第十四話神庭 vs 轟天鬼―地獄界・雷獄裁界ー
空が裂けた。
次の瞬間――
雷光が大地を焼き払う。
四体の鬼が、一瞬で炭と化した。
「我が名は――轟天鬼。雷神の鬼だ」
一拍。
「――地獄界・雷獄裁界」
空気が、変わる。
音が遅れる。
光が先に走る。
何かがおかしい。
轟音とともに、雷の槍が放たれる。
空間ごと穿つ一撃。
神庭は歯を食いしばる。
(間合いを詰めるには……受けるしかねぇ!)
雷を――受ける。
「……なんだ今の」
貫かれる。
だが、違和感。
「動く前に当たってやがる……?」
「遅いな」
轟天鬼の声。
「いや違ぇ……」
神庭の目が細まる。
「“オレが動くこと”読んでんじゃねぇ」
一瞬、思考が走る。
「……いや」
雷が、また落ちる。
今度は――踏み込もうとした瞬間に。
「動いたから当たってんのか」
確信。
この空間は――
(“動き”に反応してやがる……!)
全身を貫く灼熱。
だが、そのまま踏み込む。
「もらったァッ!!」
交差の一撃――
だが。
「そう来ると読んでいたぞ」
紫電の脇差しが、神庭の胸を貫いた。
――バチバチバチッ!!
凄まじい電流。
「これに刺された者は、一瞬で炭になる。終わりだ」
神庭の身体が崩れ落ちる。
「雷とは裁きだ。弱者を焼き払う“神の意志”」
踵を返す轟天鬼。
「次の獲物は――」
「……待てや」
足が止まる。
「何……だと?」
振り返る。
そこに――
神庭が、立っていた。
血を流しながら。
「立てるはずがない。どうやって――」
「さぁな……」
神庭は笑う。
「オレにも分からねぇが……」
――バチッ。
身体から雷が弾ける。
違和感が、変わる。
外からの雷じゃない。
内側。
「目ぇ覚めた気分だぜ」
電流が巡る。
流れが、分かる。
(……そうか)
神庭の目が、細まる。
(これ、“速さ”じゃねぇ)
空間を見る。
雷の走り方。
予兆。
歪み。
(流れてやがる……全部)
「……なんだ。俺にもできんじゃねぇか」
血を流しながら、笑う。
「やっぱ、オレ天才だわ」
轟天鬼の目が細まる。
「……貴様」
「どうやらよ」
拳を握る。
雷が収束する。
「オレの魂――雷神らしいぜ」
雷と斧を同時に投げる。
空中で激突。
閃光。
だが神庭は――止まらない。
流れに乗る。
雷の“通り道”を踏む。
斧が襲う。
叩き落とされる。
その瞬間。
神庭は、もう空にいた。
「終わりだァ!!」
斧が振り下ろされる。
しかし――
雷に溶ける。
「どうした? それで終わりか」
「これで貴様の切り札は――」
言い終わる前に。
拳が、腹にめり込む。
「うるせぇよッ!!」
電流を浴びながら、踏み込む。
頭突き。
焼かれながら、前へ。
「接近戦に持ち込んでも無駄だ」
轟天鬼の身体が、雷の鎧に包まれる。
「この間合いにいるだけで、お前の命は削れていく」
空間そのものが放電している。
(……ここ全部、雷の中か)
神庭が笑う。
「それが本性ってわけか」
「――神速」
消える。
次の瞬間、腹に衝撃。
見えない。
だが。
(来る場所は分かる)
遅れて痛み。
「力とは、支配するためにある」
叩きつけられる。
追撃。
雷刀が振り下ろされる。
だが――
「……やれるじゃねぇか」
神庭が立つ。
全身に雷を纏い。
手には――雷の刀。
「猿真似か」
刃がぶつかる。
火花。
押される。
「剣術は――私が上だ」
弾かれる。
一撃。
だが。
「効かねぇよ」
笑う。
「雷じゃ、オレは倒せねぇ」
轟天鬼の目が鋭くなる。
「ならば――焼き尽くすのみ」
雷が収束する。
空間が、軋む。
「これで終わりだ」
解放。
神庭も撃つ。
激突。
閃光。
爆音。
押し負ける。
吹き飛ぶ。
武器庫へ。
転がる。
刀が、視界に入る。
(……流れ)
雷の流れ。
動きの前。
“意志”の前。
(動くから当たる)
なら。
(動かなきゃいいんじゃねぇ)
静かに、息を吐く。
構える。
「覚醒したての小僧が……雷神を名乗るな」
槍が構えられる。
「この一撃で終わりだ」
突き出される――
だが。
「――それ、残像だ」
背後。
静かな声。
振り向く。
そこにいたのは――
二本の雷刀を持つ神庭。
“動いていない”。
流れに“乗っただけ”。
次の瞬間。
斬撃。
轟天鬼の身体が、裂ける。
「……貴様は、“裁かれる側”ではなかったか……」
崩れる。
静寂。
雷が、消えていく。
神庭は息を吐く。
「雷は速さじゃねぇ」
一拍。
「“流れ”だろ」
空を見上げる。
もう、落ちてこない。
笑う。
「二刀流……いけんじゃねぇか」
血だらけの顔で。
「やっぱオレ、天才だわ」
その瞬間――
空に残っていた雷鳴が、静かに消えた。




