第二十七― 参謀・王仁
黄泉継鬼が――消えた。
完全に。
痕跡すら、残さず。
その中心で。
桃太郎は――まだ、立っている。
だがそれは、“立っている”というより。
世界を、壊しながら存在していた。
「――――」
声にならない声。
神の、漏出。
空間が、軋む。
地面が、沈む。
鬼ヶ島そのものが、悲鳴を上げていた。
黒き岩山の外殻が、ミシミシと歪む。
亀裂が走り、まるで“内側から押し潰される”ように崩れかける。
誰も、近づけない。
ただ、圧だけで――死ぬ。
だが。
その時。
「……やりすぎだ」
声が、落ちた。
静かに。
あまりにも、静かに。
その一言で。
全てが――止まった。
風が。
歪みが。
桃太郎の“圧”すら。
ピタリと、凍りつく。
矢掛の目が、見開かれる。
「……来たか」
空間の奥。
黒い通路の闇から――一人の男が歩いてくる。
足音は、しない。
黒い衣。
無駄のない所作。
ただ、それだけ。
だが。
“存在の密度”が違う。
神庭の顔が、初めて歪む。
「……なんだよ、あいつ」
哲西の声が、震える。
「……怖い……」
男は、止まる。
そして、桃太郎を見る。
「それが、“神の器”か」
興味すらない声。
ただの確認。
そして――
一歩、踏み出す。
その瞬間。
何もしていない。
はずなのに。
桃太郎の身体が――沈んだ。
「――!?」
神が、押されている。
ありえない。
王仁が、呟く。
「未完成だな」
手を、軽く振る。
それだけで。
空間が――“曲がる”。
見えない層が、重なり、ズレる。
桃太郎の攻撃が、放たれる。
「極爆波!!!」
消滅の一撃。
「だが……
……届かない。」
矢掛の表情が曇る
軌道が、折れる。
逸れる。
“当たらない”。
矢掛が、瞬時に理解する。
「……空間干渉……いや……」
神庭が、歯を食いしばる。
「座標そのものを書き換えてやがる……!!」
「うおぉぉぉ!!!」
桃太郎が、吠える。
神の咆哮。
空間ごと、消し飛ばす一撃。
「極爆ーー」
だが――
王仁の前で。
歪み、ほどけ、消える。
届かない。
絶対に。
王仁が、ため息をつく。
「終わりだ」
次の瞬間。
視えない何かが――
桃太郎を叩いた。
ドン。
一撃。
それだけで。
桃太郎の身体が、吹き飛ぶ。
黒い壁を突き破り。
岩盤を貫き。
地面に、叩きつけられる。
轟音。
そして――
沈黙。
動かない。
哲西の声が、震える。
「……桃太郎……?」
反応が、ない。
完全に、意識を失っている。
神庭の顔から、笑みが消える。
「……おい」
初めての。
明確な“恐怖”。
矢掛が、静かに言う。
「……撤退だ」
神庭が、即答する。
「あぁ」
哲西も、震えながら頷く。
「……うん……」
王仁は、追わない。
ただ、見ている。
「逃がすと思うか?」
その言葉。
それだけで。
空間が――閉じる。
出口が、消える。
完全封鎖。
矢掛が、羽を広げる。
「――参」
『金鵄』
全員の身体に、薄い金光が宿る。
「金色の聖衣だ。防御力が上がる」
強制防御。
“致命を一度だけ否定する”。
同時に。
「分かれろ」
分身展開。
数十の矢掛が、同時に走る。
さらに。
「見えなくなる」
全員の姿が、消える。
完全透明。
完全攪乱。
王仁が、わずかに目を細める。
「小細工を」
空間が、歪む。
だが――
読み切れない。
数が、多すぎる。
その瞬間。
神庭が、叫ぶ。
「哲西!!」
哲西が、歯を食いしばる。
「鳳凰!!」
炎が、爆ぜる。
だが。
まっすぐ飛ばない。
全てが、曲げられる。
それでも――
哲西は、叫ぶ。
「それでいい!!」
無数の炎が、拡散する。
当たらない。
だが。
空間を、埋める。
視界を、焼き尽くす。
王仁の認識が――
ほんの一瞬、乱れる。
その隙。
矢掛が、叫ぶ。
「今だ!!」
全員が、走る。
一点へ。
王仁の地獄界の――“薄い場所”。
矢掛だけが見抜いている。
「そこだ」
神庭が、拳を叩き込む。
ドゴン!!
空間が、軋む。
ヒビが入る。
哲西が、重ねる。
「砕けろォォ!!」
炎が、叩き込まれる。
バキン。
壁が、割れる。
光が、差し込む。
外。
出口。
「行け!!」
全員が、飛び出す。
その瞬間。
王仁の声が、背後から落ちる。
「……なるほど」
振り返らない。
振り返れば、終わる。
ただ、走る。
走って。
走って。
走り抜ける。
そして――
外へ。




