第13話「魔女」‐①
馬を連れた旅人の言葉を頼りに、魔女がいるという廃寺院を目指す。たまに道行く人に道を尋ねつつ、黙々と三人と二頭は歩いた。小さな町と言っても、徒歩で移動するとなるとそれなりの距離があるらしい。それらしい場所に着くころには、空が赤くなりかかっていた。町の端にあると言われていたが、辛うじて砂丘に飲まれていない、という風に見えた。砂に埋もれた家屋跡や、木の根が一歩進むごとに靴先に引っかかる。山に添って木の葉と盛る草むらが嫌に目についた。もう少し進めば、自然に埋もれるようにして崩れかかった建物が見えてくる。
「これ、たぶん廃寺院よね?」
「思ったより……荒廃していないな」
ラウの言う通り、建物の形自体は残っている。壁面も一部は崩れかかっているものの、雨風をしのげる程度の強度はあるらしい。周囲の勢いの凄まじい草むらのせいだろうか、実態よりも荒廃して見えてしまう。
「最近廃寺院になったとか?」
「そうだと思う。ここまで人が寄らない理由があるのかな」
草むらには踏み分けた痕も、除去した痕も見当たらない。そんな草を踏み分けて、タイハクは寺院の中を伺う。中もところどころ床から草が生えている。家具や道具類は放置されたままになっていた。ひときわ大きく空いた壁の穴からは、砂が吹き込んでくるのだろう。軋む床板には浅く砂が積もっていた。
「人はいなさそうだな……」
「この中にいるって聞いたの?」
「ええと……近くにある巨木の洞って言ってたな」
「え? その人……とんでもなく小さいの? その話嘘だったりしない?」
「言われてみれば……」
「大丈夫なのか……?」
三人は一度廃寺院を出、付近にあったもう一つの寺院を尋ねる。ちょうど掃除の途中だったのだろう。僧侶が玄関前を一人で掃いていた。
「すみません、あそこの寺院についてちょっと伺いたいんですけど……」
「あそこ? ああ、なんでまた、そんなことを」
眉をひそめた僧侶に、タイハクは重ねて問う。
「あそこに怪我を治すのが得意な人がいると聞きました。けど、どこにいるか分からなくて……」
ええ、と僧侶は小さな言葉を吐く。なにかを知っている、その確信だけはあるものの、どうにも口が堅いのか。タイハクはもう一度向き直って頭を下げる。
「怪我人がいて困ってるんです。少しでもいいんです。教えていただけませんか」
深々と下げられた頭に、ラウとオウも倣って僧侶に頼み込む。なかなか顔を上げない三人に対し、彼は狼狽えているようだった。箒の柄をしきりに握り直し、長く長く逡巡した後に再び口を開く。
「……と言ってもなぁ。確かに助けてくれはするが、酷い約束を取り付けて一生こき使われるんだと聞いた。約束を破ると……助けてもらったのも無かったことにされて、死ぬらしい」
「そ、そんな……そういう感じなの……?」
「あの寺院の脇に大きな木がある。そこに手土産を持って行くと、招待されるそうだ……おれから聞いて行った、なんて絶対言うなよ」
そう言い切って僧侶は無理やり話を終わらせる。箒を片付け、さっさと門のうちに入って施錠をした音がした。気づけば黄昏時。町の端に人の気配はほとんどなく、烏が鳴きながら寝床へ帰っていくのが見えた。やっと涼しくなった風が、そっと汗ばんだ頬を撫でる。
「手土産……どうしよう、なにかあるかな?」
「あまりいいものはないな。シュリープがあるが……一つじゃさすがに難しいだろう。かといって、これ以上渡してしまうとなると、オッカたちが心配だ」
「手土産なしでどうにか通してもらえないかなあ」
「さすがに厚かましすぎるんじゃ……」
オウの言葉に、ラウは眉を下げる。
「明日、適当になにか見繕ってからじゃないと難しいかもしれないな……今日はどこかで宿をとるしか……」
「ね、ラウさん。一回だけ試させて。それでダメだったら宿を取ろう! じゃなきゃ気が済まないのよ」
「なんでそんな……」
「やれることは全部やっとこ!」




