SIDE 伊緒 -カオス-
どうしたら良かったんだろう。
菫さんが受話口で言った”付き合ってる訳じゃない”。
これを受け入れるのに、脳が遅滞する。
あれから一週間が経過していた。
解んない。
その足で菫さんのアパートのドアを叩けば良かったの?
次の日にでも図書館に行き、想いを告げれば良かったの?
「田口、この返却図書、棚に戻して。」
同じ図書委員の津田に言われ、俺は何冊かを手にし、図書室を歩き回る。
「この織戸悠ってお前がよく読んでるやつだろ?何か賞、取ったよな?母ちゃんが買ってた。」
それ、菫さんから借りるって言ってた本だ。
「面白かったって?」
「んあ?何か深い、とか、解ってんだか解ってねーんだかの感想だったな。」
津田が鼻で笑った。
織戸悠の作品は、時折、彼の中だけで話が進行しているような描写がある。
勿論、それを理解させるだけの布石は、作品の何処かにあるのだが。
全てに受け入れられる推理小説だとは思わない。
・・・俺の中だけで、恋の様な気持ちを押し進めていた?
菫さんに想いも伝えず?
”キスしたい”と言った事や、彼女を抱きしめたいと言う感情は彼女の中に
布石として伝わっていただろうか。
・・・伝わっていなかった。
これは現実で、ストーリーではない。
言葉にしてぶつけなければ伝わらない事だってある。
菫さん、貴女は知らないだろうけど、俺は貴女の名前をもうずっと前から知ってました。
3ヶ月前、初めて菫さんに図書館で声を掛けられて、お茶をしたファミレス。
貴女が「安藤菫」と名乗った時、俺の心臓が跳ねたのを貴女は知らないのでしょう?
2年になって図書委員になった俺は、当番の日に図書室の端末をいじくっていた。
端末上に素通り出来ない程の”アンドウ スミレ”と言う名前。
”アンドウ スミレ”で検索を掛ければ、彼女がどんな本を何日間借りていたのか判ってしまう。
この時から菫さんの名前は、俺の中にインプットされていた。
「そーいやお前、年上のセフレどうしたよ。」
「いつ俺が菫さんをセフレだなんて言ったよ。」
「え?付き合ってんの?5歳も年上と?」




