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第三十一話 大和 ― 理を編む国

飛行船が、雲の層を抜けた瞬間――

視界が、ひらけた。

その下に広がっていたのは――都。

だが、それを“都”と呼ぶには、あまりにも完成されすぎていた。

大和。

まるで大地そのものが意志を持ち、

長い時間をかけて自らを整えたかのような、静かな威容。

真っ直ぐに伸びる大路が、迷いなく中心へと収束していく。

そこから放射状に広がる街区。

家屋、倉、兵舎、神殿――

すべてが、“あるべき場所”に置かれている。

作られたのではない。

最初から、そうであったかのような配置。

「……なんだ、これ」

神庭が、息を漏らす。

桃太郎は答えない。

ただ、見ていた。

風が流れている。

淀みがない。

水路は街の隅々まで行き渡り、

光を受けて、静かに輝いている。

田畑は揺れ、穀物は実り、

その色は、やわらかな豊かさを宿していた。

――完璧だ。

だがそれは、偶然ではない。

整えられている。

人の手で。

意志で。

そして――技で。

「……人がここまでやれるのかよ」

哲西の声は、呆然としていた。

鬼ヶ島とは、対極の世界。

奪うことで成立するのではない。

壊すことで進むのでもない。

ここは――

守り、積み上げ、維持するための世界。

矢掛が、静かに言う。

「単体の強さではない……これは、“構造で勝つ国”だ」

桃太郎が、わずかに頷く。

強い。

個ではない。

国そのものが、強い。

だが――

違和感は、その奥にあった。

「……おかしいな」

矢掛の声が低くなる。

「重力が……合っていない」

その一言で、空気が変わる。

視線が、上へ向く。

――空中に、楼閣があった。

浮かんでいる。

支えはない。

それでも、確かに“存在している”。

さらに奥。

空に架けられた橋。

地と地ではない。

空と空を繋ぐ、歪な弧。

その上を、人々が当たり前のように歩いている。

「……落ちねぇのかよ」

神庭が笑う。

「落ちない」

背後から、声。

振り返る。

そこに立っていたのは、この国の術者だった。

無機質な目。

感情を排した声。

「この都市は、仙人によって“編まれている”」

淡々と告げる。

「地脈、気脈、天の流れ――それらを接続し、“重さ”を制御している」

「重さを……?」

哲西が呟く。

「重いものは軽く。軽いものは留める」

術者は続ける。

「ここでは、“落ちる”という現象すら設計されている」

再び、外を見る。

傾いた塔が、倒れない。

水が、上へと流れている。

滝が、空へ昇っていく。

常識が、音もなく書き換えられている。

「……めちゃくちゃだな」

神庭が言う。

だが、その言葉に混乱はない。

理解した上での、違和感。

「仙人たちは、この都市を“理から半歩だけ外した”」

術者の声に、わずかな誇りが混じる。

「だから崩れない」

「だから外敵は理解できない」

矢掛が、静かに息を吐く。

「……なるほど。戦場としては最悪だ」

地形そのものが防御。

構造そのものが罠。

力で押す者ほど、この都市には噛み合わない。

だが――

桃太郎は、黙って見ていた。

美しい。

あまりにも。

だが同時に。

どこか、冷たい。

人が築いたはずのものが、

“人の領域”を、わずかに越えている。

その時。

桃太郎は、気づいた。

人の流れ。

笑い声。

営み。

――すべてが、乱れていない。

均一すぎる。

(……整いすぎている)

違和感の正体。

この都市は、“正しさ”を維持しすぎている。

飛行船が、ゆっくりと高度を下げていく。

中心へ。

そこにあるのは――巨大な宮殿。

威圧ではない。

支配でもない。

統制。

この都市すべての“理”を管理し、

歪みを許さないための核。

そしておそらく――

ここが。

この国の“正しさ”を決めている場所。

桃太郎は、静かに目を細めた。

(……ここが、次の戦場か)

その胸にあるのは、希望ではない。

かといって、絶望でもない。

違和感。

だが、それこそが――

最も危険な予兆だった。

飛行船は、静かに降りていく。

誰にも気づかれぬように。

すでに見られているとも知らずに。

大和の中枢へ――

物語は、新たな段階へと踏み込む。

 

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