抜けていった。車を引く栗毛の馬体は、荒ぶりながら町の方へ駆けて行く。


「そうか、さっきの閃光に驚いて──!」


 臆病で繊細な生き物のことだ。これまでの足止めで負荷がかかっていたところに、さきほどの閃光が一押しになったのだろう。恐慌状態の馬は壁にぶつかろうともその足を緩めることはない。馬の主だろうか、懸命にその後を追っているが人の足で追いつくはずもない。


「アバニ! ごめん、本当にごめん!」


 名を呼んで何度か手綱を引っ張れば、栗色の目がこちらを向く。鼻先を撫で、タイハクは迷いなく灰の背に飛び乗った。促すより先にアバニは駆け出す。ぐいぐいとスピードを上げ、簡単に暴走馬車の後ろに着けることができた。馬車から落ちてくる物品を跳んで躱し、横へ進路をとり並走を試みる。栗毛の馬の頭部にはどこかで引っ掛けてきたのだろう、布が被さっていた。


 咄嗟に栗毛の馬へタイハクは飛び乗る。荒れ狂う背にしがみつき、冷や汗をかきながら手綱を探す。馬具に引っかかっていたそれを外して引こうとするも、馬は止まらない。


「クソ、気づけ、気づけ!」


 ぐっと引けば、反動で頭部に引っかかっている布が動く。一瞬、上下に揺れていた背が落ち着く。目の前まで伸びてきた布をむしり取って、もう一度強く手綱を引いた。荒ぶる鼻先を見、何度も何度も、鞍上に己がいることを知らせる。激しく壁に衝突をした。振り落とされまいと必死にしがみついていた腕に激痛が走る。側頭部を突き抜けた痛みに意識を刈り取られそうになるが、ぐっとこらえて姿勢を取り直す。


 粘りに粘り、その背からタイハクが振り落とせないこと、もう脅威は周りにないことを悟ったのか、馬は動きを止めた。


 呆然としている様子の栗毛の馬に、アバニが寄っていき、なにかやり取りをしている。その間にやっと地面に降りたタイハクは馬具を外してやり、ようやく息をつけた。どっと冷や汗が流れ落ちる。身で風を切る速さの馬から落下していたら、どうなっていたことだろうか。遅れてやってきた危機感に思わず息を止めた。


「……ありがとう。重かったろ、荷物背負ったまんまだったな」


 ばたばた、と向こうから馬の主人らしき男が走ってくる。彼に馬具を押し付けるようにして返し、タイハクはさっさと路地に逃げ込む。遠くに見えた警備隊はタイハクのことが見えていただろうか。もう一歩、踏み出したところでぐらりと視界が揺れた。先のダメージが予想外に大きかったことを地に伏せながら悟る。アバニのか細い鳴き声が耳の奥で聞こえる。


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