第四十三話第二戦:玄策 vs 矢掛
海岸線――
空間が、軋む。
折り畳まれた街路。
歪んだ家屋。
引き裂かれた地面が、“紙”のように重なり合う。
その中心。
玄策が、立つ。
玄策
「……まだ立つか」
静かな声。
だがそこには、
“世界を掌握している確信”があった。
矢掛は、弓を下ろさない。
肩で息をしながらも。
矢掛
「当然だ」
「ここで退く理由がない」
足元が、ずれる。
踏み出したはずの地面が横へ滑る。
距離が狂い、方向が消える。
玄策
「理解したか?」
「ここでは“位置”も“結果”も――私が決める」
指が、動く。
空が――折れる。
海と空が反転する。
港が空へ引きずり上げられ、
船が“落ちる”。
轟音。
街が、裏返る。
矢掛、跳ぶ。
「参・黃の羽根・金鵄」
黄金の衣が展開。
直撃。
――だが。
“防いだはずの結果”が、
背後から襲う。
ドンッ!!
吹き飛ぶ。
瓦礫を貫き、断崖へ叩きつけられる。
玄策
「防御は意味を持たない」
「結果は再配置できる」
矢掛、血を拭う。
目は――死んでいない。
矢掛
「……厄介極まりないな」
羽根を番える。
「なら――」
「前提ごと壊す」
弓を引く。
風が――“流れようとする”。
矢掛
「伍・青の羽根・青鸞」
放つ。
分裂。
無数の“矢掛”。
全方位。
玄策
「模造か」
指を鳴らす。
位置が反転する。
上下が逆転する。
だが。
矢掛
「読めている」
同時射撃。
狙いは、玄策ではない。
“空間の歪み”そのもの。
バキンッ――
見えない何かが、
初めて“壊れる”。
玄策
「……ほう」
興味。
だが、それだけ。
次の瞬間。
世界が沈む。
「地胤位・深層展開――無間策陣・重層」
空間が“層”になる。
十。百。千。
無限。
矢は――届かない。
消えたのではない。
“届くという概念”が、消えた。
矢掛
「……なるほど」
静かに息を吐く。
「戦場そのものが敵、か」
玄策
「ようやく理解したか」
海が持ち上がる。
都市一つ分の水。
圧縮。
横から、落ちる。
矢掛
「弐・橙の羽根・鳳凰」
爆裂。
だが、水は止まらない。
爆発の“結果”が、別層へ逃がされる。
直撃。
轟音。
海岸線が消える。
街が崩壊する。
すべてが“位置を失う”。
その中心。
矢掛、膝をつく。
闘衣が軋む。
呼吸が乱れる。
矢掛
「……ここまでか」
だが。
弓は――離さない。
玄策を、見据える。
矢掛
「一つ、確認していいか」
玄策
「……何だ」
矢掛
「貴様――“完全”ではないな」
沈黙。
玄策の目が、わずかに細まる。
矢掛
「歪みには癖がある」
「重ねれば、必ず“ズレる”」
最後の羽根。
紫。
触れる。
止まる。
矢掛
「……まだ早い」
手を離す。
玄策、わずかに笑う。
「賢いな」
「だからこそ――ここで終わる」
指が、振られる。
空間が閉じる。
圧。
矢掛の身体が軋む。
骨が悲鳴を上げる。
意識が遠のく。
それでも。
落ちない。
矢掛
「……まだだ」
その時。
空が、揺らぐ。
王仁の気配。
そして――
別方向。
“巫女の気配”が、消える。
玄策の動きが止まる。
玄策
「……目的達成か」
空を見上げる。
王仁の声。
「引け。十分だ」
赫牙の笑い。
裂蒼の狂気。
すべてが、引く。
空間が戻る。
歪みが解ける。
残るのは、
壊れた世界だけ。
玄策、最後に矢掛を見る。
「次は――完全な盤で相手をしよう」
消える。
静寂。
波の音。
だが。
海岸は、もうない。
矢掛は、倒れる。
それでも。
空を見る。
矢掛
「……上等だ」
かすれた声。
だが、笑っている。
「盤だろうが、理だろうが……」
ゆっくりと、弓を握る。
「全部、撃ち抜いてやる」
目は、まだ死んでいない。
折れていない。
むしろ。
静かに、
燃えている。
「次は――外すなよ、オレ」
その呟きは、
誰にも届かない。
だが確かに。
“敗北の中で、次を狙う矢”は
既に番えられていた。




