第三十三話大和・都市防衛戦 ――壊楽と増殖
悲鳴が、波のように広がる。
整然としていた大和の闘技場は――
一瞬で崩れた。
人の皮が、裂ける。
中から現れたのは、
細長すぎる腕。
歪んだ関節。
張り付いた笑み。
壊楽鬼・ギジャ。
「いいねぇ……いいねぇ……」
口が裂けたまま、笑っている。
最初から、最後まで。
その隣で。
“それ”が崩れた。
肉が、溶ける。
落ちる。
そして――
増殖鬼・ウジラ。
「……ああ、いい数だ」
ぐちゃり。
音を立てて――
分裂。
小鬼。
小鬼。
小鬼。
無数。
「命なんて“数”だろ?」
ウジラの声が、全方向から響く。
「減らしても、また湧く」
ギジャが、ゆっくりと腕を振る。
観客の頬が、浅く裂ける。
血が滲む。
「ほら」
顔を覗き込む。
「まだ死なない」
震える瞳。
その恐怖を、舐めるように見つめて――
「いい顔だ」
次の瞬間。
音だけが残る。
人間は、粉のように崩れた。
「てめぇ――!!」
神庭が消える。
雷。
一瞬で距離を詰める。
だが――
ギジャは、避けない。
斬撃が、肩を裂く。
血が飛ぶ。
それでも。
笑っている。
「いいねぇ」
囁く。
「ちゃんと“当ててこない”」
神庭の動きが、止まる。
一瞬。
その隙。
爪が、脇腹を裂く。
「っ……!」
浅い。
だが、確実に“嫌な場所”。
「怖いだろ?」
耳元。
神庭の目が、光る。
「ナメてんじゃねぇぞ、クソが」
雷、爆ぜる。
一方
哲西の周囲。
小鬼が、群がる。
「多い……!」
巨大な刀が唸る。
一撃で薙ぎ払う。
だが――
増える。
「意味ねぇよ」
ウジラの声。
「数は減らない」
哲西の耳が、ぴくりと動く。
「……違う」
目を閉じる。
“流れ”を読む。
足音。重さ。歪み。
「……ここ」
地面を叩く。
一箇所だけ。
流れがズレた。
「本体……!」
その瞬間
桃太郎が、踏み込む。
炎が走る。
「逃がすか」
だが。
ギジャが、割り込む。
「そっちはダメ」
笑う。
「順番があるだろ?」
桃太郎の刀が、わずかに止まる。
その一瞬。
裂かれる。
胸元。
「……ッ」
ギジャが、満足げに頷く。
「そう、その顔」
「壊れる直前が、一番“本物”だ」
後方
矢掛が、静かに弓を引く。
「……なるほど」
三本の羽根。
「精神干渉型と、物量型」
放つ。
「厄介ですね」
朱雀が焼き、
鳳凰が爆ぜ、
青鸞が分裂する。
一帯が、焦土と化す。
だが。
煙の中から。
また、“数”。
「無駄だよ」
ウジラが笑う。
「減らしても――増える」
矢掛の目が、細くなる。
「……いいえ」
静かに。
「増えているのではない」
視線を巡らせる。
「供給されている」
静止。
桃太郎が、理解する。
「……観衆か」
ギジャが、拍手する。
「正解」
観客席。
まだ“無事な人間”。
その影が、揺れている。
「種は撒いてある」
「壊して、増やす」
「それが俺たち兄弟だ」
沈黙。
桃太郎が、刀を構える。
炎が、静かに燃え上がる。
「……なら」
「全部、止める」
哲西が頷く。
「ぼく、本体やる」
神庭が笑う。
「オレ様はこいつぶっ壊す」
雷、弾ける。
矢掛。
「役割分担ですね」
桃太郎が、一歩踏み出す。
「ここからは――防衛戦じゃねぇ」
炎が、闘技場を覆う。
「殲滅戦だ」
ギジャが、笑う。
その手には――
桃太郎の刀。
「頼りすぎなんだよ、それ」
突き刺す。
無造作に。
桃太郎は、動かない。
「怖ぇか?」
沈黙。
一歩。
踏み出す。
「……怖ぇよ」
ギジャが止まる。
「でもな」
腕を掴む。
「お前の“壊し方”は――浅い」
「仙術――極爆波」
内側から。
爆ぜる。
肉が膨れ、
骨が軋み、
笑みが――崩れる。
「壊れる瞬間が好きなんだろ?」
「見せてやるよ。本物を」
爆散。
壊楽鬼・ギジャ、消滅。
「うるせぇんだよ!!」
神庭、雷神化。
修羅・轟雷鎖。
雷が“意思”を持って走る。
群れを、連鎖的に焼き尽くす。
「増える前に全部消す!!」
修羅・六雷閃。
六方向。
同時雷撃。
戦場が、制圧される。
哲西。
「そこ!!」
核。
矢掛。
「終わりです」
壱・朱雀。
供給源、焼却。
止まる。
増殖が。
「……なんで……」
哲西、踏み込む。
「終わりだよ」
叩きつける。
神庭の雷。
矢掛の追撃。
同時。
粉砕。
「数は……無限……じゃ……」
崩壊。
増殖鬼・ウジラ、消滅。
静寂。
煙が晴れる。
誰も、動かない。
やがて。
「……助かった……」
それが、波になる。
歓声。
「英雄だ!!」
「都を守った!!」
神庭が肩を回す。
「スッキリしたな」
哲西が座り込む。
「つかれたぁ……」
でも、笑う。
矢掛。
「最善です」
桃太郎。
刀を抜く。
炎が、静かに戻る。
歓声が、集まる。
英雄。
守護者。
王。
すべての視線。
その中で。
桃太郎は、わずかに目を細める。
(……終わってない)
胸に残る違和感。
“出来すぎた勝利”
だが――
刀を収める。
歓声の中に立つ。
桃太郎
――大和の英雄、誕生




