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第二十八話― 龍王ー


意識が――遠のいていく。

桃太郎の視界は白く霞み、

仲間たちの声も、水の底から聞こえるように歪んでいた。

腕も、脚も、動かない。

ただ。

敗北の重さだけが、ゆっくりと胸の奥へ沈んでいく。

そのときだった。

――ゴォォォォン……

大地が、唸る。

重く、深い振動。

崩れかけた鬼ヶ島全体が、

“何か”に踏み鳴らされているかのように軋む。

「……目覚めたか」

低く呟いたのは、温羅だった。

ただ一人。

その“正体”に気づいている。

「この気配……封印が解かれたな」

わずかに目を細める。

「巫女の力か……」

次の瞬間。

闘技場の壁面が――内側から弾け飛んだ。

轟音。

粉砕。

瓦礫が宙を舞い、空気が裂ける。

その奥から現れたのは――

巨大な“鱗”。

ねじれるような長大な胴体。

蠢く筋肉。

そして。

黄金に濁った、双眸。

竜王。

海を支配する異形の王。

鬼ヶ島に施された永き封印を破り――

その身を、現した。

咆哮。

だがそれは、“音”ではない。

圧そのもの。

空間が押し潰される。

呼吸すら、奪われる。

神庭が歯を食いしばる。

「……なんだよ、これ……」

哲西が震える。

「……生き物……なのか……?」

矢掛の目が、細くなる。

(規格が……違う)

それは、生物ではない。

“海そのもの”が、形を持った存在。

だが。

「面白い……」

温羅が、一歩前に出る。

その背から立ち上る気配は、

すでに“人”のそれではない。

「お前のような化け物――久しく見ていない」

龍王が応える。

咆哮で。

圧で。

存在で。

その瞬間。

温羅の姿が――消えた。

次の瞬間。

ドンッ!!!

遅れて響く衝撃。

龍王の巨体が――

横薙ぎに、吹き飛ぶ。

闘技場の壁を何枚も突き破り、

そのまま、地へ叩きつけられる。

「……は?」

神庭の声が漏れる。

龍王の身体が、人の姿へと変わる。

だが。

立ち上がる、その“前”に。

「遅い」

温羅は、すでにそこにいる。

拳が、叩き込まれる。

一撃。

二撃。

三撃。

間を与えない。

骨も、鱗も、関係ない。

純粋な“力”だけで、

存在ごと、ねじ伏せる。

叩きつけるたびに、

大地が割れ、

空間が歪む。

哲西が、呟く。

「……勝てる……のか……?」

矢掛が、首を振る。

「違う」

一拍。

そして。

「勝っている」

その通りだった。

圧倒。

完全制圧。

龍王は、一切反撃できていない。

「……これで終わりだ」

温羅が、龍王の首を掴む。

地に押さえつける。

四肢を封じる。

完全拘束。

終わり――のはずだった。

だが。

――ズルリ。

感触が、変わる。

潰したはずの肉が、

液体のように崩れる。

砕いた骨が、

音もなく再構築される。

「……相変わらず」

温羅の目が細まる。

「不死か」

壊しても。

潰しても。

破壊そのものが、“意味を持たない”。

龍王は、“死なない”。

「ならば――」

温羅が、さらに力を込める。

逃げ場を与えない。

完全拘束。

“殺せないなら、再び封じる”。

その選択。

だが、その一瞬。

龍王の目が――わずかに細くなる。

“意思”。

次の瞬間。

龍王の身体が――崩れる。

水のように。

流体のように。

拘束を、すり抜ける。

「逃がすか――」

温羅が追う。

だが。

間に合わない。

龍王は、その巨体をねじ込み、

崩壊した闘技場の外へ――飛び出した。

そして。

海。

鬼ヶ島を囲む、黒い海。

“本体”の領域。

そのまま――落ちる。

ドォォォンッ!!!

巨大な水柱。

衝撃。

波が、島を叩く。

そして。

静寂。

何も、いない。

「……逃げたか」

温羅が、立ち尽くす。

わずかに、舌打ち。

完全に圧倒していた。

完全に上回っていた。

だが。

“殺せない相手”には――それでは足りない。

背後。

神庭が、肩で息をする。

「……なんなんだよ、あいつ……」

哲西は、震えながら桃太郎を抱える。

「……まだ、生きてる……」

矢掛は、海を見つめる。

(終わっていない)

むしろ。

始まった。

“海そのもの”が敵になったのだから。

そして――

場面は、外へ。

鬼ヶ島の外。

それは、島ではない。

巨大な黒岩の塊が、海に突き刺さる――

“固まった災厄”。

無数の刃のような岩が空へ伸び、

表面には亀裂が走り、

その奥から、赤黒い光が脈動している。

ドクン。

ドクン。

島が、呼吸する。

内部の歪みが、外殻まで伝播している。

空は濁り。

海は黒く沈み。

この場所だけが、

世界から切り離された“核”のように存在していた。

その地に。

彼らは、転がり出る。

満身創痍。

桃太郎は、動かない。

呼吸だけが、かろうじてある。

神庭が、空を見上げる。

「……マジかよ」

哲西が、震える声で言う。

「……勝てない……」

矢掛が、静かに言う。

「……今はな」

その目は、まだ死んでいない。

だが。

理解している。

“あれが、頂点だ”。

その時。

空が――陰る。

ゴォォォォ……

低く、重い振動。

空気が、押し潰される。

全員が、見上げる。

そこに現れたのは――

鬼の戦艦。

黒鉄の巨艦。

鬼ヶ島と同質の、歪な装甲。

無数の砲門が、ゆっくりとこちらを向く。

まるで。

“処刑”の準備。

逃げ場は、ない。

力も、ない。

そのとき。

遠く、海の底。

わずかに――波が揺れた。

誰も、気づかない。

だが。

確実に。

“もう一つの脅威”が、息を潜めている。

そして。

空と海。

両方から。

絶望が、挟み込む。

王仁の声が、どこからともなく響く。

「盤面は、整った」

完全な、包囲。

完全な、詰み。

 

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