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第三十二話大和・武道大会

都の中心――円形の闘技場。

数万の観衆が、息を呑んで見守っていた。

その中央。

最後の一撃が――決まる。

桃太郎の刀が、すっと止まる。

対戦相手の喉元、紙一重。

一切の無駄がない、静止。

――勝負あり。

一瞬の沈黙。

次の瞬間、

歓声が爆発した。

地鳴りのような拍手と叫びが、闘技場を揺らす。

「決勝進出者、四名――決定!!」

高らかな宣言。

名が、一人ずつ呼ばれる。

そして――

「桃太郎」

確かに、その名が響いた。


歓声が、すっと消えていく。

まるで空気が沈んだかのように。

視線が、一点へ集まる。

玉座。

そこから、大和王がゆっくりと立ち上がった。

「見事であった」

低く、よく通る声。

その一言だけで、場が支配される。

「汝ら四名……我が“子”として迎え入れる」

ざわめきが走る。

「この国を継ぐ資格を持つ者としてな」

空気が揺れる。

観衆の理解が、追いつかない。

王は続けた。

「特に――お前だ、桃太郎」

視線が、突き刺さる。

逃げ場はない。

「力だけではない。理性、覚悟――そして“統べる器”がある」

一拍。

「我が子となれ」

静寂。

世界が止まる。

桃太郎は、目を閉じた。

(オレは……何のために戦ってる)

浮かぶのは――

仲間の顔。

奪われた巫女たち。

鬼。

そして――この国。

守るべきもの。

目を開く。

その瞳には、迷いはなかった。

「……分かった」

静かに。

「オレは、この国の力になる」

歓声が、再び爆発する。

その瞬間――

桃太郎は、大和王の養子となった。


神庭は、一瞬固まる。

「……は?」

だが、すぐに笑う。

「いいじゃねぇか。王子様かよ」

肩をすくめる。

「でもよ――」

バチッ、と雷が弾ける。

「お前が何になろうが、やることは変わんねぇだろ?」

哲西は目を丸くする。

「も、桃太郎……王様の子に……?」

戸惑い。

だが、すぐに笑った。

「すごいよ……!」

小さく拳を握る。

「ぼく、ちゃんと守れるようになるね」

矢掛は静かに一礼する。

「合理的判断ですね」

淡々と。

「国家戦力を取り込む……最適です」

一瞬だけ桃太郎を見る。

「ただし――王族は自由ではありません」


少し離れた場所。

美咲は、固まっていた。

「……え」

笑っている。

だが、どこか歪んでいる。

「すごいじゃん、桃太郎……」

一歩、近づく。

だが、それ以上は進めない。

「……遠くなっちゃったね」

誰にも届かない声。

奈義は扇を閉じる。

「ほう……王子とな」

優雅な微笑み。

「ならば、それに相応しい振る舞いをせよ」

その目は、真剣だった。

「背負うものが増えたということじゃ」

日生は笑う。

「え、マジで!?王子!?」

軽口。

だが、ほんの僅かに目が細まる。

「……まあ、あんたならやると思ったけどさ」

肩を叩く。

「でも無茶すんなよ?」

真備は空を見ていた。

「……分岐が増えた」

小さく呟く。

「未来……複雑になった……」


その時だった。

哲西の鼻が、ぴくりと動く。

耳が震える。

「……あれ」

空気が、変わる。

「……変な匂いがする」

笑顔が消えた。

「鉄じゃない……血でもない……」

ゆっくりと周囲を見る。

「……鬼だ」

神庭が即座に反応する。

「どこだ」

哲西は目を閉じる。

音。

気配。

流れ。

全てを読む。

「……いる」

指が、ゆっくりと上がる。

観衆の中へ。

「紛れてる」

崩壊

その瞬間。

“それ”が――笑った。

人の皮が、裂ける。

音もなく。

静かに。

中から現れたのは――

異形。

黒く歪んだ肉体。

目だけが、異様に光る。

「……やっと入れた」

低い声。

次の瞬間――

悲鳴。

秩序が、一瞬で崩壊する。

矢掛が羽根を構える。

「潜入型……結界をすり抜けた……?」

奈義が銅鐸を鳴らす。

「止まれ!!」

音が、空間を震わせる。

鬼の動きが、一瞬止まる。

神庭が踏み込む。

「遅ぇんだよ」

雷が爆ぜる。

だが――

鬼が笑う。

「もう、遅い」

次の瞬間。

“増えた”。

観衆の中――

次々と人が裂ける。

異形が、湧く。

哲西が叫ぶ。

「違う!!一体じゃない!!

桃太郎が、前に出る。

王族の装束が、風に揺れる。

歓声は、もうない。

あるのは――混乱と恐怖。

だが。

彼だけは、静かだった。

「……守る」

低く。

確かに。

刀を抜く。

炎が宿る。

その刃が、赤く輝く。

「ここは――オレの国だ」

一閃。

火炎が、弾けた。

闘技場が、戦場へと変わる。

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