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第ニ話 初異世界

 次の日の朝。


「お兄ちゃん!香菜さんが来てるよ!」

「・・・ああ萌花、今何時だ?」

「9時だよ、寝癖ついてるから直してから行ってよね。恥ずかしいんだから」


 ああ、良く寝た。

 結構疲れてたのかな。

 11時間くらい寝ちゃったわ。


「おはよ~」

「寝てたのね。丸聞こえだったわよ」

「おはよー!氷川」

「ああ、葉山も来たのか。鏡原さんは?」

「絵里ちゃんはお家の手伝いだよ」

「じゃあ俺もっかい寝ようかな」

「後で合流するかもって」

「そうか、顔洗って来る」


バシャバシャバシャ


 ふいいい、スッキリした。


 香菜と葉山を連れ林道へ向かう。

 途中ヤンキーが待ってた。


「おう!おせーぞ!」

「お前ヤンキーなんだから昼過ぎまで寝てろよ」

「バカヤロウ!不摂生な生活で健康な体が維持できるか!」

「健康に気を付けるなよ。酒とタバコに溺れろよ」

「・・・氷川、お前薬でもやってんじゃねえだろうな?許さねえぞ」


 心配されちゃったよ。

 やっとらんわ。

 俺の言動におかしなところでもあると言うのか。

 灰皿を割った事もなければ、新宿2丁目に行った事も無いぞ。


 4人で穴の前に行く。

 褐色の魔法使いリターナが穴の前でもう待ってたわ。

 

「昨日も言ったけど穴を隠して欲しいんだが」

「ああ、そうだったな」


 リターナが短いステッキのような物を出し、穴に向かって何かを念じる。

 黒い穴が見る見る消えていく。

 

「へえ、本当に魔法使いだったんだな」

「完全には消えてないけど薄くなったね」

「場所が解らなくなると困るからな。私は土地勘が無い訳だし」

「それで和也、今日はどうするの?」


 香菜が長い茶髪をかき上げながら聞く。

 

「まず金が無いんだよな。俺達もリターナも」

「私は金ならたくさん持ってるぞ」

「こっちの金じゃないでしょ?」


 リターナが懐から袋を出す。

 金貨か・・・これ純金なのかな。


「これってどれくらいの価値なの?」

「1枚で1万クランだ。安い馬が1頭買えるくらいの価値だな」

「よく解んないな」

「それ、質屋に持って行ってみたら?」

「そうだな。いくらくらいになるか解んないけど不満なら売らなければ良いし」

「おい、俺は向こうの世界が見たいんだが」

「行って来いよ。ほれそこだ」

「・・・解ったよ。ちょっと一人でぶらついてくらぁ」

「え?行くの?ねえ、大丈夫なの?」

「エルーダは治安は良いがとてつもなく広いぞ。行っても良いが迷子になっても責任は持てん」

「だってよ。自己責任で行ってくれ」

「迷子なんかになるかよ。なめんな!」

「え・・・と、じゃあ私も一緒に行ってくるよ!」

「葉山もか?女の子が行っても安心な街なのか?」

「街の西側にだけは行くな。女はあまり行かない地域だ」


 西側に何があるんだろ。

 風俗街でもあるのかな。


「行くなら気を付けてな。スマホとか見せびらかしてると盗られちゃうかもしれん」

「そ、そうだね。気を付けないと」

「なんだァ?氷川、女の心配はするんだな」

「当たり前だろ。15歳の女の子がヤンキーと見知らぬ町へ行くんだぞ」

「ケッ!ナンパ野郎がッ!」


 いざとなったらお前守れよ?

 平野と葉山はぼやけてしまった穴の中へ。

 人が消える姿を見ると不安になるな。

 何も無いと良いけれど。


「じゃあ俺達は質屋へ行くか」


 リターナを連れ俺と香菜は街の質屋へ。

 でも、この街に質屋なんかあったっけ?

 へえ、こんな場所に質屋が・・・

 狭い町だけど知らなかったな。

 普段用事の無い場所だから見過ごしてたんだな。


「純金ですな。見た事無い金貨だが・・・重さからしてこれ1枚で10万くらいの価値がある」

「おお、すごいな」

「お金持ちだったのね」

「10万?何が買えるんだ?」

「このスマホが大体10万くらいかな」

「そうなの?プランがややこしくて実際の値段があやふやなのよね」

「解りにくくしてあるんだろうな」

「そうか、スマホが買えるなら金貨を売っても良いぞ」

「すぐ買える訳じゃ無いけど・・・取りあえず換金しちゃうか?」

「ああ、住所やコウザってのが要るんだったな。だが取りあえず換金してしまおう」

「よろしいですか?では身分を証明するものをお願いします」

「・・・え?」

「なんだそれは?」

「高額取引になるので身分証明書が必要になります。盗難品だったりすると困るので」

「な、なんだと!私は世界一の魔法モガモガ」

「す、すみません!出直して来ます!」


 暴れるリターナを引きずり店の外へ。

 いてて、落ち着けよ!

 

「はあ、身分証が要るんだな」

「知らなかったわ」

「なんだ、お前達の世界の事なのに知らなかったのか?お陰で泥棒扱いだぞ」

「そんな大げさなもんじゃないよ。ただ俺達の世界は過剰なほど情報を保存したがるんだ」


 顧客情報とかな。

 よく流出するあれの事。

 流出したところで企業は何の責任も取らないのに、やたら集めたがるよね。

 情報売ってるだけなんじゃねえの?って勘繰りたくなる。


「どうする?私達が代わりに売ってあげる?」

「いや、未成年じゃ駄目だろ。信用が無いもの」

「親に頼むとか・・・」

「どう話すよ。得体の知れない金貨をどこで手に入れたんだ?って話だ」

「大金となると心配しそうよね」


 リターナの存在を説明するのもメンドクサイしな。

 というか信じて貰える気がしない。

 

「なあ、ここで時間を潰すほど私もヒマでは・・・」


バタバタバタバタバタ


「な、なんだあれは?!」

「ヘリだな。だれか山で遭難でもしたのかな」

「ヘリ?」

「あれで人間や物資を運ぶんだよ」

「な!・・・人間が乗っているのか?!」


 ヘリがあっと言う間に消えていく。

 それを呆然と見つめるリターナ。


「・・・あれはいくらで買えるんだ?」

「知らんけどすごく高いと思う。操縦も難しいんじゃないかな」

「ほ、欲しい。絶対に欲しい!」

「うーん、参ったな。香菜買う方法知ってるか?」

「知る訳無いでしょ」


 取りあえず何をするのも金が必要だ。

 しかしそれを準備するのが一番大変。


「どうしたもんかな」

「こっちでお金稼いでもらうとか?」

「どうやって?」

「魔法使えるんでしょ?占い師とか・・・」


 ああ、路上の占い師とかならハードル低そうだ。

 仕事に必要な色んな面倒な許可とか必要が無い気がする。

 目立つ容姿も占い師なら許容範囲だ。


「働くのか。さすがにそんな時間は無いな」

「そりゃそうか。向こうでは何の仕事してんの?」

「・・・いろいろだな。国家に関わる仕事もしている。内容は言えん」

「世界一の魔法使いって話だったな」

「向こうで私の事を知らない者は居ないよ」


 さて、こんな話してても仕方ない。


「お金は後回しにしていろいろ見て見ようぜ」


 取りあえず興味持ちそうな店に行こう。

 まずは電機屋。

 自動ドアにビビるリターナ。

 おっかなびっくり中に入ると案の定興味津々だ。

 テレビ、デジカメ、クーラーがお気に入りだったみたい。

 向こうで使えるとしたらデジカメくらいかな。

 いや、充電の問題があるか。

 乾電池で動く物なら向こうでも実用的なんだけどな。


「大きな街行けばもっと大きな家電量販店があるんだけどな」

「そうか、ここから遠いのか?」

「うーん、電車で10分くらいかな」

「電車?」


 電車見に行くか。

 田舎だからそんなに本数が無いんだけど。

 駅に向かう途中で丁度踏切に通りかかる。


カンカンカンカン


「な、なんだ?!」

「丁度いい。電車が来るぞ」


 レールを走る鉄の塊。

 巻き起こる風に仰け反るリターナ。

 目を見開き固まる。

 あっと言う間に電車が通り過ぎる。

 リターナはしばし身動きが取れなくなった。


「な・・・なんだったのだ。」

「人が乗ってるの見えたか?」

「あ、ああ、ポツポツとだが」

「田舎だからな。朝夕は500人くらい乗ってるぞ」

「ご、500人・・・」


 踏切が上がり、レールを調べるリターナ。

 危ないぞ。踏切内で止まっちゃ駄目だよ。


「凄い仕事だな。歪みなく真っすぐだ」

「どうやって作ってるんだろうな」

「・・・ここに来るまでの建物一つを見ても、私の世界とはレベルが違うな」

「科学が発展してる国だからな。アフリカなんかに行けばリターナの世界より発展してない国も多いよ」

「ううむ、なるほど・・・」


 リターナが何やら考え込んじゃった。


「ねえ、飽きて来ちゃった」

「ああすまんな。放ったらかしにして」

「プールにでも行きたいわ」

「うーん、リターナ、一度にいろいろ見ても処理しきれないから、遊びに行かないか?」

「・・・ん?あ、ああそうだな」


 近くのプールに行くか。

 安いし水着も貸し出してくれる。

 途中でリターナが自動販売機に興味を持つ。

 はいはい買ってあげますよ。

 お茶で良いの?

 ・・・気にいらなかったみたいだ。

 しかし冷たさに驚いていた。


 プールに着いた。

 リターナの分は俺が払うの?

 はいはい、仕方ないな。


「おお!すげえ!」


 水着を着たリターナは凶悪的なエロさだった。

 ビキニからはみ出しそうなおっぱい。

 折れるんじゃないかと心配になるくらい細い腰。

 南米の人みたいなプリっとした上向きの尻。

 褐色の肌にオレンジの水着が映える。


「ちょっとー、和也見過ぎじゃない?」

「いやでもよう、みんな見てるぞ?」

「・・・確かに、香菜ちゃんが霞んじゃうわね」


 いつもは人の目を集める香菜も、隣にこんなエロボディが居た日には視線取られちゃうわな。

 

「泳ぐ場所だったのか。私は泳げないんだが」

「浮輪借りて来るわ。和也お金」

「はいはい」


「こ、これは?」

「中に空気が入ってるんだよ。それで水に浮けるから」

「あの子も使ってるわ。同じようにしてみて」


 俺達の視線の先には小さい子供。

 楽しそうに浮輪を使ってバシャバシャ遊んでる。

 リターナが真似をして・・・おっぱいがつかえるみたい。

 足から浮輪を通す。

 尻にすこしつかえてしまったが、なんとか腰に収まった。


「むう、本当に浮けるのか?少し心配だ」

「足も付く深さだと思うけど」


 恐る恐るプールに入るリターナ。

 浮輪が胸の位置まで上がり、おっぱいを押し上げる。

 す、すげえな。


「和也」

「なんだよ」

「彼女の事も少しは見なさいよ」

「ああ、お前も良い体だぞ」

「褒めるのが遅いのよ!」バンッ!

「わ、わあ!」


 香菜にプールに落とされる。

 水中にはリターナのエロボディが。

 ああ、このままずっと潜って居たい。


ざぱぁ「ぷはぁ」

「え~い!」


 水中から出た瞬間、香菜が飛び込んで来る。

 大きく水しぶきをあげ、目の前が見えなくなる。


「うおお!」

「あはははは」

「お、おい、あまりはしゃぐな」

「ごめんごめん、リターナは水が怖いの?」

「泳げないんだよ!波をたてないでくれ!」

「イヤラシイ体のクセに随分可愛い事を言うんだな」

「いやらしい体は関係無いだろう。というかいやらしいのか私の体は」

「周りを見渡して優越感とか感じないの?和也なんて食い入るように見てるわよ?」

「しょうがないじゃないか。こんな体が目の前にあった日にはよう」

「彼女を差し置いてひどいと思わない?」

「香菜も15歳、将来的にはこんないやらしい体になるのかなぁ」

「無理に決まってるでしょ」


 人種の壁だよな。

 でも実際にこんな体目の前にしても気後れするだけだ。

 俺は日本人の女の子で良いやって思ってしまう。

 そんな訳で香菜に抱きつく。


「きゃあ!」

「お?アツアツだな」

「クンカクンカ」

「ちょ、ちょっと!く、くすぐったいよ!あはは!」


 しばらくプールではしゃいだ。



----------------------------------------



「今何時だ?」

「14時ね」

「あの二人は戻って来たのかな?電話番号知ってる?」

「沙希のなら知ってるけど」

「かけてみてよ」

「・・・圏外みたい」

「向こう行ってて圏外なのか、田舎だからなのか」


 困ったな。

 えーっと、鏡原さんが後で合流する予定だったよな?

 でも、葉山が居ないと連絡方法が無い。


「鏡原さんの電話番号知らないんだ?」

「う・・・聞けないんだよな」

「席が隣なのに?ヘタレ」

「ぐぬぬぬ」

「なあ、私も一度帰ろうかと思うんだが」

「リターナ、もういいのか?」

「ああ、金が無いのではどうしようもない。これは向こうでも同じ事だ」

「・・・うーん、葉山と平野も金無いよな?」

「当然でしょ?平野なんてこっちのお金も無さそうだわ」


 昼過ぎても戻って来ないのは少し不安になるな。

 昼飯くらい食わなくても人間死なないけどさ。

 ちょっと向こうの世界に様子見に行って見ようか。

 林道に向かい、穴の場所に行くと鏡原さんが居た。


「どうしたの?」

「あ!氷川君!霧島さんとリターナさんも!穴が見つからなくって!」


 ああ、隠して貰ったんだよ。

 ぼやけた穴の前に連れて行き、これがそうだと指さす。


「穴の向こうに行こうとしてたの?」

「うん、沙希ちゃんと電話が繋がらないからひょっとしたらと思って」

「葉山と平野は向こうに行ってるんだよ」

「え?大丈夫なのかな?」

「俺達も今から行こうと思ってたんだ」


 鏡原さんは少しホっとした顔になる。

 一人で行くのは不安だったんだろうな。

 早速穴の中に入る。

 一瞬の暗闇の後に昨日見た風景。

 不思議な気分だな。


「さて、私は少し仕事をしなければ。帰る時は勝手に帰ってくれ」

「・・・そっか、案内して欲しかったんだけど」

「さっきも言ったがエルーダはとても広い。見つかる物では無いと思うがな」

「うーん、どれくらい広いの?」

「広さか?地下にも都市が広がっているから正確な広さは・・・人口は大体1000万くらい住んでいるぞ」

「1000万?!・・・東京がそれくらいだっけ?」

「東京は1300万くらいだったはずよ」

「・・・どっちにしろ絶望的な広さだな」


 1000万の中から葉山と平野を見つけろって?

 どう考えても無理だ。


「あの、ここの住所を教えてもらえませんか?」

「おお、さすが鏡原さん」

「ここか?持ち家だがゴミ捨て場として買ったからな。待ってくれ・・・ああ、ケンタウロスの矢684だ」

「それ住所なの?」

「なにかおかしいか?」

「い、いや、良いけどさ」


 鏡原さんが手帳にメモってる。

 俺もスマホのメモ機能使うか。


「入れ違いになったら困るから、何かメモ残しておこうかな」

「おお、さすが鏡原さん」


 鏡原さんが手帳から1ページ千切って何やら書きこむ。

 それを壁際に会った小さい机の上に置いた。


「お前達にこれを渡しておこう」

「なにこれ・・・お金?」

「一応案内して貰ったからな」


 銀貨だ。

 10枚あるな。


「これいくらなの?」

「それは1枚100クランだ。全部で1000クラン」

「1万で馬買えるって言ってたよな?大金じゃないか」

「構わんよ。また協力して欲しいしな」

「ありがとう」

「じゃあ、私はこれで失礼する。くれぐれも西には行くなよ」


 リターナは出て行った。

 さてどうする?

 宛も無いのに1000万の人口の中に飛び込むか?


「お店とかで聞き込みしてみようよ」

「さすが鏡原さん」

「和也そればっか」


 さて、外に出るか。

 いざとなるとドキドキするな。

 後ろを見ると2人共不安そうだ。

 ここは男の俺が頑張らねば。


 ドアを開ける。

 光が差し込む。

 喧騒が聞こえ出す。

 うわあ・・・


 行き交う他所多様な人種。

 耳の長い人、小っちゃい人、巨大な人。

 動物の耳が生えてる人、背中から羽が生えてる人、頭に角が生えてる人。

 ・・・ここは明らかに俺達の世界とは違う。

 

「・・・呆然としてしまうな」

「・・・うん」

「・・・ファンタジーだね」

「鏡原さん、ファンタジーって?」

「定義は知らないけど、空想や幻想の世界って事だよ」

「確かにそうだな・・・」


 目の前に広がる風景が夢なんじゃないかと思ってしまう。

 こんな世界が実在するのか?

 いや、間違いなく今そこに居るのだが・・・


「お、おっと、じゃあお店探してみよう」

「西ってどっちなのかしら?」

「スマホのコンパスは・・・使える訳無いか」

「聞いてみようよ」


 え?鏡原さんがでっかい人に話しかける。

 勇気あるなぁ。もっと引っ込み思案だと思ってた。


「穴がある建物から出て正面が北、右行くと東、左行くと西みたい」

「建物も解らなくなりそうだ。写真撮っておくかな」

「・・・!ちょっと和也」


 香菜に声を掛けられ振り向く。

 少し離れた場所に、俺のスマホを珍しそうに見ている猫耳女が居た。


「マズったな。葉山に注意するように言ったのにこれだ」

「盗られないようにしっかりしまっておいた方が良いわよ」

「そ、そうだね。どんな世界だか解らないもんね」


 取りあえず東に行こう。

 穴がある家から離れるとすぐ不安になって来た。

 後ろを振り向いて家の位置を確認。

 でもすぐに見えなくなった。


「和也、歩くの遅いよ」

「すまん。迷子にならないか不安でな」

「取りあえず角は曲がらず真っすぐ行ってみようよ」

「さすが鏡原さん」

「和也、もう良いって」


 東へまっすぐ向かう。

 お、屋台が一つあるな。

 ・・・これ、何を売ってるんだ?

 字が書いてあるけど読めないな。

 ・・・字が違うのに、何で言葉は通じるんだ?

 謎だな・・・

 良く解らんが、2人の事を聞いてみよう。

 う、人間じゃない。

 ちっちゃいおっさんだ。

 ちょっと怖いな。大丈夫かな。


「ああ、あの変な髪型の金髪坊やか。大分前に通ったよ」


 平野の変な頭はみんな覚えてた。

 行く先々で目撃証言が出て来る。

 あの変な頭でも役に立つことがあるんだな。


「こっちに来てるのは間違いないみたいね」

「ああ、だが突き当りに来てしまった」


 大きな壁に突き当たってしまった。

 高さ5mくらいあるよな。


「右は通路かな?トンネルになってるみたいだけど」

「トンネルの上にも建物があるね」

「左は賑やかそうよ?こっちに行くんじゃないかしら?」


 そうだよな。

 心理的に左を選びそうな気がする。

 すぐに屋台で聞くとビンゴだった。


―1時間後ー


「み、見つからないな」

「も、目撃情報は多いのに」

「お金も無いのに何してるのかしら?」


 疲れたよ。

 喉が渇いた。

 あの2人は大丈夫なのだろうか。


「・・・あの屋台、飲み物売ってるのかな」

「買ってみる?」

「なんだかいやだわ?私は要らない」


 得体の知れない飲み物を売る店。

 人間だから話しかけやすそうだが・・・

 木のコップだ。清潔かな?

 だが喉の渇きがMAXだ。

 背に腹は代えられん。

 俺と鏡原の分を買う。

 銀貨一枚でお釣りが来た。


「・・・甘いな、何だろこれ?」

「マングーのジュースだよ。ウマいだろ?」

「すごく濃厚で美味しい・・・」

「和也、ちょっと貸して」


 俺のジュースを横取りする香菜。

 お前鏡原さんの前で間接キスはやめてくれよ。


「美味しいけどもうちょっと冷たいと良いわね」

「ははは、このお姉ちゃんは手厳しいな」

「香菜、贅沢言うなよ」

「あの、金髪の尖った髪型の少年を見ませんでしたか?」

「見たよ。金が無いって言うから闘技場を教えてあげたよ」

「ええ?」

「闘技場?」

「ど、どこですか?!」


 闘技場の場所を聞き、駆け付けた。

 そこにはボロ雑巾になった平野とそれをツンツンする葉山が居た。


「や、やっと見つけた!」

「絵里ちゃん、みんなも来てくれたの?」

「どうしちゃったんだ?コイツは」

「ボロ負けしたんだよ」


 闘技場で試合に参加したらしい。

 飛び入り参加で相手は大男。

 ズタボロにやられてこのザマだそうだ。


「でも参加料貰ったよ。500クラン」

「代償は大きかったみたいだけどな」

「・・・つ、次は負けねえ」

「勝ったらいくら手に入ったんだ?」

「5000だったんだけどね」


 5000か。

 多いのか少ないのか解らん。

 

「賭けで儲けてるみたいだよ」

「へえ、俺達も賭けれるのかな?」

「氷川君、私達は未成年だよ?」

「鏡原さん、ちょっと興味あっただけだよ」


 賭け事は言語道断のようだ。

 メモメモ。


「取りあえず帰りましょうよ。夕方になって来たわ」

「・・・17時か、時間も同期してるのかな」

「そうみたいね」

「不思議だな」

「本当、不思議・・・」


 ボロ雑巾に肩を貸してやる。

 俺達は穴がある家へと戻って行った。




「ふう、なんとか戻って来れたな」

「ホっとするね」

「なにこのメモ」

「沙希ちゃんと入れ違いになったら困るから書いておいたんだよ」

「そうなの?ありがとう絵里ちゃん」


 鏡原さんと葉山がギュっと抱き合う。

 いいなあ、加わりたい。


ガチャ「まだ居たのか。見つかったようだな」

「リターナ」

「こいつはどうした?」

「闘技場でやられたらしい」

「ははは、バカだな」


 解るのか、そいつは馬鹿なんだ。

 バカは万国共通か。


「なあ少し考えたんだが」

「なんだ?」

「私がお前達の世界のお金を手に入れる方法だ」


 リターナが言うにはこうだ。

 リターナの世界の珍しい物を、俺達の世界で売る。

 これでどうだという単純なもの。


「どこで売るの?」

「そういえばお前達の世界には屋台が無かったな」

「屋台が無い事も無いけど、たぶんいろんな許可が居るぞ?」

「何を売るつもりなんですか?」

「それをお前達に相談したい。お前達の世界で何が需要があるか解らんからな」


 うーむ、良いのかな。

 この世界の物を俺達の世界に?


「どうなんだろうな?」

「良いんじゃない?」

「危険だと思うよ?SF小説とかだと、歴史が変わっちゃったり・・・」


 鏡原さんは反対派か。

 じゃあ俺も反対だ。


「例えばこれなんかどうだ?透視虫メガネ」

「え?なにそれ?」

「マジックアイテムだ。魔法練成で作った」

「・・・何が透視できるの?」

「服とか」

「絶対売れるわ」

「だ、駄目だよ!そんな物!」


 ぐぐ、鏡原さんが言うなら・・・

 くそお。


「危険物を持ってないか確認出来て便利なんだけどな」

「ああ、そういう使い方なのか」

「皮膚を透視して内臓の異常を調べるものもある」

「MRIか?もっと良いヤツかな」


 すごいが医学が変わってしまうな。

 あればものすごく便利そうだが。


「これはどうだ?水の上を歩ける靴」

「うーん、需要あんのかな?」

「あったとしても売ったらとんでもない事になるんじゃないかしら?」

「歴史が変わっちゃうと思う」


 そうだよな。

 俺達の世界の原理を無視しすぎている。


「じゃあこれはどうだ?マジックバック」

「あ、かわいい」

「どういうものなの?」

「見た目以上に中が広いんだ。重い物を入れても軽々持てる」

「すげえな。絶対売れるけど・・・」

「うーん、それも原理を無視しすぎだよ」

「しかしこんなもんが作れるのに空も飛べないのか」

「どうやって人間の体を浮かせると言うのだ」

「それは俺も解らんけど」

「お前達はまだ若いから勉強が足りないんだな」


 そんなの専門的な勉強しないと無理だよ。


「じゃあこれはどうだ?温風が出る筒なんだが、髪を乾かすとき便利だぞ」

「ドライヤー?」

「それは俺達の世界にもあるよ」

「むむ、難しいな」


「これはどうだ?脂肪が燃焼される薬なんだが」

「欲しい!」

「鏡原さん?」

「う、すみません」

「太ってないじゃない」

「安全な薬なのか?」

「ああ、副作用は全くないぞ」

「すげえな、絶対売れるけど、絶対ヤバイ薬だと思われるな」

「そんなの売ってたら麻薬だと思われるでしょうね」

「麻薬?麻薬では無い。あんなものを売ろうとするわけないだろう」


 麻薬はこの世界にもあるのか。

 しかし確実に誤解される。


「取りあえず私が買ったら駄目かな?」

「副作用が無いとは言っても」

「この世界の人には無くても、私達には有るかも知れないじゃない」

「いや、魔法で作った物だからな。単純に脂肪を熱で分解して排出するんだ。運動をしたのと同じ効果だ」

「す、すごい」

「更に胸には働かないからバストサイズがダウンする心配も無い」

「へえ、理想的ね」

「・・・いくらですか?」

「こっちでは5万クランで売ってるが」

「馬5頭分か。高いな」

「女の美にかける思いは凄まじいからな」

「私達の世界のお金だといくらいなるのかな」


 えーっと、単純計算で1万クランが質屋で10万円だった。


「50万だな」

「わ!ム、ムリだよぉ」

「大人なら買うんだろうけどね」

「需要はあるのか?」

「ああ、間違いなくあるけど・・・」

「因みに10%やるから売って貰えないだろうか?」

「5万も?!和也売りましょうよ」

「ま、待て待て。こんなもので痩せるって信じてもらえると思うか?俺達も効果知らないし」

「うーん、そう言われればそうね」

「どこで売るんだって問題もあるし、さっきも言ったけど麻薬だと思われて終わりだ」

「・・・捌いてやろうか?」


 ずーっとぐったりしてた平野がしゃべった。


「こんなもん売るルートあんのかよ」

「ウチの姉ちゃんが何してるか知ってるか?」

「・・・怪しい訪問販売だろ?美容関係の」


 平野の姉ちゃんはやたら高い下着とか売ってるって聞いた事がある。

 多分、詐欺まがいの。


「本当に効果があるんならバカスカ売るぞ?ウチの姉ちゃんなら」

「うーん、大丈夫なのかな?」

「本当に効くとしても、そんな薬があると弊害あるとは思う」


 エステサロンが潰れまくるとか。

 あれだって詐欺まがいなの多そうだけどな・・・


「捕まったりしないの?」

「薬って厚生省の認可が要るはず」

「健康食品ってことにすりゃいいんだよ!姉ちゃんが言ってたぞ」


 そ、そんな裏技があるのか。

 恐ろしい裏を見た気がする。


「どのみち詐欺まがいの物売ってんだぞ?」

「弟が認めちゃったよ」

「ま、まあいいのかな」

「ただし取り分は20%だ、姉ちゃんの取り分も必要だからな」

「5万が姉ちゃんか?」

「うーむ、20%か・・・仕方ないな」

「残りは俺のもんだ」

「え?私達には?」

「香菜が俺と付き合うなら分けてやっても良いぞ」


 平野の言い分は50万で売って40万はリターナ、5万姉ちゃん、5万平野って事だ。

 俺達にはくれないのか。

 まあ当たり前な気もする。


「ズルいよー平野」

「か、沙希ちゃんしょうがないよ」

「・・・まあ俺は関わりたくないから取り分いらんよ」

「ヘッ!強がり言いやがって!」

「薬の出どころ聞かれたらどうすんだ?」

「ああ?そんなもんは適当に・・・」


 ・・・やっぱこいつバカだな。

 バカに関わって人生棒に振りたくない。


「売るのは勝手だけど巻き込むなよ?」

「ど、どういう意味だコラァ!」

「・・・考えてみたらやっぱり危険よね」

「か、香菜まで」


 どう考えても危険だ。

 こんな怪しい薬を売ってるだけで平野の姉ちゃんは捕まる危険がある。

 そうなればこの穴も平野が話してしまうだろう。

 そしたら俺たちが巻き込まれる可能性も0ではない。

 

「まてまて、仲違いするな」

「リターナ、お前は俺たちの世界の常識知らないだろうけど危険な提案なんだよ」

「うーむ、そうなのか?」

「待てよ!こいつらはビビってるだけだッ!」

「こいつはバカだから危険に気づかないだけだ」

「なんだと!!」

「ねえ、平野君、私も危険だと思う」

「鏡原?!お前はその薬欲しがったじゃねえかよッ!」

「う、うん、でもよく考えたら・・・」

「確かに危ない橋かもねー」

「は、葉山までッ!」

「逆恨みされたらかなわんからお前が売るのは勝手にしろ。でも絶対俺たちを巻き込むなよ?」

「う・・・ぐぐう」

「・・・解った。この提案は無かったことにしてくれ」

「て、てめえ!一度言った事を!」

「私もそっちの世界のことをよく解っていないんだ。4人も反対するなら問題があるんだろう」

「ク、クソッ!」

「平野、逆恨みはやめてくれよ?」

「うるせえ!ぶっころすぞ!」


 リターナが杖を出す。

 平野に向かって何か魔法をかけた。

 糸が切れた操り人形のように脱力し、ぶっ倒れた。


「な、何をしたんだ?」

「記憶をなくしただけだ。ここ1時間くらいのな」

「・・・どうせなら昨日まで遡ってくれ。こいつはそのうちこの穴の事しゃべると思う」

「それは困るな。あまり異世界の人間が押し寄せるようではこの穴を閉じてしまわねばならない」


 異世界?俺たちの世界のことか?

 リターナがもう一度杖を出す。

 平野に再度魔法をかけた。


「俺としてはすぐにでもこの穴を閉じて欲しいんだが」

「それは嫌だ。私はお前たちの科学に興味がある」

「いきなり科学が登場したらお前たちの世界にとってもどうなんだ?」

「私は魔法で作ったと言えば済むからな」

「お、おう、そうなんのか」

「まあ今日は帰れ。そいつが目覚めないうちにな」


 ここで目覚めたら台無しだ。

 元の世界に連れてくか。

 やれやれ、世話が焼けるな。


 平野を抱えて穴を通る。

 夕焼けが眩しい俺たちの街。


「こいつどうしよ?」

「公園にでも寝かせておけば?」


 はあ、めんどくせ。

 公園のベンチに寝かせて俺たちは帰る。


「ひ、平野君大丈夫かな?」

「夏だし死ぬことはないでしょ?絵里ちゃんは優しいね!」

「ふ、布団持ってきてあげようかな」

「おかしいでしょ。公園で爆睡とか」


 天然の鏡原さん可愛い。

 ・・・まさか平野の事好きなんじゃ無いだろうな!


「好きじゃないよ、不良だもん」


 そ、そうか。ハッキリ言うのね。

 結構不良にひっかかる子多いから心配しちゃった。


「なあ、さっきも少し言ったけどあの穴の事は誰にも言わない方が良いと思うんだ」

「うん、大変な事になっちゃうだろうね」

「もう誰かに話した人は居る?」

「話してないよ、自分でも信じられないもん」

「言ってないわ」


 良かった。まだ広まる前だったか。

 鏡原さんと葉山と別れ、香菜を送る。


「今日もなんだか疲れたわ。明日はどうするの?」

「俺はもうあの世界行きたくないかも」

「・・・そうね、面白そうだけど危険だと私も思うわ」


 香菜を送り届け、家に帰る。

 関わりたくない。

 今日の出来事でそう思った。

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