第四十話「理を制する者」
ドクン――
ドクン――!!
鼓動が、暴れる。
桃太郎
「……っ、なんだ……これ……!」
胸の奥。
焼けるように熱い。
違う。
これは――
“あの時”の感覚。
脳裏に、閃く。
――聖水。
あの時、飲んだ。
命を繋ぐために。
あの時は、ただ“力”だと思っていた。
だが違う。
これは――
神の魂。
忘却鬼
「……出てきたか」
わずかに、愉悦を滲ませる。
「それが、お前の本質だ」
視界が、歪む。
炎が――黒く染まる。
身体が、勝手に動き出す。
桃太郎(内)
(……やめろ……)
声が、重なる。
???
「弱いな」
低い。
圧倒的な存在。
???
「繋がりに縋るなど、醜い」
桃太郎
「……誰だ……」
???
「お前だ」
神の魂。
荒ぶる、原初の意思。
「全てを焼け」
「全てを支配しろ」
「個であれ」
「完全であれ」
忘却鬼、静かに笑う。
「ほら見ろ」
「お前の中にも、“同じ答え”がある」
桃太郎の腕が上がる。
火炎刃が、暴走する。
炎龍環が、唸る。
無差別に――
破壊しようとする。
桃太郎
「……違う……」
歯を食いしばる。
止める。
止める。
止める――!!
脳裏に、また閃く。
笑い声。
誰かの声。
届かない。
思い出せない。
だが。
確かに。
桃太郎
「……うるせぇんだよ」
低く、吐き捨てる。
「オレは――」
腕を、無理やり止める。
炎が、軋む。
身体が悲鳴を上げる。
それでも。
「オレは、“オレ”だ」
神の声が、荒れる。
「愚か」
「不完全」
「弱い」
桃太郎、笑う。
「上等だ」
目が、完全に覚める。
炎が、澄む。
「不完全でいい」
「弱くていい」
拳を握る。
「それでも――選ぶのは、オレだ」
神の暴走が、止まる。
内側から。
押さえ込む。
ねじ伏せる。
桃太郎
「――オレの理性は」
一歩、踏み出す。
「神をも制す」
静寂。
そして。
炎が――真の形で燃え上がる。
忘却鬼
「……馬鹿な」
初めての動揺。
その瞬間。
空間に、亀裂。
――バキィン。
「――チッ、やっと見つけた」
神庭、乱入。
怒りのまま、“無縁界”を殴り破って現れる。
神庭
「気に入らねぇんだよ、その空間」
拳を鳴らす。
「繋がり消すとか、ふざけてんじゃねぇ」
一歩、踏み込む。
その目は、一直線に桃太郎を捉えている。
神庭
「――絶対負けん!!」
空気が、震える。
“意志”が、場を上書きする。
別方向。
柔らかな光。
哲西が現れる。
哲西
「……なんか、分かんないけど」
首をかしげる。
それでも、迷いなく進む。
「美咲がさ――」
一瞬、言葉を探す。
そして、確かに言う。
哲西
「桃太郎って名前、ちゃんと覚えてたんだ」
桃太郎の瞳が、わずかに揺れる。
哲西
「だから……たぶん、間違ってない」
手を伸ばす。
「ここに来ればいいって、思った」
触れる。
その瞬間、空間に微かな“ズレ”が生まれる。
さらに。
静かに。
理で裂く。
矢掛、出現。
矢掛
「解析完了」
周囲を一瞥。
「無縁界は“関係の遮断”ではない」
目を細める。
「“認識の最適化による切断”だ」
忘却鬼
「……」
矢掛
「ならば――誤差を生めばいい」
一歩、前へ。
「真備にここを探してもらったんだ」
その一言で、
“外の世界が確かに存在する”という証明が差し込まれる。
神庭
「ぶっ壊しゃいいんだろ?」
哲西
「……そばにいれば、いいよね」
矢掛
「……定義を更新する」
一瞬の間。
「我々は“仲間”だ」
三人が、立つ。
桃太郎の後ろに。
桃太郎、静かに笑う。
「……思い出した」
一瞬、目を閉じる。
「全部じゃねぇけど――」
ゆっくり、開く。
「十分だ」
「理由なんて――いらねぇ」
炎が、爆発する。
「繋がってるって――分かるからな」
忘却鬼、睨む。
「それは幻想だ」
桃太郎、前に出る。
「違うな」
火炎刃、構える。
「それが――“選択”だ」
――仙術・炎龍環、展開。
炎が龍となる。
うねり、吼える。
その中に――
重なる気配。
怒り。
優しさ。
理。
三つが、混ざる。
桃太郎
「火焔龍舞斬」
龍が、咆哮する。
忘却鬼
「無意味だ」
「関係は、消える」
桃太郎
「関係じゃねぇ」
踏み込む。
「意志だ」
――斬。
炎が、貫く。
忘却鬼の身体が――崩れる。
「なぜだ……」
桃太郎、静かに言う。
「お前は“消す”ことしか知らねぇ」
振り返る。
仲間がいる。
「でもな」
前を見る。
「オレたちは――」
一歩、進む。
「何度でも、“繋ぎ直す”」
完全崩壊。
無縁界――消滅。
静寂。
桃太郎、息を吐く。
神庭
「遅ぇよ」
哲西
「よかったぁ……」
矢掛
「非効率だが、悪くない」
桃太郎、笑う。
「……悪くねぇな」
――それでも、繋ぐ。
夜明け前。
大和の街は、まだ静かだった。
戦いの痕は残っている。
崩れた地面。
焼けた空気。
だが――
風は、戻っていた。
音が、ある。
世界が、ちゃんと“続いている”。
城の外れ。
高台。
桃太郎は、一人立っていた。
手には、火炎刃。
だが、もう炎は出ていない。
ただの刀の形。
桃太郎
「……終わったな」
小さく、呟く。
足音。
後ろから、三人。
神庭
「一人で締めてんじゃねぇよ」
哲西
「……もう大丈夫?」
矢掛
「結論は出たのか?」
桃太郎、振り向かない。
少しだけ、笑う。
「……ああ」
沈黙。
風が吹く。
朝焼けが、空を染め始める。
桃太郎
「さ」
ゆっくり、言葉を選ぶ。
「正直、分かんなくなったんだよな」
三人は黙って聞く。
「何のために戦うのか」
「誰を守るのか」
「守る理由って、何なのか」
拳を軽く握る。
「全部、消えた」
一瞬の間。
「……でも」
顔を上げる。
朝日が差し込む。
「それでも、体は動いた」
振り返る。
三人を見る。
「理由なんてなかったのに」
神庭が、鼻で笑う。
哲西が、ほっと息をつく。
矢掛は、静かに目を細める。
桃太郎
「たぶんさ」
少し考えて。
少し迷って。
それでも。
「オレが守りたいのって――」
一拍。
「“お前ら”なんだと思う」
神庭
「は?」
哲西
「えっ……」
矢掛
「……単純だな」
桃太郎、肩をすくめる。
「名前とか、関係とか、理由とか」
「そういうの全部なくなっても」
一歩、近づく。
「それでも、“こいつらだ”って思った」
胸に手を当てる。
ドクン、と。
静かな鼓動。
「ここが、勝手に決めてた」
空を見る。
「あの鬼は、“繋がりは消える”って言ってたけどさ」
振り返る。
まっすぐに。
「違うんだよな」
少し、笑う。
「繋がりってのは」
拳を軽く握る。
「消えるもんじゃねぇ」
一歩、前へ。
「何回でも、“繋ぎ直すもんだ”」
沈黙。
神庭
「……ケッ」
(そっぽを向く)
哲西
「……うん」
(小さく頷く)
矢掛
「非効率だが」
(わずかに間を置いて)
「再現性はあるな」
桃太郎、笑う。
「だろ?」
朝日が、昇る。
光が、四人を照らす。
桃太郎
「だからさ」
刀を肩に担ぐ。
「これからも、繋ぐぞ」
三人を見る。
「理由なんて、後でいい」
一歩、踏み出す。
「まずは――一緒に行こうぜ」
風が吹く。
神庭
「命令かよ」
哲西
「行く!」
矢掛
「仕方ないな」
四人、並ぶ。
――繋がりは、終わらない
城門前。
朝の光。
そこに――四人。
美咲。日生。真備。奈義。
桃太郎は、足を止める。
沈黙。
風だけが、通る。
美咲
「……桃太郎」
その名前。
胸が、わずかに鳴る。
ドクン。
だが――
思い出せない。
日生
「……思い出さなくていいって」
少しだけ笑う。
「今のままで十分だろ。顔見りゃ分かるって」
真備
「ここ、ちゃんと見つけたよ」
「……ずっと、探してたから」
小さく頷く
奈義
「……相変わらずじゃなぁ」
確かめるように。
桃太郎
「……悪い」
少しだけ、困ったように笑う。
「顔も、名前も……ちゃんとは分かんねぇ」
沈黙。
誰も、否定しない。
桃太郎
「でもさ」
胸に手を当てる。
ドクン。
静かな鼓動。
「……分かるんだよな」
まっすぐ、四人を見る。
「“大事なやつらだ”って」
一瞬。
空気が、ほどける。
美咲、微笑む。
日生、大きく頷く。
真備、肩をすくめる。
奈義、わずかに目を細める
美咲
「それで、十分」
一歩、近づく。
ほんの少しだけ――迷って。
それでも、言う。
「……おかえり、桃太郎」
一瞬。
桃太郎の目が、わずかに揺れる。
ドクン。
胸が、強く鳴る。
理由は分からない。
でも――
桃太郎
「……ああ」
わずかに、息が混じる。
「……ただいま」
小さく、笑う。
風が、吹く。
それは――
確かに、ここにあった。




