第十三『鍛えられる者』
吉備の地
ここは――吉備。
川と山に抱かれた大地。
大河に沿って広がる集落は、もはや村ではない。
人が集い、物が巡り、技が磨かれる場所。
そこには確かな“熱”があった。
「わあ……すごい。町だぁ」
哲西が、無垢な声で呟く。
「……いい武器、ありそうだな」
神庭は周囲を見渡し、静かに言った。
彼らは聞きつけていた。
――砂鉄から鉄を打つ名工がいる、と。
山の鍛冶屋
道具屋で尋ねると、答えはすぐに返ってきた。
「山奥の鍛冶屋に行け」
新緑の山を進む。
深い緑の中、騒いでいた猿たちが――
神庭たちの姿を見た瞬間、ぴたりと静まった。
「……なんだ?」
異様な沈黙の先に、小屋があった。
扉が、開く。
現れたのは、桃太郎と同じ年頃の少年。
「……こんなの初めてだ」
猿たちを見て呟く。
「まるで神様にでも会ったみたいに大人しい」
神庭が、口角を上げた。
「お前、猿の気持ち分かんのか?」
「まあね。ずっと山にいるから、なんとなく」
「いいな、お前。名前は?」
「楽楽森。鍛冶屋の見習いだよ」
言葉は軽い。だが、その目は静かに澄んでいた。
親方との邂逅
だが、親方は違った。
桃太郎を見るなり、吐き捨てる。
「ガキに渡す鉄はねぇ」
取り合わない。
その夜――
桃太郎の戦い
川沿いの村に、鬼が現れた。
紅蓮の鬼。
灼熱の金棒を二振り携え、大地を焼く。
業火が奔る。
だが――
桃太郎は、それを斬った。
炎を裂き、鉄を断ち、鬼を討つ。
その動きは柔らかく、無駄がない。
まるで、流れる水のように。
美しい、とすら思えるほどに。
それを見ていた親方の目が、変わった。
「……ただのガキじゃねぇな」
刀とは何か
翌朝。
親方は一本の鉄を、静かに打った。
火花が散る。
「同じ鉄でもな」
低い声。
「刀は、ただの塊じゃねぇ」
打つ。
響く。
「芯がある。鍛えがある」
その視線が、三人を射抜く。
「人間も同じだ。本物は――鍛えられてる」
間を置いて。
親方は、笑った。
「気に入った」
火が強くなる。
「鬼を斬る武器、作ってやる」
哲西の“選択”
武具が並ぶ。
刀、槍、鉈――
その中で、哲西の足が止まった。
視線の先。
人の身の丈ほどもある、大鉈。
異様な存在感。
「……おい、それは無理だ」
「持てるわけねぇだろ」
神庭も苦笑する。
だが。
「これがいい」
あっさりと言った。
軽く握る。
――持ち上がった。
空気が止まる。
「……は?」
誰もが言葉を失う。
哲西は、首を傾げた。
「なんで?」
そのまま、振る。
風が鳴る。
重さを感じさせない一閃。
親方の目が細まる。
「……お前、何者だ」
哲西は、ただ笑った。
「しっくりくるんだ」
親方は、低く笑う。
「面白ぇ……」
火が、燃え上がる。
「その刀、仕上げてやる」
鍛錬の日々
楽楽森は、川へ通った。
砂鉄を集める。
火を起こす。
打つ。叩く。
魂を込める。
鉄は――応える。
その時。
一羽の鳥が、静かに舞い降りた。
「私は真備。鬼ヶ島にいる」
桃太郎を見つめる。
「あなたは桃太郎? 美咲の言葉通り、三人の家来を連れているのね」
その名に――
桃太郎の目が変わる。
「……美咲は、生きているのか」
「はい。元気です」
短い答え。
だが、それで十分だった。
桃太郎は、静かに言う。
「伝えてくれ」
拳を握る。
「必ず助ける。必ず行く」
鬼の襲来
武器完成の刻。
大地が揺れた。
現れる鬼の大群。
その中心に立つ、四体。
青蓮華。
赤蓮華。
黄蓮華。
白蓮華。
「……来やがったな」
絶対零度の壁
桃太郎の拳が通らない。
武術が効かない。
鎧が――硬すぎる。
刀でも、浅い。
神庭、矢掛、哲西。
三人で挑むも、崩れない。
炎すら、通じない。
「無駄だ」
鬼が告げる。
「この鎧は絶対零度。熱は通じぬ」
矢掛が、歯を食いしばる。
「炎の……天敵か」
逆転の一手
その時。
哲西が前に出た。
巨大な刃を、静かに構える。
「……ちょっと、借りるね」
呼吸が変わる。
空気が揺れる。
「――精霊よ」
刃に、見えない力が宿る。
一閃。
鎧が――軋む。
「なに……?」
さらに一閃。
力が、剥がれる。
「効いてる……!」
神庭が笑う。
「やるじゃねぇか!」
哲西は、不思議そうに呟く。
「なんか……消せるみたい」
決着
鎧が砕けた、その瞬間。
桃太郎が踏み込む。
一閃。
神庭の斧。
矢掛の炎。
三方向からの連撃。
四鬼、撃破。
その先の気配
だが――
風が唸る。
雷が鳴る。
大地が震える。
圧。
ただ、それだけで。
哲西は尻餅をつき、神庭は膝をつく。
矢掛は宙に弾かれる。
だが。
桃太郎だけが――
微動だにせず、立っていた。




