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番外編・ネルテ先生の生徒観察記録.4

 ルドーにクロノも戻ってきて、ようやく魔法科の全員が揃った。

 入学してから実に五ヶ月、全員が揃うまでとても長かった。


「さーて、あと戦闘にまだ達してないのは、アリア、ヘルシュ、トラスト、イエディ、メロン、ノースターかな。休暇が終わったら強化コースでも設置するかね」



 アリアとヘルシュはグルアテリアの一件から心機一転したのか、授業に真面目に取り組むようになってメキメキとその実力を伸ばし始めた。


 元々が勇者と聖女なので魔力量は多い。

 真剣にやるようになれば順調に成長することが見込まれるのでここはあまり心配していない。



 イエディとメロンはその能力の低さがネックだ。

 特にイエディは自分に自信がないのかやる前から諦める風潮がある。


 自信の方はパートナーであるメロンがガンガン褒め称え、少量の魔力でもピンポイントで目潰しなど、機転と精密使用が出来る容量の良さがあるので、後は何かきっかけでもあればイエディは大丈夫だろう。



 メロンは水を自力で生成できないので、水がない場所だと何もできないのが欠点だ。


 ただその本質は水の操作ではなく、どちらかというと流れを操作するほうだ。

 水ではなくてもいいかもしれないので色々と試行錯誤させてみるのもいいかもしれない。



 トラストは観測者の役職も相まって分析魔法が恐ろしく特化している。


 ただ戦闘が今一掴めないようだ。


 どうにも分析しすぎて相手の心情に入り過ぎて攻撃を無意識に躊躇している節が見られる。

 魔物相手にはそれほどでもないが、その性質のせいで攻撃魔法がどうにも伸び悩んでいる。

 これは別の方法を探させた方が良さそうかもしれない。



 ノースターは自分の足りなさを魔法薬で何とかしようと寮の自室で実験して大量生産し始めているらしいので、自室ではなく何かしらの魔法薬調合の部屋を与えてもいいかもしれない。


 どうやっても体力には限界がある。それを自分の得意知識で補えるならそれも良し。

 魔法薬には作成時に自身の魔力が必要となるのでこれも魔導士としての姿の一つだ。


 ただ現場では対応力が足りなくなるので、即席で魔法薬が作れるように対策するのも必須だ。



「楽しんでるとこ悪いですけどこれもお願いします」


 ヘーヴにバサッと書類を投げつけられてネルテは現実に引き戻される。

 書類を見て憂鬱になりながらもやらなければならない事なので確認作業に入った。


「補助金移行の申請書ね、はぁ。在学中に家が潰れる貴族はたまにあるけど、今回は本人にダメージがデカそうだ」


「ビタ・ハイドランジアでしたっけ。ハイドランジア家はトルポでも息の長い貴族家で、過去何人も魔導士を輩出しているエリート貴族家でしたね」


「最近荒れてるんだよね、攻撃魔法が過激になってきてる」


 ビタは変化魔法が得意なのだが、最近はその精神の不安定さから攻撃が苛烈になりつつある。


 相手の体内を変化させて内側から切り刻み始めたのだ。


 魔物相手だと強力だが、人間相手だと致命傷過ぎる上、精神の不安定さは下手をすると周囲の民間人も巻き込みかねない。


「かといってあれだけの情報が出てきてしまったらね、流石に家の存続は出来ないだろうね」


「今度の休暇どうするつもりなんですか?」


「最後だから家に帰してくれと。その後の相談もあるだろうし、強くは引き止められないさ」


 家が潰れるならば今後の身の振り方の相談もあるだろう、学校は移行さえしてしまえば問題ないので卒業できれば仕事はあるので生活には困らない。

 家の借金が多重にのしかかったりしなければだが、未成年の彼女にそこまでの責を負わせることはないはずだ。


「行方不明だった二人の調子は大丈夫そうで?」


「ルドーの方はなんだか知らない間に色々強化されてたよ。本人は魔道具を貰ったって言ってたけど、あの腕輪は普通じゃないね、あの聖剣と連動している」


「事情説明の際に私も見ましたが、古代魔道具と連動できるようなものは古代魔道具くらいじゃないですか? 新しく発見して引っ張ってきたんです?」


「いんや、どうにも聖剣の一部っぽいんだよね、形状変化でもしたみたい」


「そんなこと出来るんですね。まだまだ奥が深い」


 古代魔道具を使い続けているルドーを観察しても、その仕組みは未だよくわからない。


 聖剣がルドー以外の人間とも会話ができるようになってから一度聞いてみたのだが、どうにもはぐらかされて教えてもらえなかった。


 量産されたら危険だからだろうか。


「しかし契約魔法を付けてきたからなぁ、内容も不明瞭だし。転移不可魔法が掛かってるエレイーネーの校舎内にぶち破って直接転移させてきて、只者じゃなさそうだよ」


「……得体の知れない強い魔法を使う相手と、よりにもよって契約魔法ですか。後に響かなければいいですけど。転移不可魔法の追加対策も必要ですね、はぁ……」


 契約魔法は契約者と言う役職にしか使う事の出来ない特殊な魔法だ。


 契約したが最後、その契約が遂行されるまで動きを強要される。

 本人の意に反することも強制されるのだ。


 ルドーはあまりそこまでわかっている様子が見受けられなかった。

 恐ろしい内容でなければいいのだが。


「もう一人は大丈夫ですかあれ、夜な夜な外に出てるみたいですけど」


「戻ってきてる分にはねぇ。聞いたところで答えないし止めても無視するし、探知は相変わらず使えないし。クランベリー先生でさえ回復魔法に相当苦労したってのに、止血できたと思った途端中の肉が一瞬で再生したって言うじゃないか、どうなってんだいあの子は」


「どうやら解析魔法でも上手く見えないみたいですね。本人はわかってるんです?」


「それも話そうとしないからわからない。とりあえず危険なことだけはするなって口酸っぱく言ってるんだけど聞く耳持たないよ。学習科目変更の謝罪こそ受け入れてもらえたけど、やっぱりまだ信頼されきれてないみたい、参ったもんだ」


「エレイーネーに対する信頼回復も急務ですか。ライアちゃんに感謝ですね、あの子の様子見に毎日戻ってきてるようですから。あの子も少しずつ回復してきてますし」


 ルドーと一緒に転移してきた魔人族と思われる少女ライア。


 保護者であろう魔人族とは連絡が取れないし、下手に孤児院に預けてまた襲われでもしたらたまらないので、緊急措置として保護科に在籍させる形を取っている。


 元々戦争回避のための保護科、他の科と違って年齢指定がないのだ。


 分析魔法の結果、長い期間魔力を無理矢理吸われ続けていた影響で身体と精神に大きな負担が続き、その結果の記憶障害と言語障害が発生している。


 最初期の鳴くだけの状態は、自身が誰かすらも覚えていなかったからだ。


 クロノに名前を呼ばれてようやく色々と思い出しているが、まだ一部分でしかなく、そのせいで会話も発達してきてはいるが身体年齢に対して拙いままだ。


 ライアに必要なのは身体と心を休める時間。


 魔人族に返せばもっと安心するかもしれないので接触させたいが、最近はめっきり襲撃が減って情報がまるでない。


「それにしてもルドー君たちが接触したという戦争誘発男、あの聖剣が言うには殺しても死なないとか。実際致命傷を負っても回復魔法もなしに再生したとかいいますが、俄かには信じられませんね。クロノさんの時の様に実はギリギリ生きてたんじゃないですか?」


「眼球が無くなるくらい焼かれてたんだよ、見間違いようもないだろうさ。それにたとえこっちが信じなくとも向こうは動いてるよ。グルアテリアの件は本当に危なかった。対処は早急にしないと、だろ?」


「……またなんか厄介な事考えてますね?」


 不敵に笑ったネルテに、ヘーヴは天を仰いで遠い目をする。

 こういう時のネルテが危険だという事はわかっているからだ。


「エレムルス商会の荷馬車が偽装されたって話あっただろう? 今まで被害者だと思ってたところが実は怪しかったってパターンがあったからさ、サンフラウ商会からの指摘もあったしちょっといつもより念入りに調べてみたんだ」


「……なにか出てきたってことですか?」


「ビンゴ! って訳で一掃しましょうって話」


 バサバサと資料の束を取り出しながら、ネルテはニカッと大きく笑う。

 一掃、つまり掃討戦が開始されるという事だ。

 緊急職員会議の手順を追いながら、そういう相談こそもっと早くしろとネルテはヘーヴに本格的に首を絞められお灸をすえられた。

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