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第三十話鬼ヶ島・脱出 ― 鯨鬼編

黒い海は、不気味なほど静かだった。

崩壊しかけた鬼ヶ島を背に、

傷だらけの戦艦が軋みながら進んでいる。

その甲板の中央――

横たわる桃太郎のまぶたが、わずかに震えた。

「……っ」

ゆっくりと、目が開く。

滲む視界の奥に――顔があった。

涙で歪んだ、大きな瞳。

「……桃太郎……?」

「……え……美咲……?」

その瞬間。

「よかったぁ……っ!!」

美咲が駆け寄る。

抱きつこうとして――寸前で止まる。

震える指で、頬に触れる。

「ほんとに……生きてる……」

ぽろぽろと、涙が落ちる。

桃太郎は一瞬、言葉を失った。

近すぎる距離。

息が触れる。

「……悪い」

小さく笑う。

「心配、かけたな」

その一言で――

「ばか……!」

美咲が、強く抱きついた。

桃太郎は一瞬だけ戸惑い――

静かに、その背へ手を回す。

短い沈黙。

だが、それで十分だった。

「……再会は終わったか?」

矢掛の声。

どこか、柔らかい。

「おー、青春だなぁ」

神庭が笑う。

「よかったねぇ!」

哲西が無邪気に言う。

奈義も、小さく頷いた。

「無事で何よりじゃ、桃太郎」

桃太郎は立ち上がる。

まだ、ふらつく。

それでも。

「……ああ」

生きている。

その瞬間――

――ゴン……

船底に、鈍い衝撃。

「……静かすぎると思ったら」

神庭が口角を上げる。

次の瞬間。

ドォォォン!!

戦艦が、下から突き上げられた。

「来るぞ!!」

海が――割れる。

現れたのは、巨影。

黒い鱗。裂けた口。赤い瞳。

鬼の鯨。

ただ巨大なだけではない。

“海そのものが意思を持った存在”。

「……でけぇな」

神庭が笑う。

「いいじゃねぇか!!」

だが。

桃太郎は、静かに言った。

「……殺すな」

一瞬の沈黙。

「操られてる」

矢掛が即座に理解する。

「ならば、“核”を撃ち抜く」

戦いが、始まる。

神庭の雷。

哲西の斬撃。

桃太郎の炎。

だが――

効かない。

硬い、ではない。

“拒絶している”。

攻撃そのものを。

その時。

鯨鬼が、口を開いた。

海流が、歪む。

「……っ、引かれるぞ!!」

圧倒的な吸引。

船ごと、引き寄せられる。

「踏ん張れ!!」

だが。

――遅い。

尾が、振り抜かれる。

ドォォォン!!

戦艦が、砕けた。

「うわあああああ!!」

全員が、宙へ。

そして――

海へ落ちる。

――ザバァァァン!!

冷たい。

重い。

息が、できない。

視界は暗く、音は消える。

その中で。

巨大な影が、迫る。

――捕食。

「……まだ、終わらせない……!」

哲西の身体が光る。

精霊融合。

獣人化。

「止める!!」

水流を掴み、鯨鬼を拘束する。

「今だ!!」

神庭の雷が水中を走る。

巨体が、痙攣する。

「全部持ってけぇ!!」

だが――足りない。

その時。

「――私の役目だ」

矢掛が弓を引く。

水中で、狙いを定める。

迦楼羅カルラ

放たれた光が、収束し――

砲撃へと変わる。

プラズマの奔流。

――内部へ、直撃。

ドンッ!!

鯨鬼の動きが、止まる。

ゆっくりと、沈む。

静寂。

「……やったか」

その瞬間。

――ザァァァッ!!

水面が裂けた。

「来るぞ!!」

影。

速い。

異常な速度。

サメ鬼。

「止まれ!!」

奈義の言霊。

――カン。

銅鐸の音。

だが。

効かない。

「……通らない……!」

理性がない。

命令を“理解しない”。

純粋な捕食者。

次の瞬間。

背後。

「速すぎるだろ!!」

牙。

迫る。

「ぼくが止める!!」

哲西が割って入る。

――血が、広がる。

「哲西っ!!」

ヒット&アウェイ。

削られていく。

対応できない。

その時――

空が、暗くなった。

「……なんだ?」

低い重音。

雲を裂き、現れる影。

巨大な飛行船。

「全員、伏せろォォォ!!」

次の瞬間。

ドォン!!

砲撃。

海が裂ける。

サメ鬼の進路が断たれる。

さらに。

光の杭が、海中へ突き刺さる。

展開――結界。

「拘束完了!」

統制された声。

人間の兵。

「……人間、だと……?」

神庭が呟く。

「今だ、上がれ!」

縄梯子が降りる。

哲西が奈義を抱え。

神庭が桃太郎を担ぎ。

矢掛も引き上げられる。

最後に。

温羅が、海を見た。

一瞬だけ。

そして――登る。

全員、収容。

その直後。

結界が砕ける。

サメ鬼が、再び跳ねる。

だが――届かない。

飛行船は、上昇する。

静寂。

「……助かった、のか」

哲西が崩れ落ちる。

桃太郎は、ゆっくりと目を開く。

視界の先。

一人の男。

指揮官。

「よく持ちこたえたな」

低い声。

「ここから先は――我々の領域だ」

雲を抜ける。

光。

その先に広がるのは――

大地。

都。

整然とした、文明の光。

「……大和……」

美咲が、呟く。

桃太郎はその光を見つめる。

そして。

静かに、言った。

「……まだ、終わってない」

だが。

確かに――

ここまで来た。

生き延びた。

そして。

“人の世界”という、新たな戦場へ。

物語は――次の段階へ進む。

 

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