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第七十六話 馴染めサプライズパーティー

 組手が終わった週末、ルドーはリリアと一緒に魔法科の教室に向かっていた。

 他の魔法科の面々も、段ボールだのなんだの、大量の荷物を抱えて教室に向かっている。


 横引きのドアをガラリと開けると、既にキシアとアルスが飾り付けを開始しており、折り紙で作ったのか、輪飾りが沢山つり下がる中、可愛らしいファンシーな見た目の装飾があちこちペタペタと貼られていた。


「あっルドー、ちょっと後で食事取りに行くから手伝ってくれるか?」


「構わねぇよ。提案できなかったから手伝い担当だし」


「リリアさん、ここに貼る飾りどっちにするか迷っていまして、ご意見頂けます?」


「わぁ、どっちもかわいい、これは迷うね」


 そのままルドーとリリアが装飾に加わる中、他の魔法科の面々も到着次第荷物を置いて、各々が机を移動させたりテーブルクロスを広げたりと準備を始める。

 装飾が大分進んだ辺りでアルスに言われてルドーは共に食堂に向かう。

 事前に申請していたパーティー用の豪華な食事やケーキが大量に並べられていた。


「多いな、一回じゃ無理だなこれ」


「そういやルドー、エリンジはどうした?」


「ネルテ先生と旅行の件で話してからだからちょっと遅れるってよ」


「あーそうか、エリンジも手伝い組だから合流したら手伝ってもらいたいけどいけるかな」


「問題ねぇと思う」


 一旦運べるだけの食事を魔法科の教室に運ぶ。

 時計を見ると開始時間まであと一時間を切っており、みんな準備にわたわたしていた。


 全員がワイワイ楽しそうに相談しながら準備していく中、ルドーはアルス、それと合流してきたエリンジと共に食事を運び、メロン指導の元空いていた机に良い感じにセッティングしていった。


「みなさん、そろそろ時間ですわよ準備はよろしくて?」


「食事オッケー!」


「飾りもひと段落だよ」


「個別提案もみんな大丈夫」


 合図と共に明かりを消し、全員で息を潜めてそれを待つ。

 しばらくするとネルテ先生と一緒に楽しそうな声が聞こえてドアがガラリと開いた。


「あれ? まっくらだよ?」


「ほんとにここだっけ?」


「うん、いるよ、魔力感じるもん」


 三人が中に入って来た瞬間を狙った。


「サップラ~~~イズ!!!」


 パンパンとクラッカーが鳴り、パッと教室が明るくなる。

 色とりどりの紙の装飾に、机いっぱいに並べられたお祝いの食事にケーキ、いろんなプレゼントや体験コーナーを設置した屋台風の出し物。

 魔法科全員でニッコリ笑えば、招待されたライア、レイル、ロイズの三つ子は驚いた顔をした後、ものすごくうれしそうに大きくはしゃぎ始めた。


 組手の後、クロノがメロンに提案したことはとてもシンプルだった。

 三つ子を歓迎会に招待したほうが早いと。


 要は無理をして三つ子を囲い込んで世話をしているカイムに、三つ子を任せてもらっても大丈夫だとアピールするということだ。

 カイムはどうにも警戒心が強く、クロノでさえ慣れるまでに相当時間がかかったらしい。

 ただ三つ子を招待して、その保護者として来るように打診すれば欠席はしないだろうとのクロノからの提案は、どうすれば三つ子に楽しんでもらえるか吟味した結果、最初にメロンがみんなから貰ったアドバイスを全部やってしまおうと大掛かりなものになった。

 結果週末にネルテ先生に許可を貰って、食堂にパーティー用の食事を用意してもらい、三つ子の歓迎会を開催しているのである。


「おいチビどもうるせぇぞまずは言う事があるだろが」


「「「ありがとうございます!」」」


 ニコニコ笑顔で頭を下げてきた三人、警戒心剥きだしながらもカイムもクロノの予測通り付いてきていた。

 相当不服そうに顔を歪めながらも、三つ子たちの手前いつもより睨みを抑えている。

 三つ子にきちんとお礼を言わせるあたり保護者としては相当慣れてそうだ。


「俺のいねぇ間に招待状なんざ渡しやがって」


「はいはい、勝手に渡して悪うございます、ご足労ご苦労様です保護者様」


「くそがよ」


 三つ子の様子を見ながらクロノの傍に歩いてきて噛み付いているカイムを、クロノは慣れた調子であしらっていた。

 この間までのギクシャクぶりが嘘のようだ。

 ライア、レイル、ロイズはそれぞれ自分の興味のあるものに飛びついては目を輝かせてはしゃいでいる。


「わぁ! 本がいっぱいある! これ読んでいい!?」


「うん、いいよ、持ってた古いやつだから気に入ったらあげるから言ってね」


「やったぁ! これとこれと、これも気になる!」


『(レイルくんずかんもたくさんあるよ)』


「勉強が好きなら勉強道具もたくさんありますや!」


 薄く短い茶髪に、半月型の眼鏡をかけた黄土色の目をしたレイルは、トラストやノースターが持ってきた本に興味津々だ。

 あれこれ見てはパラパラ中身を捲り、初めて見る内容なのか本を開くたびに目を輝かせているのを見て、トラストとノースターはそれぞれ質問されるたびに解説してあげて、これを使ってメモを取ってもいいよとカゲツがノートとペンを渡していた。


「ふわああ! お洋服かわいい! お姫様みたい!」


「ふふふ、似合ってますわライアさん」


「ふん、どうせもう小さくて捨てるものですの、好きなの持って行って構いませんわ」


「うそおっしゃい、滅茶苦茶どれがいいか吟味してたじゃない」


「黙っててくれます!?」


「小物もいっぱいあるからね」


 ライアはいの一番にビタが用意していた洋服に飛びついた。

 やはり女の子、ボロボロのワンピースはちょっと気にしていたらしい。

 初めて見る豪華な衣装のような服装に大きな黄色い瞳をキラキラさせて、どれがいいか選んでとビタとキシアにせがみ、二人がそれぞれこれがいいと論争が始まってあれこれ試着させられ始めた。

 リリアがその様子を見てニコニコ笑い、争うように試着させている二人を見てアリアが呆れた顔をしていた。


「お、おぉ? これ体鍛えるやつ? どうやって使うの? カイにぃみたいに強くなれる?」


「ハイハイハイ使い方教えますよ!」


「実戦形式でやってみるのもいいかも?」


「よし、俺様が相手だやってみるがよかろう!」


「じゃあどっちが強いか審判しようかな」


 焦げ茶の短髪に、薄緑の瞳をしているロイズは、ハイハイ男ウォポンが用意した筋トレ用の魔道具や、チャンバラでも出来そうな遊び用の魔道具に興味津々の様子だった。

 早速と手に取って、一人だとつまらないだろうとフランゲルが相手をし始め、ウォポンが使い方をハイハイ教え、アルスが戦い方を助言しながら、ヘルシュが審判をし始めている。


 和気藹々と三つ子の相手をしている。みんな楽しそうだ。

 その様子を見た提案者のメロンも満足そうにニッコリ笑い、率先して手伝ったイエディもメロンを誇らしげに見ている。


「えへへ、三人とも楽しんでる、準備したかいがあるってもんだねー!」


「メロン、今回は、とてもよかった」


 イエディが珍しくにっこり笑ってメロンに言えば、メロンは一瞬顔を赤くした後、誤魔化すようにイエディに抱き付いていた。


「楽しそうにしてるな、良かったな」


「一々こっちに言うんじゃねぇ」


「カイにぃちゃ! 見て見て似合う!?」


「……おぅ、可愛いぞ」


「やったー!!!」


 ライアはキシアとビタに色々と着せ替えされ、フリルとリボンが沢山ついた貴族が着る様な可愛らしい淡い色合いの青とピンクのワンピースドレスを着て、くるくる回ってスカートを靡かせた後カイムに報告してきた。

 流石にカイムも仏頂面ながらも普通に対応している。


「ルドにぃ! リリねぇ! どう? どう? 似合う?」


「可愛いぞライア」


「お姫様みたい」


「えへへありがとう!」


 ライアはそのままパタパタとキシア達の元に戻っては、今度はどの帽子が似合うか吟味し始める。

 あれだこれだとキシアとビタにあれこれ頭に乗せられてとても楽しそうだ。


 ロイズはやんちゃ坊主の見た目通り戦うことが好きなのか、先程からずっとフランゲル達とおもちゃの魔道具を使って戦いを繰り広げている。


「てやー!」


「ぐわー! なんのこれしきー!」


「わははは! にぃちゃんつよい! もう一発!」


「ぐわー! まだまだー!」


「……なんか精神年齢近くなってない?」


「楽しんでるしいいのいいのフランゲルはあれで」


「ハイハイハイ疲れたら交代するので言ってくださいよ!」


 一応子ども相手の為フランゲルも手加減しているのか、それとも本気でやって負けているのか。

 少なくともフランゲルはロイズに全力で相手している事だけは伝わってくる。

 助言しているアルスが首を傾げているが、審判のヘルシュはいつもの事と気にせず、ウォポンがハイハイ次の相手をしようとおもちゃの魔道具をブンブン振り回していた。


 レイルの方は今度はノースターが持ってきた魔法薬調合キットの方に興味を持ったようで、ノースターとトラストに色々と説明を受けながら頑張って調合を試し始めている。


「この通りに作ればいいんだよね? なんか色変になってない?」


「あのあの、これ爆発しませんよね、大丈夫ですよね」


『(大丈夫だと思う、多分……)』


「多分!?」


「あややや、危険ですから離れましょうや」


 ノースターが持ってきた魔法薬の鍋から煙が上がって小さくボコンと爆発した。

 いつもの規模ではないので魔法科の面々はあまり衝撃を受けない。

 だがカイムはまだ慣れてないので爆発したのもあり鋭く大声をあげた。


「おい! 危険物近付けてんじゃねぇよ!」


『(ごっ、ごめんごめん! おかしいな、かいてあるとおりにしたのに……)』


「あっごめんなさい、混ぜ方間違えてた」


『(あぁそっか、ここか。はじめてなのにむずかしいのにしすぎたかな)』


「カイにぃもう一回やりたい、ダメ?」


 レイルの半月眼鏡越しに懇願するように見上げられ、カイムはうっと呻いている。


「……安全に気を付けてやれや、次はねぇぞ」


「やったー! ありがとうカイにぃ!」


 レイルはそう言ってまたトラストとノースターの元に戻っては、さっきの間違いはどうだったかと本を開いて一緒に確認していた。

 三人の様子を一通り眺めた後、ルドーは労うようにカイムに声を掛けた。


「カイムお前大変だったな、結構バラバラな三人いっぺんに相手してたのか」


「ねー、一辺に三方向に走り出す感じだよねー」


『その上三人それぞれあの熱量、一人じゃ相手すんの無理だろ』


「よくやっていた」


「うるせぇこっちくんな」


「昨日アーゲストから聞いたよ、魔人族の平和の顔になるんじゃないの?」


「了承してねぇ!」


「大変なら協力する」


「無理しない方が、いい、疲れてるなら、尚更」


「三人ともいい子だもん、大丈夫だよ」


「だからこっちくんじゃねぇ!!!」


 早く馴染めるようにとルドー達が色々とカイムに声を掛け続けたら、とうとうカイムはクロノの後ろに隠れて唸り始めた。

 その様子にルドーの足にへばりついていた頃のライアをみんなつい連想してしまい、ルドー達で微笑ましくニコニコ笑っていたら吠える様な声を出された。慣れてない犬か。


「私別に安全地帯じゃないんだけど、隠れてないで出なよ」


「てめぇが提案して連れ出したんだろが、責任取れや」


「はいはい、わかりましたよ」


 背後に隠れられてクロノも困惑していたが、出てくる気がないと分かったのか放置することを選択したようだ。

 扱いに慣れ過ぎている、魔人族のアーゲストが言っていた緩衝材とはこれのことか。


「おなかすいた!」


「そうだな、料理も冷めるしそろそろ食べるか」


 一通り着せ替えられたライア、フランゲル、ヘルシュ、ウォポンがゼイゼイとバテるほど戦いを繰り広げたロイズ、三つほど魔法薬の調合を終えてたくさんの本を抱えたレイルが、料理の方にそろそろと群がってきた。

 どうやら机に並べられた食べ物は見たことが無いらしくキョトンとした表情をしている。

 森の中で暮らしていたのであまり豪華な食事と縁がなかったようだ。


「今回は子どもでも食べやすい様に手づかみの料理を提案してるから、ほら、こうやって食べるんだよー」


 料理の前で物珍しそうにしていた三人に、メロンが寄っていってローストチキンを手に取って見本のように食べ始める。

 そのまま声を上げてとても美味しそうにもぐもぐと咀嚼し始めたメロンを見て、三人も恐る恐る手に取って口に運べば、一口食べた瞬間一斉に顔を輝かせてがっつき始めた。

 おにぎりやらサンドイッチやらクリームののったショートケーキやら、片っ端からモグモグと口に入れては美味しそうに食べている。

 食欲も大分旺盛だ、そういえばカイムが運んでいた料理もいつも男子生徒が食べるほどにかなり量が多かった気がする。


「おいチビども野菜もちゃんと食べろや」


「えー」


「やだー」


「美味しくないー」


「あら、食べないと大きくなれませんわよ」


「……カイにぃより大きくなれる?」


 野菜だけ悉く避けて食べていた三人はカイムが注意した途端嫌がりだした。

 その様子を見たキシアが嗜める様に言った言葉に対するロイズの返答にちょっと困ったようにおろおろとキシアも一瞬カイムの方を見たが、流石のカイムも想定外なのか固まってしまっているのでとりあえず無難にとリリアが助け舟を出す。


「えーと、場合によっては?」


「じゃあ食べる!」


「僕も!」


「俺も!」


「あぁもう好きにしろよ……」


「男子の第二次成長期はまだある」


「余計なお世話だ黙れや!」


 背が低いことは気にしているのか、エリンジの言葉にカイムはクロノの後ろに隠れたまま噛み付いた後項垂れ始めた。

 それぞれがわいわいと食事をとって、キシアとビタが三人の口や手を拭いてあげながら食事を進める。

 カイムは食べようとしなかったが、見かねたクロノが自分と同じサンドイッチを押し付けるように渡すともそもそ食べ始めた。


「うんうんいい傾向いい傾向だ。あ、そうだちびっ子ちゃんたち、一週間後に旅行に行くことになってるんだけど付いて来るかい?」


 ライアたちを保護科の教室からここまで引率してずっと様子を見ながらニカニカ笑っていたネルテ先生が提案する。

 ネルテ先生の言葉を聞いてそれがいいとみんな頷いたり賛成の声を上げる中、クロノの後ろでカイムがゴフッと噎せ返るような音を出した。


「りょこうってなぁにー?」


「みんなで楽しく旅しましょうってことさ」


「わぁ! 行きたーい!」


「行っていいのー!?」


「お兄ちゃんに聞いてみなさい」


「「「カイにぃー!!!」」」


 期待を一杯に膨らませた三つの顔に見上げられる、クロノの影に隠れたままのカイム。

 完全に意気消沈したように項垂れて、しかしその輝かしい期待一杯の顔に断ることは出来なかったようだ。


「……あぁもうチビども、それまで大人しくしてたら、いいぞ」


「「「やったぁー!!!」」」


「……準備手伝おうか?」


「流石に頼むわ……」


 大はしゃぎでぴょんぴょん飛び跳ね始めた三つ子に、魔法科の面々も喜んで対応する中、その項垂れ具合に気の毒そうな声を掛けたクロノにカイムは疲れた声で答えている。

 旅行は大変になりそうだとルドーはエリンジに子供向けのスポットを事前に調達するようそっと声を掛けた。

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