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第七十四話 求む助言と閃き

 

「はいはーい! お次はルドーくんです! ちょっとアドバイスお願いしまーす!」


 休暇が終わって一週間、魔法科の面々がようやく新しい授業に少しずつ慣れてきた頃、ルドーとリリアは昼食を食べているとメロンに大きく声を掛けられた。

 両手をブンブン振り回しながら声を掛けてきたメロンに、ルドーは顔を向けた後トレーに乗せた焼きそばを箸ですくい上げる。


「なんだよ、飯はやらねぇし料理もそんな上手くねぇぞ」


「なんですぐ料理のアドバイスと!?」


「だってメロンいつもご飯の事ばっかり聞いて来るもの」


「日頃の、行い」


「あぁーん今日は別件なんだってばぁー!!!」


 困ったような表情で両手をブンブン振るメロン。

 後ろでイエディがじっと見つめている。

 ルドーとリリアが二人で怪訝な表情をしているとカタンと音がしてエリンジが隣に座ってきた。


「暴れるな、食事に埃が入る」


「あ、ごめんね! そうだエリンジ君もアドバイスください!」


「魔法を水から別の種類に変えたほうがいい」


「いや魔法訓練のアドバイスでもなくてね!? ていうかそうなの!?」


 エリンジはそのまま無表情にルドーの隣で三段パティのハンバーガーを食べ始める。

 結構体力を使うからか、魔法科の面々は肉食系が多い。

 魔法訓練のアドバイスが想定外だったのか、メロンが驚愕に両手をまたブンブン振り始めたのを眺めつつルドーは溜息を吐いて箸を進める。


「つーかアドバイスってなんのアドバイスだよ、そこ聞かねぇとわかんねぇよ」


「えっとね、カイム君の歓迎会をしたいと思っているのです!」


 ルドーとリリア、エリンジ三人のすぐ目の前に人差し指をズバシと差し出してきて断言するメロン。

 突然の提案にルドーは食べていた焼きそばを口に入れたまま固まってリリアとエリンジとそれぞれ目配せした。

 二人とも想定外の提案にそれぞれ食べ物を口にしたまま困惑した表情を浮かべているものの、リリアがゴクンとオムライスを飲み込んだ後、スプーンを置いてよくわからないというようにこてんと首を傾けて聞き返す。


「……カイムくんの歓迎? 一週間たったけど今やるの?」


「いやさ、カイムくん来てから一週間経つけど、ずっとあの調子で全然距離が縮まらないでしょ? 平和活動の一環だってネルテ先生に言われてるのにこれはいかんでしょと思ったわけ」


「……まぁ言われてみりゃ確かに」


 ゴクンと焼きそばを飲み込んだ後、メロンが話す内容にルドーは視線を食堂の料理置き場に向ける。

 カイムはライアたちと魔法科の面々を接触させたくないのか、保護科の教室にわざわざ毎回自分の分も含めた四人分の食事を届けている。

 最初は食堂で一緒に食べることをキシアが提案したが、唸り声の威嚇で返され、それならば食事を運ぶのを手伝うとフランゲル達が言ったが、こちらも髪の刃で威嚇されて逃げてきていた。

 お陰でルドーたちもライアたちに遊ぶと約束したのに、全然遊べていないどころか様子すら見られていない。

 ライアと接してきた魔法科の面々は気になって仕方なくそわそわとカイムの周囲をうろつくもののなしの礫だ。

 カイムが器用に四人分の食事を髪で持ち上げて運んでいくその様子は他の科からも注目される程物凄く目立っている。

 疲れている様子も見てわかるので、一人であの元気のあり余った三人を相手にしているのだろう。

 ライア一人でさえあれだけ大変だったのに、大分無茶をしている。


「だから歓迎会開いて、私たちは味方です、大丈夫です! って伝えたいんだ! あのままだと倒れそうな気がするもん、よくないなぁって思って」


 メロンも同じように食事を運んでいるカイムを心配そうに見ながら三人に告げる。

 てっきりいつもの調子で楽しそうな事をしようと計画していたのかと思っていたルドー達は、カイムや三つ子を心配してのメロンの提案にそれぞれ視線を交わした後、反省するように身を正した。


「先生に言われた通りには出来ていない、不覚だ」


「それでカイムが気を許すような歓迎会のアイディア聞いて回ってるって?」


「そゆことそゆこと! 私はサプライズパーティー計画したんだけどイエディは反対してるの。だからなんかアイディアないかなって!」


「サプライズ、多分逆効果だと、思う」


「確かにそんな感じするわなぁ……」


「でもそれこそクロノさんに聞けば早いんじゃないの?」


「それがね、私は抜きでって言われた」


 クロノの物まねをするように肩をすくめて言った後、腕を組んで大きく首を傾げて困ったようなメロンの反応に、ルドーはストローで飲み物を飲みながら視線だけでリリアと目を交わし、相談するように頭を捻った。


「……なんかやっぱ喧嘩してる感じか?」


「あ、ルドーくんもそう思う? だよねぇ、遺跡で見た時もっと仲良さそうだったもん」


「うーん、どっちかって言うとお互い勘違いしてすれ違ってる感じ?」


「わからん」


「このデリカシーなし」


「……リリ、最近エリンジに当たり強くね?」


「そんなことないよ?」


 リリアに罵倒されて固まるエリンジに聖剣(レギア)がゲラゲラ笑い出す中、ルドーは腕を組んで考え込みカイムとの会話を思い起こすが、アシュの時もグルアテリアの時も趣味趣向が分かるようなことは特に話してない。

 三人とも何もアイディアが浮かばなかった。


「他の連中は何だって?」


 ルドーが聞くと、何だったっけと思い出そうと両人差し指で頭をぐりぐりし始めたメロンの後ろから、イエディが静かに前に出て指折りずらずら並べ始める。


「アルスは食事会、キシアは読書会、トラストは勉強会、ビタはファッションショー、フランゲルは世界一周旅行、アリアはケーキバイキング、ウォポンは筋トレ大会、ヘルシュは観光、カゲツはオススメ育児魔道具、ノースターは魔法薬調合会」


「うーん、どれも微妙な気がする、内容もバラバラだし……」


「つーかみんな自分がやりたいこと言ってるだけじゃねぇか」


「旅行、食事、観光はどうだ」


「うーん、良さそうではあるが問題はそれでカイムがみんなと慣れるかどうかだよなぁ……」


 エリンジが話を聞いて選び出した内容にルドー達が相談していると食堂の入口から大声が聞こえる。

 視線を向けるとまたクロノとカイムが言いあっているのが見えた。

 しばらくお互い大声を出したのち、カイムがまた不機嫌そうに立ち去っていき、クロノが一人ポツンと取り残されていた。

 ルドー達の前で様子を見ていたメロンとイエディも心配そうに顔を見合わせ、リリアが案じるように大きく息を吐いた。


「……お兄ちゃん、私それよりあっちを何とかしたほうがいいと思う」


「つってもなぁ、原因も分かんなけりゃそもそもあの二人の事よく知らねぇし」


「ならば旅行を許可してあげようではないか!」


「うっわ! ネルテ先生いつの間に!?」


 五人で食堂の入口を見ながら話していたら、いつの間にか机の横に立ってニカニカ大きく笑っているネルテ先生がいて全員で飛び上がった。

 ネルテ先生は両手を腰に当ててうんうんと感慨深く頷きながら全員を見渡す。


「うーん、言われずとも仲良くするための方法を探るのはとってもいい傾向だね! エリンジ、ちょうど近いうちにジュエリの温泉街で祭りがあるんじゃなかったかい?」


「うちの領地です」


「じゃあ融通効くね! 色々と頼んでもいいかい?」


「構いません」


「決まりだね! それじゃ明日から三日程全員でクレイブ公爵領に向かおう!」


 突然の話にその場の全員が固まる中、一拍置いてルドーが声を上げる。


「えっ明日から!?」


「一応引率の警戒は解かれてるけど念の為私も一緒に向かうからねー、ホラおいでエリンジ色々と詰めるよ」


 流石のエリンジも今日の明日とは思っていなかったらしい。

 ハンバーガーを食べ終えた状態で固まっているエリンジをネルテ先生が引き摺って行く。

 呆然とそれをしばらく眺めていたルドー達だが、メロンが突然大きく飛び上がって笑い始めた。


「きゃっほーい旅行だ旅行だー! 早速みんなに知らせないと!」


「三日、準備、必要、大変」


「おっけー! 行くよイエディ!」


「待って、歩ける、メロン、待って」


 そのまま大はしゃぎしているメロンにイエディがズルズル引きずられていく。

 多分次の魔法訓練には旅行の事が全員に知れ渡っているだろう。

 またリリアとルドーの二人の食事に戻った後、残り僅かな食事を平らげる。


「旅行の間に仲直りさせようってことかな、ネルテ先生」


「まぁ気付いてないわけないだろうしなぁ、一応クロノだけでも話聞けるか?」


『いやでもあいつ話すか?』


 ルドーの提案にリリアが入口にいたままのクロノに声を掛ける中、聖剣(レギア)が疑問符を浮かべる。

 そしてリリアが呼び寄せて聞き出そうとしたが、案の定クロノは黙り込んで食事もとらずにさっさとどこかへ行ってしまった。


「やっぱダメか。イシュトワール先輩に相談してみるか?」


「先輩いつもクロノさんから話聞き出せないよ。それにレペレル辺境伯領も大型魔物暴走(ビッグスタンピード)がこの間の休暇に三回もあったって言うし、疲れてるらしいから休ませた方がいいんじゃない?」


『なんだそれ怖えなおい』


「あの規模三回は先輩も確かに疲れるわな……」


 休暇明けから、イシュトワール先輩も毎日クロノの様子を見に来てはいるが相当疲れている様子で、幸いカイムとも鉢合わせていないので今のところ問題は起こっていない。

 トルポの大型魔物暴走(ビッグスタンピード)一回でもルドーはもう二度と体験したくないのに、レペレル辺境伯領ではそれがこの間の休暇に三回も発生したそうで、呼び戻されていた先輩も大いに働いたそうだ。

 やはりレペレル辺境伯領は魔境、勘で先輩を呼び戻したという今の領主の化け物と呼ばれる実力は確かなようだ。


「うーん、これは流石にちょっと想定外かなぁ」


「ん? うわっ!? え? えーと魔人族の、だれだっけ……?」


 考え事をしていると背後の上から声が聞こえてルドーが振り返ると、魔人族の白髪長身男がなぜかそこに立っていた。

 気付いたリリアも慌てて椅子から立ち上がると、あの時はありがとうございましたと礼を言い始める。

 そんな丁寧に礼を言うなんてなんだ、なにがあった。俺も礼を言ったほうがいいのか。


「いやいやあの時はこっちも大助かりだったって。あ、自己紹介まだだったね、アーゲスト言います。一応カイムたちのまとめ役やってたんだね。うーん、にしてもカイム、クロノちゃんの事あんなに気にしてたのにどうしてこうなってるんだか」


 自己紹介されたためルドーとリリアも軽く挨拶して名乗る。

 アーゲストはカイムとクロノが立ち去って行ったところを悩むようにじっと見つめた。


「怪我の事もあったし森にいた時は滅茶苦茶気にしてたのに、なーんか今の様子見るにカイムはかなり一方的な言いがかり付けてるし、クロノちゃんもクロノちゃんで前は気にせずガンガン詰めてたのになんか遠慮気味に距離取ってるし、様子見しに来ただけなのになんでこうなってんだろうね?」


 どう思う、みたいな調子でこちらに振り向いてきた狐目からはなにを期待されているのかルドーはわからなかった。

 食べ終えた焼きそばの皿を放置したまま、ルドーは食堂の机に項垂れるように顎をのせる。


「いや俺たちもあいつら詳しくないのにわかんないっすよ……」


「カイムは結構警戒心強いから、クロノちゃんが緩衝材になってくれたらここでも上手くやれると踏んでたんだけどなぁ。参った、まさかカイム一人で三つ子ちゃんの相手してるとは、それで一度ノイローゼになってるのに」


 アーゲストの言葉を聞いてリリアも心配そうに視線を二人いなくなった食堂の入口に向けた。


「やっぱり良くないんですねあれ」


「三つ子ちゃんが攫われたトラウマもあるからあんまりあの状態にしたくなかったんだけどな、ここなら人手も多いから三つ子ちゃんたちも寂しくないと思ったんだけど。うーん、二人ともあんま本音話さない方だしなぁ、どうしようこれ」


『放置してても平行線のままだろうなあれ』


「クロノさんが距離取ってる限りは多分そんな気がする」


「うーん、本音話さねぇ奴に話させてすれ違いを正す方法ねぇ……」


「やっぱ戦わせるしかないかな」


「たたか……えっ」


 唐突な言葉にルドーとリリアは困惑気味にアーゲストの顔を見る。

 その狐目からは何を考えているのかよくわからず読み取れない。


「いやね、二人セットで行動するようなるべく指示してたわけよ、そしたら結構仲良くなってね。だから同じように二人セットで戦わせたらいけるかなって」


 特にこれといった根拠もなく言い放ったアーゲストの言葉に面食らうものの、ルドーは考え込むようにブツブツ言い始めた。


「大分勘で言っている様な……でも二人セット、二人セットで戦わせる、か」


『なんか思いついたか?』


「いや、組手ってそういや多人数でやってねぇなって」




「えー、皆さんに悲しいお知らせです。旅行は二週間延長となりました」


 魔法訓練の開始前、集まっていたみんなにネルテ先生が物凄くしょげながら告げる。

 明日からの旅行にワクワクしていた魔法科の面々から大量にブーイングが発生した。


「えぇーそんなぁ! 楽しみにしてたのにー!」


「トランクケースをせっかく準備していたのだぞ!」


「旅行用の化粧品もう慌てて買っちゃったわよ! もっと吟味できたじゃないの!」


「調べた移動図書館間に合わないかも……」


「二週間もだなんてイベント観光パンフレット擦り直しじゃありませんかや!」


『(環境変わる可能性もあるし魔法薬の材料収集の検討練り直しだ……)』


 ブーブー言い始めた面々に、ネルテ先生はうるさーいと大きく叫びながら静まるように両手上げて横にビッと引っ張るように振った。


「私だって不服だから! でもヘーヴ先生はブチギレるし、そもそも温泉街の祭りが二週間後だし!」


「明日から行っても泊まる先はあってもイベントも屋台もない」


 ネルテ先生の横でエリンジが無表情に告げる。

 流石に自領の事なので詳しいのだろう。

 それを聞いた面々はがっくり項垂れた後気を取り直すように励まし合い始める。


「あぁーん、屋台がないとか! そりゃ仕方ないね!」


「メロン、正直すぎる」


「むしろ楽しく吟味する時間が増えたというものですわね!」


「こういうのって準備してる時がいちばんわくわくするしね」


「ハイハイハイ僕はいつだって楽しめますよ!」


「ふん! 愚かに悩む人ばかりで嫌ですわ、ま、まぁどうしてもというなら手助けしないでもありませんけど!」


「やっと最後まで聞けた! まさしく王道のツンデレ!」


「変な事言わないでくれません事!?」


 ネルテ先生とエリンジの説明にようやく納得してブーイングが落ち着いた後、みんなで訓練の準備をする為に散り散りになりながらわいわいと旅行の想像をして楽しむ中、ルドーはエリンジとネルテ先生に歩み寄る。


「ネルテ先生、エリンジも、ちょっといいすか」


「ん? なんだい何か問題発生かい?」


「いや問題じゃなくて、組手したいんですけど、二対二で」


 ルドーの提案にエリンジが驚いて目を見開いた後、期待のこもった無表情でネルテ先生を見上げる。

 ネルテ先生は提案に目を丸くした後、盛大にケラケラ笑い始めた。


「おぉ! なるほどそれはいいね! エリンジとルドー二人で組むって訳かい。それで相手は?」


「クロノとカイムにお願いしたいんですけど」


 またしてもさっさと立ち去ろうとしていたクロノと、ネルテ先生から距離を取って周囲を睨んでいたカイムだが、一応二人にも聞こえるようにルドーが大きめの声で振り返りながら言うと、二人とも想定外だったのかびくりと大きく揺れ動く。

 まるで信じられないかのように二人ともぎこちなくこちらを振り返っている。


 ネルテ先生がニヤリと笑う。

 パンパンと大きく手が叩かれてニカニカと笑い始め、指名を受けたクロノとカイムはその笑顔から逃げることが出来なくなった。


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