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第三十四話「桃太郎出生の秘密 ――聖水と選択」


 

 大和の都に滞在して、数日。

 任務と鍛錬の合間。

 ふと――桃太郎が口を開いた。

「……ところで」

 静かな声。

 だが、その一言で空気が変わる。

「仙人はどこにいる」

 視線が集まる。

「この国を作った奴に、会う」

 一瞬の沈黙。

 案内役の術者が、ゆっくりと答えた。

「……その方は、都にはおられません」

「どこだ」

「町はずれの海岸――洞窟の奥に」

「洞窟、か」

 神庭が眉をひそめる。

 だが。

 桃太郎は、すでに立ち上がっていた。

「行くぞ」


 都を離れると、風が変わる。

 塩の匂い。荒い波。

 岩肌の先――ぽっかりと口を開ける洞窟。

「……いかにもだな」

 神庭が笑う。

 哲西が小さく呟く。

「……なんか、でかいのいる」

 中へ。

 湿った空気。滴る水音。

 奥へ。さらに奥へ。

 やがて、空間が開けた。

 そして――

 “それ”は、いた。


「……っ」

 美咲が息を呑む。

 巨大な白い亀。

 五メートルはあろうかという体躯。

 甲羅には栴檀の木が絡みつき、枝葉が広がる。

 まるで、“森を背負う存在”。

 そして――片目が、ない。

 残った一つの眼が、ゆっくりと桃太郎を捉える。

「……来たか」

 低く、重い声。

 桃太郎は一歩、前へ出る。

「仙人に会いに来た」

「この国を作った奴だ」

 亀は、わずかに息を吐く。

「……奴、か」

「ヤマトらしい呼び方だ」

 空気が、変わる。

「お前……」

 視線が細まる。

「しとりの弟子だな」

 美咲がはっとする。

「……なぜ分かる」

「気配だ。術の流れが似ている」

 わずかな間。

「……そして、血もな」

 沈黙。


「……父親を知っているのか」

「ああ」

 迷いのない答え。

「ヤマト」

「お前の父だ」

「そして――この国を作った仙人でもある」

 空気が揺れる。

「……じゃあ、この都……」

 神庭。

「ヤマトの仕事だ」

「しとりは、その妹」

「兄妹……仙人……?」

 矢掛が目を細める。

「術式体系が一致する理由が説明できます」

 桃太郎は、何も言わない。

 ただ、聞いている。


「……お前が生まれた時の話だ」

 亀の声が、わずかに沈む。

「母――美星は、鬼に攫われた」

「巫女の力を狙われた」

「ヤマトは、一人で鬼ヶ島へ向かった」

「一人で……?」

「止められなかった」

 断言。

「鬼を薙ぎ払い、結界を破り、進んだ」

「そして――」

 空気が凍る。

「温羅に辿り着いた」

 沈黙。

「あと一歩だった」

「だが――届かなかった」

 桃太郎の拳が、わずかに軋む。

「……負けたのか」

「ああ」

「殺された」

 波の音だけが響く。

 誰も、動かない。

「だがな」

 亀の目が鋭くなる。

「最後に、術を使った」

「美星の中にいた赤子――お前を」

「桃に封じた」

 美咲が小さく呟く。

「……あの、桃……」

「そして飛ばした」

「鬼の手の届かぬ場所へ」

 ゆっくりと頷く。

「お前は――命を賭けて守られた存在だ」


 長い沈黙。

 桃太郎は動かない。

「温羅は」

 やがて口を開く。

「俺の親を殺した奴か」

「そうだ」

「すべての元凶だ」

 点が、線になる。

 理由が、形になる。

「……なるほどな」

 短く吐く。

 だが、その奥には確かな重み。


 その時。

 亀がゆっくりと身じろぐ。

 差し出された石器。

 その中に揺れる――淡く光る液体。

「聖水だ」

 空気が張り詰める。

「生命力を高める」

「魂の力を、引き出す」

「……ヤバそうだな」

 神庭。

「単なる強化ではない。“覚醒誘発”ですね」

 矢掛。

 亀が頷く。

「桃太郎」

「お前の魂は――荒ぶる」


「これを飲めば」

「その力は目覚めるだろう」

 一拍。

「だが同時に――」

 視線が鋭くなる。

「お前自身を、喰い潰すかもしれぬ」

 静寂。

 鼓動。

 ドクン。

(……荒ぶる、魂)

 胸の奥で何かが蠢く。

 力。

 そして――恐怖。

(……オレが、オレじゃなくなる)

 手が止まる。


「……無理すんなよ」

 神庭。

「ぼく、いっしょにたたかう」

 哲西。

「選択は合理でなくていい」

 矢掛。

「わたしは……信じます」

 美咲。

 目が揺れる。

(……一人じゃない)

(だからこそ――)


 目を閉じる。

 父。

 母。

 守られた命。

 そして――これから選ぶ道。

 ゆっくり、目を開く。

「……怖ぇな」

 誰も否定しない。

「これ飲んだら、戻れねぇ気がする」

 拳を握る。

「でも――」

 顔を上げる。

「それでも、行くしかねぇだろ」

 手を伸ばす。

 今度は、止まらない。

「……決めた」

 飲み干す。


 ドクン――!!

 心臓が跳ねる。

 熱。

 焼けるような血。

「――っ!!」

 視界が白く弾ける。

(来る――!!)

「……ったく」

 神庭。

「一人で背負うなよ」

 飲む。

 哲西も、迷わず。

 矢掛も、静かに。

 三人。

 同時に。

 ドクン――!!

 鼓動が重なる。

 四つの鼓動。

 共鳴する。

「……あつい……!」

「燃えてんのかこれ……!」

「魂の活性化、確認……」

 荒い呼吸。

 だが――

 倒れない。

(……飲まれるな)

(制御しろ)

 鼓動が、次第に落ち着く。


「……生きてるな」

 桃太郎が笑う。

 亀が見下ろす。

「今は、まだ眠りだ」

「だが――遠くない」

「お前たちの中の“神の魂”が」

「真に目覚める時が来る」


 風が洞窟を抜ける。

 それは、予兆。

 嵐の前の静けさ。

「行くぞ」

「おう」

「うん!」

「了解」

「……はい」

 出口へ。

 その先は――鬼ヶ島。


 洞窟の奥。

 亀が、静かに呟く。

「ヤマトの子よ……」

「理で神を制せるか」

 波の音。

 物語は――加速する。


「その鼓動は、まだ序章にすぎない」

 

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