SIDE 伊緒 -感情-
寝ても覚めても。
って、こういう事を言うのかな。
菫さんの事で頭がいっぱいだった。
「伊緒、1年来てるよ?」
名前を呼ばれて顔を上げると、2年の教室の入り口に女子の人影があった。
「あぁ図書委員の人だよね、何?」
俺がその場で話を済まそうとすると、彼女は顔を赤らめて俯く。
「あの・・・向こうで話、しませんか。」
「え?良いけど。」
家政科室が2階の奥にあって、人けが無い寂しい場所だった。
俺は寒さに肩を縮める。
「先輩、好きなんです。付き合ってくれませんか。」
「は?!」
思わず、そんな返事をしてしまった。
俺は、本を読むしか取り柄の無いような極普通の男子だよ。
「・・・何冗談?」
「冗談なんかじゃありませんっ。」
彼女の必死さに俺は思わず、たじろぐ。
「ご、ごめん・・・でも・・・いや、あの俺、好きな人が居るんだ。だからごめん。」
俯く彼女が今にも泣き出しそうな気配を醸し出した。
泣かれても・・・。
俺は初めての経験に戸惑う。
「じゃぁせめて今日、一緒に帰って貰えませんか?それを思い出にします!」
どうするべきか考えあぐねて、暗くなった通学路を彼女と肩を並べて歩く事になった。
「先輩が本をとても大切にしてる姿が素敵だなって思ったんです。」
彼女が俺に好意を持つキッカケを話してくれた。
それは、菫さんにも言われた一言だった。
「先輩が薦めてくれた本は全部、読んだんですよ?」
「そっか・・・。」
ただこうして歩いているだけで、彼女にとっては”思い出”になるんだろうな。
彼女の家の方に、図書館があった。
俺はそこが近づいてくる事で心がソワソワし始めた。
左腕の腕時計を確認する。
17時をちょっと過ぎた頃だった。
菫さんが早番だったら、図書館から丁度出てくる時間かもしれない・・・。
杞憂に終われば良いのにと思った事は、実際に目の前に存在した。
菫さんが何時ものバッグを手にして、正面玄関から出てきたのだ。
「・・・。」
何かを発するために開きかけた口を彼女は
「こんにちわ。」
と言う言葉に変換し、軽く頭を下げて菫さんは俺の横を擦り抜けた。
「先輩?」
彼女の声がして、軽い眩暈の後の意識を取り戻す。
菫さんの姿は何処にも見えなかった。
彼女を家の近くに送り、直ぐに携帯を取り出す。
何コール鳴らしても、菫さんは応えてくれなかった。




