↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/330

第五十四話 休暇は嵐の前の静けさ

 

 休暇に入ったことで、生徒は各々実家に帰った。

 その為エレイーネーはとても静かになっている。


 ライアは静かになったエレイーネーの校内に、少し不安を覚えたようだ。

 ルドーとリリアを見かけると、ライアはほぼ一緒に過ごそうとする。


 実家に帰っている魔法科も、ライアのことを気にしていた。


 キシアから毎日のように絵本が送られて来るので、リリアと一緒に読んであげたり。

 エリンジから送られた、分厚い魔法の使い方指南書シリーズを読んでは、戦いごっこに付き合ったり。

 貴族組からの支援が豪華だ。


 トラストは投影魔法を飛ばして、毎日通信してくる。

 ライアがリリアと一緒の時、トラストは顔を真っ赤にさせて饒舌に話す。

 だがルドーと一緒の時は、あからさまにがっかりしているので、下心があるのが丸わかりだ。


 ライアの手前、ルドーはそれを指摘することが出来ない。

 なのでルドーは、投影魔法に映るトラストをギロリと睨み付けるに留めている。


 ルドーもリリアと一緒になって、ライアが寂しくないように気を配っていた。


 人がいなくなって広くなったエレイーネー校内。

 ネルテ先生許可の元、ルドーはかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたりして、ライアの相手をしている。

 やはりライアはおてんばなのか、一番好きなのは戦いごっこだ。


 昼間ならクロノも顔を出してくる。


 ライアはカイムの話をせがむのだが、クロノは何故か歯切れ悪く躱して話さない。

 その度に、ライアは頬をいっぱいに膨らませて機嫌を悪くする。

 話せる範囲で話して欲しいとルドーは思っているのだが、クロノは頑として詳しく話さない。


 カイムと行っていた魔道具製造施設襲撃の話は、ライアには刺激が強いのだろうか。


 夜になると、クロノは尽くどこかに消え去ってしまう。


 カイムの話を聞くために、ライアはクロノと一緒に寝ようと張り込んだりしていた。

 しかしクロノには、毎度まんまと逃げられている。


 クロノに逃げられてしまったライアは、機嫌を悪くして寝ようとしない。

 ルドーとリリアは、ぐずって寝ないライアを宥めるのに苦労している。

 ライアに付き合ってルドーもリリアも寝不足になるので、正直クロノには諦めてほしい。


 にしても昼間も普通にしている様子なのに、クロノは一体いつ寝ているのだろう。


 ちなみにクロノの兄であるイシュトワール先輩は、親父さんに領地に呼び戻されているらしく、帰っているそうだ。


 一応休暇中も、魔道具の腕輪と学習本は使える。

 ライアが夜更かしで疲れて昼寝をしている時、ルドーはそれで勉強や訓練を続けていた。


『暇だ』


「んな事言ったって、休暇だしよ」


 パチパチと空中で雷を放ちながら、聖剣(レギア)が呟く。

 戦闘がないせいか、聖剣(レギア)は大分退屈そうだ。


 腕輪で聖剣(レギア)を空中で動かせるようになってから、思ったようにすぐ動かせるよう、ルドーは暇になると、片手を上げて無駄に聖剣(レギア)をブン回す癖がついた。


 休暇になってから数日。

 ネルテ先生たちは、急な出張が入ったからとエレイーネーを不在にしていた。

 何かあったら、校長室に縛り付けている校長に声を掛けろと、ルドーたちは言われている。


 ライアと一緒にリリアも昼寝をしているので、一人時間を潰すように、ルドーは聖剣(レギア)をバチバチブンブン空中で回していた。


『そういやお前、重力魔法の対策は結局どうしたよ』


「ピンポイントで相手に当たるようになってきたから、その延長でいけねぇかなって」


 回転し続ける聖剣(レギア)の指摘に、ルドーはとりあえずそう返す。


 聖剣(レギア)の刃の先からだけでなく、なにもない空中からも、雷魔法を放出できるようになった。

 重力魔法の範囲外から雷魔法を使えば、影響なく攻撃できるだろう。


 ここまで強くなっても、まだあの時剣を大量に出してきた男をどうやったら倒せるか。

 ルドーは時々考えるが、答えは何も浮かんでこなかった。


 回復魔法もなしに傷が再生した、殺しても死なないというあの男。

 次対峙した場合、ルドーはどうすればいいだろう。


 聖剣(レギア)にあいつのことを聞いても、相変わらず何も答えない。


 あの悪魔ゲリックが言っていた、時が来たらわかるという内容。

 そこにあの剣の男も含まれているだろうか。


「お兄ちゃん回し過ぎだよ。なんかブーメランみたいになってる」


「バチー」


 ルドーが考え事をしながら回すと、聖剣(レギア)の回転速度が異常に早くなる。

 聖剣(レギア)が回り過ぎて残像で円状になっていた。


 昼寝が終わったのか、リリアと一緒にライアも起きてきていた。

 ルドーが窓から外を見ると、まだ日は高いが、時計は十五時は過ぎている。


「おやー!」


「おやつな、食堂になんかないか行ってみるか」


 両手を広げて声をあげたライアに、ルドーはリリアと一緒に廊下を進んだ。


 食堂は休暇中も解放されている。

 上級生になれば、依頼で休暇中もエレイーネーに残ることが多くなるので、常時解放されているのだ。


 ライアはメニュー表を見て、うんうん長いこと唸ってから、バニラアイスを注文していた。

 いつもは混雑している食堂も、休暇な上にこの時間だと、流石に誰もいない。


 非日常を堪能しながら、ライアが目を輝かせてアイスを食べる様子を、ルドーはリリアと眺めている。


「そうだ、お兄ちゃん。お昼寝の時来なかったんだけど、今日クロノさん見かけた?」


「いや、今日はまだ見てねぇな。そういえば」


 最近やたらとライアにカイムの件を質問攻めされ、しまいには泣き落とし作戦をされ始めたせいか。

 クロノはライアの昼寝時に、寝顔だけ見て行くようになってきていた。


 リリアに言われてルドーも記憶をたどる。


 そういえば昨日夕方見たきり、クロノの姿を見ていないような気がした。

 夜の出歩きから、まさか戻ってきていないなんてことはないだろうな。


「あれ? 今日は早いね、トラストくん」


 リリアの声に、ルドーは思考の波から浮上した。

 ルドー、リリア、ライアの三人でゆったりしていると、空中に突然投影魔法が現れていた。


 いつも夕方ごろに通信魔法で確認を取ってから、トラストは投影魔法を掛けてくる。

 それがこの時間帯に、確認もなく急に投影魔法をかけてきた。


 トラストらしくない、何か変だ。


 ルドーたちが怪訝に思っていると、トラストが切羽詰まった様子で声をあげた。


『あ、あの! ネルテ先生は!? さっきから通信してるのに、繋がらなくて……』


「なんか出張で、数日通信魔法でも連絡取れないって言ってたぞ」


『えっ!? そ、そんな、緊急事態で、助けがっ』


「あれ? ハイドランジアさん?」


 トラストが抱えるように支えている、ハイドランジアにリリアが気付く。


 投影魔法で映している場所が薄暗いのか。

 いつもより映像がずっと見えにくい。


 ハイドランジアは自身の身を守るように、手で両腕を抱え、俯いて震えていた。

 冷汗まみれの真っ青な顔は、ルドーたちの方を見ようともしない。


 投影魔法の様子に、聖剣(レギア)もとうとう声をあげた。


『なんだなんだ? 只事じゃなさそうだな』


『る、ルドーさん、だれか、誰でもいいから先生に救援を! このままだと僕たち』


『いたぞあそこだ!』


『うわぁ! まずいみつかっ――――』


 ブツッと唐突に投影魔法が消える。


 明らかにただごとではない、トラストとハイドランジアの様子。


 ルドーとリリアは不安になって顔を見合わせた。

 アイスを食べ終えたライアが、不思議そうにルドーたちを見上げている。


「えーと、緊急事態だよな、多分。校長しか今いねぇけど」


「不安だけど、連絡しないと。トラストくんもハイドランジアさんも、なんか危ない感じがする」


「あぶ?」


 リリアがライアを抱きかかえ、ルドーたちは食堂から出て、急ぎ校長室に向かう。


『ちょっと! ルドーさん、リリアさん! ネルテ先生はご在宅じゃありませんの!?』


 今度はキシアから通信魔法が入って来た。

 通信魔法が使えないルドーの代わりに、リリアが慌てて返事の通信魔法を飛ばす。


「えっと、ネルテ先生今いないの! 数日連絡できないって」


『そんな、肝心な時に! トラストさんとハイドランジア嬢が、変な連中に追いかけられていますのに!』


「キシアさん、トラストくんたちと一緒にいるの!?」


 リリアが驚いた声で通信する。


 通信に集中できるように、ルドーは走りながらライアをリリアから取り上げて抱き抱えた。


『一緒じゃありませんわ! 下町の本屋を回っていたら、トラストさんたちが慌てて走っていらして……』


 リリアの声に、キシアは説明を始めた。


 なんでもキシアは、ライアの気に入りそうな絵本を探すのが、領地に帰った後の日課になったらしい。

 それでトルポのあちこちの本屋を巡るようになったそうだ。


 今日も同じように、下町の古本屋巡りをして、珍しい絵本を物色していたのだ。

 するとキシアが本屋をちょうど出た所、ハイドランジアを抱えたトラストが走り去っていく現場を目撃した。


『様子が変だったので遠くから見ていたら、顔を隠した怪しい連中が複数、お二人を追いかけていかれましたの!』


 息を切らせて走っている様な声で、キシアは続ける。


『今、気付かれない様に尾行している所で、それでネルテ先生に指示を仰ごうと思いましたのに!』


「場所聞いてくれリリ!」


 通信魔法を聞いていたルドーが叫ぶ。

 校長にキシアの話を説明するためにも、トラストたちが今どこにいるのか、ルドーたちは知る必要があった。


 ルドーの声に、リリアが慌てて通信魔法をかける。


「えっと、キシアさん今どこにいるの?」


『トルポ国の辺境、ロドウェミナですわ! あぁ見失ってしまう、一旦通信切りますわ!』


「無茶しないで!」


 通信が切れたのか、その後リリアがいくらキシアに呼び掛けても、反応はなかった。


 不安に顔を見合わせながらも、ルドーはリリアと校長室に急ぐ。


 食堂を出て廊下を通り、メインホール入口から真正面に設置されている扉が校長室だ。


 息を切らしながら、ルドーとリリアは校長室の扉の前に辿り着いた。

 また脱走していませんようにと祈りながら、ルドーが高尚な金の装飾の入った扉をコンコンとノックする。


「はぁーい、入っていいわよん♡」


 何やら男の声で、気持ち悪い返事が返ってきた。


 ルドーが恐る恐るドアを開くと、中は不思議な空間が広がっていた。


 広い空間の中央を中心に、大量の白い魔法円が浮かび上がって、銀色の羽根ペンが一本、空中でひたすら紙に文字を書き続けている。

 大量の書類の山が、そのペンを囲むように円形に積み上げられ、次々と書類を書き上げては、次の書類がひらひら飛んでいっている。


『驚いたな、古代魔道具がここにもいたのか』


『“あら、話せる方がいらしたの”』


 聖剣(レギア)がその様子を見て声を上げると、ノースターの時のように、銀の羽ペンが空中に文字を書いて反応してきた。


 ルドーとリリアが驚いて半歩引く中、銀色の羽ペンはすぐに書類作業を再開する。

 その合間に、銀の羽ペンはルドーたちにも文字を書いて会話をしてきた。


『“お気になさらず、私は仕事をしているだけです”』


「いや、古代魔道具で仕事って、なんだよ」


『“あなた達の用事は私の持ち主でしょう、そこの椅子のところです”』


 もう銀の羽ペンこちらに興味もないのか。

 サラサラと書類を書き上げては、次の書類作業をしている。


 銀色の羽ペンに、ルドーは色々と聞きたいことがこみあげてくる。

 だが今はトラストとキシアの件が最優先だと首を振って、銀色の羽ペンに指摘された場所を探す。


 山積みにされた書類の奥。

 厳格そうな机と黒革張りの椅子が置いてあり、その前あたりにかなり太めのロープで全身グルグル巻きにされて倒れている男が一人。


 校長が横たわっていた。


「ぐる?」


「……マジで縛られてる。あの、魔法科の同級生から、トルポ国のロドウェミナに救援がいるって連絡がきたんですけど」


「なんだと! それは大変だな!」


 急に野太い声が上がって集中線が入った。

 と思ったら、校長は重力を無視してビヨンとゴムのように勢いよく直立する。

 そのまま校長は唸り声を上げて踏ん張り、野太いと掛け声と共に、縛られていたロープを弾き飛ばした。


 なんだか一瞬劇画調になったのは気がせいだろうか。


「仲間のピンチは助けなければ、っという事で行ってきまーす!」


 野太い声で叫びながら、校長がルドーの肩をガシっと掴んだと思ったら、今度は軽い声で舌を出しながらペンに向かって敬礼する。

 ルドーには校長の動きが何一つ分からない。


 ライアを抱えたまま、ルドーがリリアと二人で狼狽えていると、突然光に包まれる。

 転移魔法だと気付いた時には、謎の空間を経由していた。


 青空に虹がかかり、空中を大きなおもちゃの鳥が、ぴーひょろろと首を伸び縮みさせながら、小さな翼でパタパタ飛んでいた。


 ルドーが知っている転移魔法ではない。


 気が狂いそうになって、ルドーは片手で頭を抱える。

 唐突に視界が開けて、落下して固い何かに激突した。


 リリアとライアを抱えて下敷きになったルドーは、カエルが潰れる様な声を出した。

 ライアは新しい遊びだと思っているのか、ルドーとリリアの上で機嫌よく声を上げている。


「貴様! 目の前に現れるとはいい度胸だ!」


「大統領ー! 割りばし早く持ってきてー! あ、時間かかりますかそうですか。はーい、ダンクシュート!!」


 男性と校長の叫び声が聞こえたが、ルドーたちが周囲を確認するより先に、また光に包まれる。


 今度は海の中、宝石の魚とウミガメのぬいぐるみが泳いでいる。

 もうどうにでもなれ。


 考えることを放棄したルドーは、また唐突に海から浮上したと思ったら、地面に倒れていた。


「おい、何がどうなっている」


 リリアとライアに潰されたルドーの上から、聞き慣れた声が上がる。


 夢と現実の区別がつかなくなったルドーは、しばらく混乱していた。

 手を叩いて喜んでいるライアと、同じく混乱して呆然としているリリアの下敷きになりながら。

 なぜかいつの間にか、エリンジが巻き込まれていることに気付くまで時間がかかった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。