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第三話 経験

「なんで俺んち知ってんだよ」

「名前で聞いた。カズヤ・ヒカワの家はどこだ!とな」

「外人みたいな言い方すんな」


 朝からリターナが来ちゃった。

 昨日みんなが俺の名前呼びまくるから覚えたらしい。

 田舎の情報網駆使しやがって。

 ああ、きっと変な噂が流れそう。


「この人が噂の外人さん?」

「萌花、もう噂になってるのか?」

「うん、昨日も一緒に歩いてたんでしょ?」


 もう手遅れだったか。

 狭い町での行動はリスクが高い。

 変な事すりゃすぐに噂が広がる。


「お兄ちゃん、浮気なら香菜さんにチクるからね」

「昨日は香菜も一緒だったんだぞ」

「うん、プール行ったんでしょ」


 ダダ漏れじゃないかよ。


「取り敢えず入ってもらえば?」

「・・・用事聞いてから」

「玄関暑いんだから失礼でしょ?」

「・・・靴は脱げよ、外人」


 はあ、仕方ない。

 リビングに通す。


「ううむ、涼しいな。クーラーか?」

「ああ、昨日見たでしょ」

「あれはテレビだな」

「妹の前で当たり前の事聞かないでくれ」

「リターナさんは何歳なんですか?」

「ハタチだ」

「ええ?大人っぽい!」

「ああ、もっといってるかとイテッ!」

「失礼でしょ!」


 いや世界一の魔法使いとか言ってたし。

 若くしてそうなったとは思わなかったんだよ。


「今お茶をお持ちしますね」

「お、お茶か」

「お茶は嫌いらしい」

「そっか、外国の方だから紅茶がいいかな?」

「俺コーラ」

「お兄ちゃんには聞いてないよ」


 やれやれ、どっか行ってくんないかな。

 俺の部屋にリターナ連れ込んだら、大騒ぎ必死だし・・・

 ちなみに親は仕事に行って居ない。


「あれはなんだ?」

「なあ妹の前なんだから・・・クッキングヒーターだよ」

「・・・あっと言う間にお湯が沸いたみたいだが」

「科学だ科学、いちいち反応しないでくれ」

「す、すまん、そうだなおかしいと思われるよな」


 リターナ反省モード。

 そうしてると可愛いな。


「どうぞ、リターナさん」

「萌花、お前受験なんだから勉強してこいよ」

「2人きりになりたいの?」

「そうじゃねえよ」


 ・・・気まずい時間が流れる。

 リターナも何の用だか知らないけど萌花が居るから切り出せない。


ブブブブブブブブ


「うわっ!」

「スマホでしょ?大袈裟なんだから」


 変な緊張感があったからビックリしちゃった。

 ・・・香菜か。


「もしもし?」

「――ねえ和也、今ヒマ?」

「いや、リターナが来た」

「――ええ?どうして?」


 知らん。

 要件はまだ聞いてない。


「――今から行くわ」

「ああ、そうしてくれると助かる?」

「――?・・・へんなの」プッ


 やれやれ、取り敢えず状況を変えたい。


「リターナさんはお兄ちゃんとどういう関係なんですか?」

「うん?ビジネスパートナーになってもらおうかと」

「ええ?どういう事なの?」

「俺にもわからん」

「え、エンコーとか」


 ぶうううううううううう

 コーラ吹いちゃった。

 リターナがモロに被った。


「た、大変!お兄ちゃん何やってんの?!」

「お前が変なこと言うからだろうが!」

「ふ、服脱いでください!お兄ちゃんはあっちいってて!」


 な、なんだよ。

 リビングから追い出されちゃった。


「お風呂に入ってもらうからお兄ちゃんは部屋にいってて!」


 今から香菜が来るというのに。

 変な展開になる気がした。




 そんな訳で香菜が来た。

 部屋に連れ込みイチャイチャしようかと思ったら、リターナがバスタオルを巻いて入ってきた。


「な、なんちゅう格好だよ!」

「ううむ、下着までぶっかけられたからな」

「和也!何をぶっかけたのよ!」

「コーラだよ!」

「妹さんの下着では全然合わなかった。今洗濯してもらっている」

「それにしたってそんな格好で来なくても!」

「妹さんが居ると話が出来ないからな」

『リターナさん、どこー?』

「さ、探してるぞ!こんなとこ見られたら!」

「うわ、転んでしまった!」

「テンプレかよおおお!!」


 バスタオルをはだけ、俺と香菜に倒れ込んでくるリターナ。

 俺はリターナの胸を顔で受け止める。

 倒れながら後頭部には柔らかい感触。

 たぶん香菜の胸だな。

 そのまま倒れこみ、サンドイッチ状態。

 なんでこういう時ってスローモーションになるんだろう。

 目の前には一糸まとわぬリターナが。

 後ろには衝撃でスカートのまくれ上がった香菜が。

 

ガチャ「お兄ちゃん?リター・・・きゃああああ!!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 さて、今の状況を説明すると香菜と萌花が何故か怒ってる。

 リターナはどうしていいか解からずバスタオルで正座状態。

 俺は何もしてないのに針のむしろ状態だ。

 人生って不条理だよね。


「はあ、呆れてものも言えない」

 

 言ってるじゃないですか。萌花さん。


「彼女とまとめて相手しようだなんて」

「バカかお前は」

「バカはお兄ちゃんでしょ!」


 いやお前だ。

 受験は諦めろ。


「もう、ひどい目にあったわ」

「香菜、俺のせいだろうか」

「2人がか弱い香菜ちゃんに倒れ込んできたのよ?」

「お前のクッションのお陰で俺の頭脳は守られたよ」

「バカ」


 どいつもこいつも人の事をバカバカ言いやがって。

 

「服はまだ乾かないのか?」

「お天気だからすぐ乾くと思うけど・・・リターナさんってどこの国の人なの?」

「・・・・・・アメリカだ」

「なんでお兄ちゃんが答えるのよ。変わった下着付けてるんだね。アメリカで流行ってるの?」


 ・・・上着とスカートは葉山の姉ちゃんの物だったはずだ。

 だが下着はリターナの世界の物だろう。


「どんな下着だったんだ?」

「バカ!変態!」パシーン!


 もうなんなんだよ。



 服が乾いたので香菜とリターナを連れ外に出る。

 家の中では妹がいて話も出来ない。

 萌花はついて来ようとしたが、勉強しないとお母さんに言いつけるぞと脅して黙らせた。

 悔しそうに地団太踏んでたな。ざまーみろ。


「で、話ってなんなの?ビジネスパートナーがどうとか」

「ああ、ちょっと考えたんだが・・・」


 おや、商店街に向かってるとヤンキーが居た。

 平野だ。


「なんだ?その外人は?」


 スッポリ記憶が無くなってる様だ。

 昨日の魔法はしっかり効いているんだな。


「俺の姉ちゃんだよ。じゃあな」

「ウソつけ!氷川てめえ舐めてるとマジでぶっ殺すぞ!」

「お前に説明する義理が無いだろうが。一々突っかかって来るから迷惑してるんだぞ」

「て、てめえ!」

「平野、私の事好きだからって和也にちょっかい出さないで。迷惑なのよ」

「か、香菜・・・」

「下の名前で呼ぶのもやめて。親しくしないでよ」


 呆然とする平野。

 良い薬だ。

 これくらい言ってやらないとあいつは理解できない。

 立ち尽くす平野を無視してこの町唯一の喫茶店に入った。


「いらっしゃーい!リターナさんまた来たの?」

「葉山一人か?親は?」

「買い物行ってるよー」


 丁度良かった。

 聞かれたくないからな。

 コーヒーを頼み、席に座る。


「で、なんだったっけ?」

「ああ、ちょっと考えたんだが、こういうのはどうだろうか?私が欲しい物をまずカズヤに買ってもらう。それを私が向こうの金で2倍の金額で買い取る。それをカズヤが質屋で売る。どうだ?得な話じゃないか?」

「いや、俺はまず元手になるお金が無いよ。それに向こうのお金貰っても未成年だから売れないし」

「大人になってから売ればいいじゃないか」


大人になってから売るって言っても純金って価格変動するし。


「元手は?」

「・・・何とかしてくれ」

「無茶言うなよ。俺は学生だぞ」

「信用できる大人を取り込めないか?」

「うーん、香菜、そんな知り合い居るか?」

「信用出来てお金持ってる大人?・・・知らないわね」

「そんな訳だ。諦めてくれ」

「・・・お前が断るなら、ヒラノの記憶を戻して手伝わせるが」

「脅すのか?最低だな。バカを取り込むなら自滅も覚悟しろよ?」

「う・・・」

「あいつは考えなく行動するから回りを不幸にする。そんなもんに巻き込まれるのはごめんだ」


 ちょっと涙目になって考え込んでしまうリターナ。

 思惑通りでは無かったか?

 なにか迷っている様子だ。


「・・・私は記憶を消せるんだから、やろうと思えばこの世界の品物が簡単に手に入るんだ」

「そうしたら?」

「出来ればそんな事はしたくないんだよ。だからこうやって相談してるんじゃないか」

「俺達はまだ親に養ってもらってる状況だ。出来る事が限られてるし、親に迷惑もかけたくないんだよ。自分で責任すら取れない未成年なんだからな」

「・・・・・・」

「平野はそれを解ってないからバカなんだ。何でも出来ると勘違いしていて、やってしまった事の責任を取る能力も無い」

「迷惑をかける愚かさが解ってないんだな」

「大人に協力して貰ってくれ。それで最後に記憶を消せばいい」

「・・・しかし、それでは迷惑をかける事になってしまうじゃないか」

「昨日平野の記憶を消去したじゃないか。何を躊躇うんだ?」

「・・・あの子は『ぶっ殺す』とか言ってたからな。本気とは思わないが、あの子は良くない」

「解ってるんだな」

「ああ、だからビジネスパートナーにはリスク管理が出来る者を選びたいんだ」

「それが俺って事?もっと他にまともな人間はたくさん居るよ」

「それを確かめる機会が無いじゃないか。もしそんな人間が見つかった時には役割を変わって貰っても良い。だがそれまでは・・・」

「・・・どうして俺をそこまで」

「お前は昨日『穴を閉じて欲しい』と言ったからだ。変わった世界が目の前にあれば、好奇心に負けてしまうのが普通ではないか?」

「俺だって興味はあったけど、リスクの方が大きい気がしたんだ。心配性なだけだよ」

「それくらいの方が私としても安心なんだよ。慎重に事を進める事が出来る人間。冷静に物事を考えられる者」

「だからこそ、この提案を突っぱねたいんだが」

「そ、それは困るんだ。なんとか考え直しておくれよ」


 うーん。どうしたもんかな。

 リターナも魔法で無茶苦茶出来る力を持ってるみたいだが、それをするつもりはないと。

 基本的には良いヤツなんだろうな。

 しかし協力しようにも金が無いんだよ。

 高校1年生なんだよ。

 月5千円のお小遣いしか無いんだよ。


「和也、お金貸してあげようか?」

「なんだ香菜、援交で儲けた金でもあるのか?」

「バカ!・・・お年玉の残り5万くらいなら持ってるけど」

「いや、女に金借りる訳にいかないし、リターナの欲望が5万で済むわけがない」

「スマホが10万だったか?他にもいろいろ欲しい」

「スマホはもっと安いのもあるけど月々のお金もかかる。あんなもんよりタブレットPCとかのがお前には実用的だぞ」

「ねえねえ、古いスマホで良いなら持ってるよ」

「葉山、機種変した時のか?」

「うん、勿体なくて返さなかったけど実際持ってても邪魔なだけだった」


 古いスマホでもカメラや計算機なら使えるよな。

 電話、メール、インターネットはリターナに必要ないだろう。


「何でだ?カズヤに物を頼む時に便利じゃないか」

「圏外じゃん。お前の国」

「穴から出てかければ良いじゃないか」

「どのみち住所と口座が必要なんだよ。それに充電もしなきゃいけない」


 ああもうややこしい。

 色々説明した。

 スマホの機能やら、契約条件やら。


「そうか、だがなカズヤ、一番重要なのは」

「重要なのは?」

「電話をかけてる姿がカッコイイ」

「は?」

「一昨日、エリがかけていただろう?あの姿がカッコ良かった」

「・・・・・・」

「今日、カナからかかって来てカズヤがビックリする姿も面白かった」

「ちょっと!なんでビックリするのよ!喜びなさいよ!」

「ま、マナーにしてたんだよ!」


 なんだよ、スタイルから入りたい人なのかよ。


「繋がらないスマホを耳に当てて一人で喋ってりゃいいじゃん!」

「な、なんかそれって悲しくないか?」

「お前みたいなのがスマホ持ったら用もないのにむやみやたらにかけて来るに決まってる!」

「ああ、取りあえず電話番号教えて欲しい」

「断る」

「ええっ?ひどい・・・」

「文字も違うだろ?使いこなせないよ」

「私を誰だと思ってるんだ?古代エルゲルト文字も解読した褐色の魔法使いリターナだぞ」

「知らんわ」

「取りあえず文字を教えてくれ。報酬は透視虫メガネでどうだろうか」

「しょうがないな。引き受けよう」

「ちょっと和也!」

「カナでもいいぞ?マジックバックか脂肪燃焼薬でどうだろうか?」

「マジックバックは欲しいけど・・・」

「脂肪燃焼薬が欲しいです」

「うわ!鏡原さんいつ来たの?」

「私が呼んだんだよー」


 葉山が呼んだのか。

 会えて嬉しいが、巻き込んでいいのかな。


「脂肪燃焼薬ってどれくらい効果があるんだっけ」

「昨日も言ったが脂肪を燃焼させて、体外に排出してしまうんだ」

「リバウンドは無いって事?」

「勿論暴飲暴食すればそのうち戻ってしまうだろうが・・・」


 脂肪吸引手術みたいなもんかな。

 本当に大丈夫なのだろうか。


「り、リターナさんはその・・・使った事は?」

「私はまだ無い。歳をとれば太りやすくなるだろうから使おうかと思っている」

「それでその体なんだ。す、すごい」


 鏡原さんがエロボディに釘付けだ。

 やっぱり憧れるもんなのかな。


「話が逸れてるな。スマホを手に入れるには色々段階を踏まなければいけないのは解った」

「ああ、リターナが契約するのは無理だと思う。プリベイトでも無理だろう」

「金の問題もあるしな、はあ・・・じゃあ取りあえず文字を覚えるか」

「国語の教科書貸そうか?小学生の時のとってあるよ」

「葉山、お前は何でもとっておくんだな」


 捨てられない子なのかな。

 葉山が教科書を持って来た。


「なるほど、あ、い、う、え、お」

「20歳でひらがなの勉強か。なんか可愛いな」

「・・・あ、い、う、え、お」

「香菜までどうした?」

「・・・・・・」

「よし、覚えたぞ」

「はあ?」


 リターナが平仮名覚えたそうだ。

 試しに書かせてみる。

 ・・・字はヘタクソだが五十音覚えてるな。

 本当に頭良いんだな・・・


「書き順が無茶苦茶だったわ」

「・・・それは俺もだと思う」

「形になればいいじゃないか。じゃあ次」


 カタカナだ。


「2種類あるのか?変な国だな」

「3種類だ。本当に変だとは俺も思う」

「ア、イ、ウ、エ、オ」

「しかし言葉は通じるのにあっちの世界の文字は違うんだよな」

「不思議だったわ」

「覚えたぞ」

「ええ?うそだろ?」


 書かせてみる。

 完璧だった。


「漢字?音読み、訓読み?」

「ああ、なんでそんなややこしいのか俺もしらん」

「ふうむ、これは流石に時間かかりそうだ。教科書借りても良いか?」

「いいよー」

「明日までに覚えて来るよ」

「明日も来るのかよ。忙しいんじゃなかったのか?」

「忙しい。だから早くスマホが欲しい」

「・・・そういや、報酬はどうすんだ?」

「教科書がサキの物だから報酬はサキのものだ」

「え?私?・・・じゃあ脂肪燃焼薬を」

「お前胸までスレンダーじゃん」

「う、うるさいわね!・・・絵里ちゃんにあげるよ。欲しいんでしょ?」

「え?そ、そんな!悪いよ沙希ちゃん」

「なあ、心配なんだが。隣の席の鏡原さんがいきなりエロボディになったら授業に集中出来ん」

「え、えろぼでぃ・・・」

「間違えた。試さずにいきなり飲むのは危険じゃないだろうか?」

「試すと言っても昨日も言ったが1錠5万だぞ。お前達の世界の金で50万」

「高いよな。お試しサンプルはないのか?」

「無いよ。1錠で効果が出てしまうんだからあるわけない」


 ふーむ、どうしたもんかね。


「ゴクリ、1錠で効果が・・・ゴクリ」

「ちょっと、鏡原さんが不穏な空気を出してるけど」

「鏡原さんが意地汚くいきなり薬を飲むはずないだろう?さっき遠慮してたし」

「沙希ちゃん、さっき私にくれるって言ったよね?」

「見て和也、女は裏切る生き物なのよ」

「ああ、今すげえショックだわ」

「う・・・ど、どうしても、どうしても私には必要なのお!」ゴクンちょ


 鏡原さんが脂肪燃焼薬を飲んでしまった。

 好きな気持ちが95から65くらいに下がった。

 葉山が慌てて水を持って来る。

 水無しで薬飲むと喉に引っかかるかもしれないもんな。

 葉山結構優しいんだな。


「うっ!」

「ん?鏡原さんどうした?」

「ちょ!ちょっとお手洗いに!!」


 慌ててトイレに駆け込む鏡原さん。

 でっかい方かなぁ。

 鏡原さんもトイレ行くんだな。

 当たり前か。


「和也、何考えてるの?」

「今度トイレするとこ見せてくれよ」

「見せる訳無いでしょ」


 あ、鏡原さんが出て来・・・た・・・


「絵里ちゃん!す、すっごいスリムに」

「すごいわね。顔もシュっとしたわ」


 俺は最初、鏡原さんのどこに贅肉が付いてるのか解らなかった。

 しかしトイレから出て来た鏡原さんは別人のように無駄な肉が削ぎ落され、かといってガリガリでもない、洗練された体。

 胸は変わってないのだろうが、他の部位の贅肉が落ちたせいかやたら自己主張をしているように見える。

 すげえ。こんなに変わる物なのか。

 好きな気持ちが85くらいに戻った。

 すげえ・・・


「効果は解っていただけたかな?じゃあ私は今日は帰るとしよう。サキ、教科書ありがとうな」

「え?う、うん。また明日ね」

「沙希ちゃん体重計ある?」

「う、うん。お風呂場にあるよ」


 ・・・即効性がすげえな。

 いや、効果を見て呆気にとられたわ。

 魔法ってすげえ。


「はあ、ビックリした」

「とんでもないわね。スマホなんかよりも全然凄いと思うけど」

「無い物ねだりなんだろうな」

「絵里ちゃんが6kgも痩せたよー」

「さ、沙希ちゃん!言わないで!」


 無駄な物が6kgも付いていたのか。

 じゃあトイレで6kgも出して来たって事?

 すげえな。よく詰まらなかったな。

 一度に6kgもの排泄。これはギネス記録では無いだろうか?

 鏡原さんがあの可愛い顔で6kgもの・・・


「和也、いやらしい顔してるわよ」

「そうか?香菜、俺の事好きか?」

「今聞かないでよ」


 長い茶髪をかき上げ、フンと横を向く香菜。

 香菜は6kg落ちたらガリガリだろうな。


「さて・・・じゃあお開きにしますかね」

「沙希ちゃん、本当にありがとうね!」

「絵里ちゃん、いきなりこんなに痩せて家に帰って大丈夫なの?」

「う・・・な、夏バテって事に」


 まるで恋をして綺麗になった様な変化だ。

 夏休みにひと夏の経験をしたかのような。

 何言ってんだ俺は。


 喫茶店を出て、鏡原さんと別れる。

 まだ時間あるな、デートでもする?


「お金あるの?」

「うーん、リターナのコーヒー代やら貸水着代やらプール入場料やら」

「もう、彼女に奢りなさいよ」

「本当だよな。バイトでもしよっかな」

「バイトなんてしたら会うヒマ無くなるじゃない」

「そうだな、勉強も疎かになったら本末転倒だ」

「異世界のお金はまだあったわよね」

「・・・うん、あるけど」

「向こうでデートしましょうよ」

「昨日も言ったけど、あんま行きたくないんだよな」

「異国で初体験とか素敵だと思わない」

「よし行くか」


 家に戻って異世界の金をとって来た。

 萌花に捕まりそうになるが、デートの邪魔すんな。

 香菜の姿を見て諦めてくれた。


 林道に向かい、穴の前に来る。

 周りに誰も居ないよな?つけられてないよな?

 慎重に穴を通る。

 一瞬の暗闇の後、昨日と同じ建物の中。

 一応メモ用紙持って来たんだよな。

 昨日鏡原さんがメモ残してるの見て便利だなと。

 壁際にある机の上に置いておく。

 一応こっちに来てる事を書いておくか。

 リターナが不測の事態で穴を閉じてしまわないように。

 心配し過ぎかな?


「さて、今日はどこ行く?」

「西は行かない方が良いのよね?」

「ああ、女は行くなって話だ」

「じゃあまた東に行きましょ?途中で北か南に・・・」


 そうだな、昨日と違うルートを通ってみるか。

 そう思ったけどいざ曲がろうとして見ると、寂しそうな路地ばかり。

 ここ曲がっても何も無さそうって場所ばかり。


「結局昨日と同じルートだな」

「ここがメインストリートなのかしら?」

「そうかもな」


 突き当りを左に曲がる。

 しばらく進むと昨日と同じ場所にジュースを売ってる屋台がある。

 昨日はここで葉山達の居場所を聞いた。


「飲むか?」

「今日は良いわ」


 そうか、じゃあ昨日はロクに見る事が出来なかったし、街をゆっくり見て見るか。

 

「ねえ、あれ何かしら?」

「変な人形だな。何に使うんだろ?」

「いらっしゃい、呪い人形はいかがかね?」

「の、呪い人形?!」

「ああ、呪いをかけたい相手の髪の毛をこの背中に入れて、釘で打つと相手を呪うことが出来るよ」

「・・・相手はどうなるの?」

「三日三晩寝込むよ。効果は折り紙付きだよ」

「・・・犯罪にはならないの?」

「死ぬわけじゃないからねえ」


 な、なんちゅう世界だ。

 そんな危険な物が白昼堂々お店の軒先に売ってるとは・・・


「一つ下さ~い」


 え?・・・耳の長い女の子が買いに来た。


「はいはい、誰を呪うんだい?」

「兄弟子のセクハラが酷いんで使おうかなーって」

「それはいいね。懲りさせるには良い薬だよ」


 ・・・いろいろと倫理観が違うんだな。


「ねえ、こんな人達が私達の世界に来たら大変だと思うわ」

「ああ、リターナは良識ある方だったんだな」


 ただでさえヨーロッパでは移民問題が深刻だ。

 こういう事なんだろうなと肌で感じた。


 他の店も見て回る。

 ・・・あれは武器だよな?

 刃渡りの長い鈍い輝きの頑丈そうな剣。

 こんなの相手を殺す事を目的としてるとしか・・・

 ふと回りを見渡す。

 ・・・帯刀してる人は・・・居ないな。

 どういう人が買うんだろう。


「ああ、自衛のために家に置いてる人が多いよ」


 アメリカの銃みたいなもんか。

 外には持ち歩かないけど、迎撃の為か。

 でもそういう物が必要な世界なんだな・・・


「ねえ」

「ん?どうした?」

「あ、あれ、宿屋じゃないかしら?」

「おう・・・おう!そうだな!」


 俺達は宿屋に入る。

 先払いか。どんと来い!


 俺と香菜は二時間ほど宿屋で過ごした。

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