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第五話 怒涛の入学式


 リリアが着替えの際に他の女子たちが話しているのを聞いたようだが、どうやら他の科とも合同の入学式らしく、ルドーたちが入る魔法科の他に、基礎科と護衛科があるそうだ。


 指定された場所は、校内のイベントホールのような室内。

 正面奥にステージがあり、他の科の生徒が一緒でも問題ないくらいには広かった。


 特に椅子もなく科目で集まるわけでもない、かなり大雑把な様子。

 本当にこれでいいのかと、ルドーが不安になるくらいだった。


 制服を着ていても、どうにも育ちが良さそうな集団が集まっており、その近辺に明らかに手練れのような集団がそれぞれで集まっている。


 特に指定されてないが、それぞれの科目で何となく集まっている様な気がした。


 皆が立ったまま、ヒソヒソと声を落として話していると、檀上らしきところが明るくなる。

 どうやら始まるらしい。


「あっ舌打ちのやつ」


 新入生代表挨拶と言われて、壇上に登っていったやつを見ると、初手舌打ちしてきた例の白髪男が登っていくところが見えた。


 新入生代表ということは、入学試験でトップの成績だろうことは予想が付く。


 これは幸先不安だと思っていたが、白髪男は檀上にあがると、周囲をぐるりと見まわして目を細めて睨み付けた。


「最高の魔導士を目指してここに来た。全員足を引っ張るんじゃない」


 シンと沈黙が降りる。

 見に指すような痛さを感じる中、次の言葉はまだかと、ルドーとリリアが気まずく身じろいだ。


「……え、終わり?」


 一言言い終えると、頭も下げずに壇上からスタスタと降りていく白髪男。


 新入生挨拶というのはも、っと季節の挨拶とか、入学式ありがとうございますとか、色々言う事がある気がするのだが、そういったものは一切なかった。


 これがこの学校の校風なのだろうかと周りも見まわしてみると、ルドーと同じように思っているようで目が点になっている。


 それならばと先生方らしき方を見れば、こちらも困惑していらっしゃる様子が見て取れる。


 つまりおかしいのは、あの舌打ち白髪男の方だという事だ。


 どうやら大分癖のあるやつらしい。

 どうしよう、そんな奴に初手から目を付けられてないかと、ルドーは不安に駆られる。


「つ、次校長挨拶」


 プラチナブロンドのボサボサ頭が、汗を拭きながら先を促す。

 なんだか可哀想になってきた。


 白髭に白髪を整えた、角帽を被った初老っぽい男性が壇上に上がってくる。


 紫のローブを纏った、いかにも魔法が使えそうな、威厳のある風格の男の登場に、少なからず安心を感じた。


 なんとか立て直して威厳ある式になるかと、ルドーが思っていたら。


「みんなー、入学おめでとうっぴょんっ!」


 パアン!と風船の弾けるような音がして、校長が風船のように膨らんで弾け飛んだ。


 まるでクラッカーのように紙吹雪が舞い上がる。


 そこに校長の姿はなかった。


 ホール内の生徒達は、何が起こったかまるで分らず、みな呆然と立ち尽くしていた。


「校長おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


「また脱走したぞ、探せ!」


 一泊置いて、ボサボサ頭の人が絶叫し走り出した。


 何人か男性の先生らしき人たちが、続くように走り出していく。


 その叫びを聞いた生徒達が一斉に騒ぎ始めた。


「今またって言った?」


「脱走常習犯?」


「え、これ入学式どうなるの?」


「どうなってんだこの学校……」


 冷汗をかきながらルドーが呟く。


 頭の中で聖剣(レギア)がゲラゲラうるさい。


 隣にいるリリアは、もう諦めたのか苦笑いをするだけだ。


「はーい、もう入学式続行不可能なんで、解散にするからこの後の指示出すよー!」


 右手を上げながら、けらけら笑う女性が声を張り上げた。

 先程ルドーに書類を渡した受付の女性だ。


 薄黄緑の背中までかかる長い髪に空色の瞳をして、男性と並んでも遜色ないほど背が高い。


 胸が良く目立つ黒いタンクトップスタイルに、空色の長袖の上着を腰に巻いており、その下は上着と同じ色の動きやすいストレッチ性のパンツスタイルだ。

 あげている手には指出しグローブが嵌まっている。


 入学式だというのに大分ラフな格好だ。



「基礎科の生徒は副担任のマルス先生についてってねー、護衛科は……二人とも走ってっちゃったけど、しばらくしたらどっちか気付いて戻ってくるから、もうちょっと待機で。そんで魔法科諸君! 私が担任のネルテ・アイビーだ、よろしくね!」


 そういって明るく親指も伸ばして右目でピースする、魔法科担任を自称した、ネルテ先生。

 困惑した生徒がそれに返せるはずもなく。


「よろしくおねがいしまぁーっす!!」


 いやテンションの高そうな女子がビシッと返答した。

 このノリについていけるやつがいるのか。


 というか担任って言ったような。

 ひょっとして終始このテンションだったりするのかと、ルドーは訝しんだ。


「いえーい、ありがとう! 魔法科諸君は明日からの授業に備えて、只今より簡易郊外講習行くん、で入学式に配った紙をもって付いて来なさーい!」


 どうにも育ちが良さそうな風貌の集団が基礎科らしく、生徒達がマルス先生と呼ばれたそれらしき人に付いて行く。

 護衛科らしき手練れた連中が待機する中、入学初日の郊外講習に面食らう、ルドーとリリアを含む魔法科の面々。


「え、そんな、寮の案内があるんじゃありませんの?」


「荷物持ったまんまだよどうすんの?」


「せんせー、バナナはおやつに入りますかー!?」


 なんか最後変なことを言っている奴がいたが、ネルテ先生はそれすら気にせずズンズン進んでいく。

 それに気付いた生徒達は、置いてかれないように、各々荷物を持ったままバタバタ続いていった。


「ほい、荷物はそこの中央ホールに置いといて! あと遠足じゃないからおやつはダメね。最初に配った真白な紙があると思うけど、それだけ持ってね、そんでおらっ!」


 ネルテ先生は徐に手を上げると、空中に巨大な緑色の魔法の拳が現れた。

 そのまま殴る要領で腕を振るうと、魔法のこぶしが飛んでいき、アーチ状の通路の一つを殴って、先程城に辿り着く前に見た黒い空間が現れた。


「これは簡易的な転移魔法門だから、ここから通れば目的地に一直線よ」


「目的地ってどこなんですか?」


 メガネをかけた栗毛の少年が、恐る恐るといった様子で手を上げる。


「それは行ってのお楽しみ。 さぁ入った入った!」


 ニコニコしながら、パンパンと手を鳴らして入るよう促す様は見ていて逆に恐ろしい。

 笑っているのに逆らう事を許さないような圧を、その場の皆が感じた。


 すると渋る周りを無視するように、あの舌打ち白髪がスタスタと周りも気にせず先に進んで、あっという間に入っていってしまった。


 一人入れば後に続くものが出るもので、渋々といった形でみな後に続き始める。

 ルドーとリリアも荷物を置いて、最初に指示された紙だけ手にして中に入っていく。


 アーチをくぐった先は、それまでルドーがよく見てきた光景だった。

 薄暗く鬱蒼とした、肌に纏わりつく重い空気に嫌な感覚。


「……魔の森の中か、ここ」


 ルドーの一言に、初めて見た様子の周りの面々が、何人か顔を強張らせて息をのんだ。


「はい、そんじゃまず、最初に言ってた紙に掌をかざしてみてくれるー?」


 魔の森の中でも変わらずニコニコ笑顔のネルテ先生が、お手本のように紙に手をかざす。


 すると持っていた紙が即座に、薄水色に変化した。


 それに倣って生徒達も各々紙に手をかざすと、色が変わっていく。


 ルドーとリリアは同じ水色に変化した。



「これは魔力を簡易確認する魔道具で、一度きりの使い切りなんだけどね。色が同じほど魔力の相性が良いんだ。配った紙は、同じ色がもう一人出てくるように調整してるから、同じ色の相手がパートナーになるわけだね。なんでパートナーが必要かっていうと、魔力伝達について学ぶためであり、それには魔力の相性が良い人がうってつけだからこの方法ってわけだ。ここまでで質問あるかい?」


「それを何で魔の森でする必要があるんですか?」


 またメガネがおずおず質問する。


「あぁそれは簡単、これから行うのは簡易テストみたいなもんだからだよ。義務入学の子たちも今年は多いし、入学試験もバラバラで実力がわかりきってないから、そもそも魔力伝達どころじゃないだろう? なのでとりあえず、パートナー二人を二組で四人チームを組んでもらって、そんで一人五十匹、小規模魔物を魔法で退治して実力を知るってのが今回の課題だよ!」


「えぇ!?」


 何人かから驚愕の声が上がる。


 魔法は使えても、魔物退治が出来るかどうかはまた別問題。

 今回が初めてのやつも何人かいるという事だろうか。


 確かにそもそも魔の森に入るのは危険なので、非常事態でもなければ、基本国の許可とかが必要なのが一般的。


 何の権限も持たなければ、滅多に出来るものでもない。


 しかし小規模魔物なら、魔導士が倒す基本の雑魚だ。

 魔法限定で倒すのが魔導士育成機関らしいといえばらしいのだろうか。


「お兄ちゃんとパートナーか、なんかいつもと変わんないね」


 そう言いつつも、どこか安堵していそうなリリアはルドーの傍に寄る。


「問題は誰のペアと組むかか」


 そういってルドーがざっと周りを見渡すが、既にいくらか声を掛け合ってチームが出来つつあった。


 まずい、出遅れたらしい。


 その中でも、明らかに不機嫌オーラをまき散らしていて誰も声をかけてないペアが一つ。


 正直ルドーも話しかけるのは遠慮したいのだが、そこまで人数が多くないので、多分もうそこ以外ほぼ出来上がってしまっている。

 このままでは埒が明かないので、意を決し舌打ち白髪男に声をかけた。


「あー、そこ、チーム決まってるか?」


「まだだよ、この不機嫌顔のせいで、誰も近付きやしない」


 白髪の横から出てきた声は、先程リリアのハンカチを拾ってくれた黒い帽子のやつだった。


 腕を組んで首を傾げ、やれやれと肩をすくめる。


 制服のスカートを履いているから、やはり女性のようだ。

 でも帽子は外してないので、やっぱり表情がわからない。


「えぇっと、もうほぼ決まってるっぽいから、チーム組んでもらっていいすか?」


「いいんじゃないの? じゃなきゃいつまでたっても終わんないし」


 なんだろうこの人、ものすごく他人事だ。


 白髪男はうんともすんとも言わないが、物凄く睨み付けてくる。

 イエスかノーかくらい言えないのか。


「一人に付き小規模魔物五十体倒せたら、さっき潜った転移魔法がまた通れるようになるから、そこから戻ってねー。私は採点するんでそれじゃー、アデュー!」


 そういってネルテ先生が、魔力の拳を作り上げる。

 そのまま両手を地面に振り下ろすと、遥か上空に飛び去っていってしまった。

 手助けはしてくれないという事だろう。


「お兄ちゃん、私まだ浄化魔法で魔物が倒せるか微妙なんだけど……」


「あー、援護するわ。えーとそんでそっちのお二人さん」


 不安そうなリリアをたしなめつつ、二人の方に向き直る。

 何をするにしてもまずは協力が必要だ。


「俺はルドー、こっちは妹のリリアだ。俺はこの背中の剣で雷魔法が使える。一応魔物退治もしたことあるから安心してくれ」


「……」


「いつまでも仏頂面だとやりにくいんですけど」


 流石の帽子さんも、腰に手を当てイライラしながら白髪男に投げかける。

 名前を呼ばないのは、どうやら彼女も自己紹介されていないらしい。


「魔物五十体くらいさっさと終わらせるぞ」


「いや名前聞いてんだけど……」


 流石にルドーも困惑する。


「エリンジ・クレイブだ。二度は言わん」


 そういって徐に白髪の男、エリンジが左手を上げると、四つの閃光が走った。

 その先に迫ってきていた小規模魔物が、あっという間に魔法で粉々に打ち砕かれている。


「うわぁ、複数同時発動か。あ、私はクロノでいいよ」


 顎に手を当てて観察した後、思い出したかのように片手を上げて自己紹介する様子に拍子抜けする。


 他の面々は初めて見る魔物に、悲鳴を上げて逃げ出し始めていたり、応戦したりと様々だ。

 小規模魔物相手に、逃げるのはその調子で大丈夫なのだろうか。


 でもよくよく考えればルドーも最初は逃げていた。

 最初なら誰だってあんなものかと思いなおす。


 彼らももっと、ちゃんと学校で訓練してからの接敵を想定していただろう、あまり悪くいうものじゃない。

 とりあえず逃げている面々に被害が出ないよう、聖剣(レギア)を鞘から抜いて走り出す。


「遠距離調整どうすりゃいいんだ!?」


『知らん! 感覚でやれ!』


「アバウトだな! 此畜生が!!」


 剣を振り下ろすと同時に雷撃が振り下ろされる。


 そのままヘビのように曲がりくねった雷撃は、他の生徒を追っていた小規模魔物に数珠つなぎに当たっていき、威力充分で消失していく。


「ひぃふぃみぃ……お兄ちゃん五体にクレイブさん七体だね」


『おいおいこっちが少ないじゃんか。もっと頑張れお兄ちゃんよぉ』


 暴れ始めた途端五月蠅くなる聖剣(レギア)を無視しつつルドーが振り向くと、数を数えながらリリアが両手を広げる。


 ふわりと光の風が周囲を舞って、瘴気を払っていった。


 とりあえずの安全地帯を作るつもりらしい。

 森の規模が分からないので浄化こそ出来ないが、一時的に魔物を寄せ付けない、簡易結界のようにはなるだろう。


「あー……悪いんだけど、ちょっといいかな」


 様子を見ていた帽子の人、クロノが徐に手を上げて言う。


「私まともに魔法使えないんだわ。だから後よろしく頼んだ」


「「は?」」


「……えっ?」


 課題は魔法で一人五十体の小規模魔物を倒すこと。

 魔法を使う事が最低条件。


 大きな問題が発生して三人とも動きが止まってしまった。


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