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第二百九十四話 戦艦内部の激闘

 

「ルドにぃ! 後ろからまた来てるよ!」


「でぇい!」


 背後から迫りくる魔物に向かって、ルドーは聖剣(レギア)を振り下ろした。


 ナナニラの乗る飛行艇から落とされ、妨害魔法で隠されていた戦艦に、ルドーはライアと共に喰われた。

 真っ暗な古い戦艦内部は、瘴気が渦巻く魔物の巣窟となっていたのだ。


 バリバリと雷魔法が周囲に拡散し、集まってきていた魔物を連鎖的に破壊していく。


 だが数体倒したところで、後から後から溢れ出して、焼け石に水の状況だった。


『足を止めるな! 囲まれたら終わりだぞ!』


「くっそ、なんなんだよ! なんで古代魔道具の内部がこんな状態になってるんだって!」


 背中にライアを引っさげたまま、ルドーは戦艦内部の真っ暗な通路を走る。


 ルドーは喚いてはいるものの、なんとなく状況は理解していた。

 古代魔道具は、歌姫が魔法で無機物に変えられてしまった果ての姿。


 つまりこの巨大な戦艦も、元々は一人の人間だったはずだ。


「……聖剣(レギア)


『完全に暴走してはねぇが、一歩手前だな』


 ルドーの呼びかけに、聖剣(レギア)が重苦しく答えた。


 古代魔道具は経年劣化しないが、百年単位の精神的な摩耗で、瘴気を吹き出し暴走化し始める。

 この戦艦も例に漏れず、暴走の状態に差し掛かり始めていたのだろう。


 だから戦艦内部に瘴気が溜まり始め、魔物が溢れ出してしまった。


「暴走しかけてたから、この戦艦は放棄されたのか?」


『可能性は高いだろうな。内部に魔物がうじゃうじゃ湧いたんじゃ、泥舟どころじゃないだろうよ』


 雷光で照らされる狭い通路を走りながら、ルドーは聖剣(レギア)と推測を述べ合う。


 コロバはおおよそ、この古代魔道具を最初に見つけたのだろう。


 この世界で戦艦を作るだけの技術は、まだ確立されていない。

 聞いたこともない巨大な兵器を目の当たりにして、コロバは世界征服などという大それたことを思いついてしまった。


 しかし早速戦艦を動かそうとしが、その内部には瘴気と魔物が溢れていたのだ。

 このままでは兵器として運用は出来ない。

 だからコロバは古代魔道具の戦艦を解析して、新しいものを丸々作り上げてしまったのだ。


 ルドーが落下する際に目撃した、古代魔道具の戦艦の上に浮遊していた、別の新しい戦艦。

 そんなどでかいものを動かすとしたら。


 きっと動力源は、攫われた魔人族が詰め込まれた、残りのカプセル全部だ。


「なんとかここから脱出して、新しい戦艦の方に行かねぇと……!」


「ルドにぃ!」


「でぇい!」


 ライアの呼びかけと同時に、ルドーは聖剣(レギア)を振って魔物を切り刻む。


 どこを走っているかもわからない、真っ暗な通路をルドーはひたすら走る。


 鉄で出来たような黒い通路には、戦艦らしくあちこちによくわからない配管が通っていた。

 似たような光景が続くせいで、同じところをぐるぐる回っている様な錯覚に陥る。


 薄らと漂う瘴気のせいで、雷魔法の雷光でも通路の奥まで見えにくい。


「ライア、どっちだ!?」


「あっち! 上の方だよ、ルドにぃ!」


 ルドーの背中から指差すライアの方向に、ルドーは走り続ける。


 正直に言って、ライアが今一緒に来ていてくれて本当に助かっていた。

 ナナニラの魔力を覚えているライアが、大雑把ではあるがどこにいるか方向が分かるからだ。


 ナナニラがいる場所に、新しい戦艦がある。


 似たような通路で方角も分からない閉鎖空間。

 ルドー一人だけでは、魔物との消耗戦となって、目的すら見失っていたかもしれない。


 魔物が避けた雷光が、戦艦内部にバチッ当たって消滅する。

 その様子を見て、ルドーは聖剣(レギア)をグッと握り直した。


 古代魔道具の戦艦も、もとは歌姫だった人間。


 同格の古代魔道具の聖剣(レギア)の雷魔法が内部に効かないということは、まだルドーに戦艦は破壊できない。


 暴走する前段階ということは、まだ人としての意識は保った状態のはずだ。

 ルドーが手に握っている聖剣(レギア)と、同じように。


「なぁ! 俺たちには協力してくれないのか!?」


 瘴気と魔物しかいない空間で、ルドーは顔をあげて叫んだ。


 今この古代魔道具の戦艦の持ち主は、コロバなのだろうか。


 古代魔道具が道具としての機能しか持たないなら。

 本人の意思とは関係なく使われるだけなのか。


 ルドーの手にある聖剣(レギア)は、ルドーを選んだ。

 だが聖剣(レギア)は自身の雷魔法で抵抗することが出来た。

 武器に姿を変えられた、聖剣ならではの副次的効果。


 ルドーが見てきた他の古代魔道具は、必ずしも持ち主を選んでいたようには見えない。


 もしこの戦艦も同じなら。

 不本意な持ち主によって、従わされているだけだったりしないか。


『ルドー、気持ちはわかる。だがな、呼び掛けたって、コイツに返事をすることは出来ねぇぞ』


「……わかってる、わかってるよ」


 背後から飛び掛かる魔物を切り伏せながら、ルドーは歯を食いしばって目を伏せた。


 古代魔道具は、言葉を発することが出来ない。

 そうすることで、歌姫としての歌を封印されてしまったのだから。


 百年単位の精神の摩耗。

 その先でコロバによって、世界を破壊する手助けをされている。


 結果、暴走寸前の状態で、瘴気を溢れさせ、魔物を生み出しているのではないか。


 この戦艦自体が、コロバの世界征服を嫌がっているなら。

 ルドーは助けれやれないかと、つい考えてしまっていた。


『どうしようもねぇんだ。ルドー、今は先に進むことだけ考えろ』


 聖剣(レギア)の重苦しい言葉に、ルドーは声を噛み殺した。


 なんと答えればいいのか、今のルドーにはわからない。


 助けることが出来るなら、ルドーは助けてやりたかった。

 古代魔道具が人だと知らず、暴走を止めようと破壊し続けてきたルドーだからこそ、その思いは強い。


 だが古代魔道具を元の姿に戻すことも出来なければ、戻した後の責任を、ルドーも負い続けることは出来ない。


 何百年、戦艦は古代魔道具として過ごしてきただろう。


「ルドにぃ、上から何か落ちてくる!」


 ライアが突然大声をあげて、ルドーは咄嗟に聖剣(レギア)を構える。


 閉鎖的な空間が、突然開けたような音がした。

 一瞬上部から悲鳴が聞こえたと思ったら、ドスンと何かが落ちてきた音が聞こえた。


 どうやらルドーが落下したときと同じように、戦艦がまた誰かを飲み込んだようだ。


「アリア! 怪我はしていないか!?」


「その声、フランゲルか!?」


 前方から聞こえてきた声に、ルドーは驚愕した。


 ルドーが魔物を倒し続ける聖剣(レギア)の雷光で、落下してきた二人が照らし出される。

 通路に仰向けに倒れているフランゲルと、折り重なるようにアリアが倒れていた。


 確かフランゲルとアリアは、それぞれ別で捕まって、新しい戦艦の方に運ばれていたのでは。

 シュミックの貴族か誰かまではルドーにも分からないが、シュミック第三王子のフランゲルを、傀儡にして操ろうとしていた一派が動いていた。

 その為にラグンセンの残党が、アリアを人質に言うことを聞かせようとしていたはずだ。


 それがなぜ、この用済みと思わしき古代魔道具の戦艦に、二人揃って投げ込まれてしまっているのか。


 ルドーは魔物を倒しながら、慌てて二人に駆け寄った。


「何してんだよ、二人とも。捕まってたんじゃなかったのか?」


「私が知るわけないでしょ!」


「あいつら、突然仲間割れをはじめおったのだ!」


 慌てて近寄ったルドーに、アリアとフランゲルがそれぞれ立ち上がりながら大声を上げた。


「連中、最初は俺様を簀巻きにして部屋に転がしていたのだ。だがどうやらコロバとナナニラに、いい様に使われていただけだったのだ!」


 周囲の魔物にも気付かず、フランゲルは勢いよく腕を壁にどんと叩きつけた。


 なんでもコロバとナナニラは、最初からラグンセンの残党を切り捨てる算段だった。


 フランゲルとアリアは、それぞれ裏社会の別の依頼でラグンセン残党に捕まっていたらしい。

 新しい戦艦内で引きずられ、コロバとナナニラに依頼で必要な人質だと幽閉を提案された。


 だがその瞬間、コロバの用済みの一声で、ナナニラが重力魔法を使った。

 ラグンセンの残党は、艦内から外に放り出されたそうだ。


「それで俺様もアリアも、荷物はいらんと放り出された!」


 フランゲルはダンダンと地団駄を踏む。


 要はフランゲルもアリアも、人質として攫われたのに、最終的に邪魔な荷物として捨てられたようだ。

 それでそのまま落下した二人は、ルドー同様この古代魔道具の戦艦に飲み込まれてしまった。


 ラグンセン残党のほとんどは、そのまま上空から海に投げ出されている。

 かなりの高さから、複雑で激しい海流に落とされては、ほとんど助かる望みはない。


 ただルドーたちと同じように、古代魔道具の戦艦に飲み込まれていれば、どこかで彷徨っているはずだ。

 ここから先は瘴気や魔物だけでなく、ラグンセン残党にも注意しなければ。


「それよりも、なんでその子がここにいるのよ!」


 アリアの指摘で、ルドーは思考から意識を急浮上させた。


 ビシッと指差すアリアの視線の先には、きょとんと黄色い瞳を輝かせているライアがルドーの背に収まっていた。


 魔物がひしめく真っ暗な戦艦の通路。

 そんな危険地帯に、シュミック王城で待機していたはずのライアが、なぜいるのかとアリアは訴えている。


「いや、なんか、手伝いたいって転移魔法でレチマスの屋敷まで飛んできちまって……」


「だったら保護した後、一旦飛行船に連れ戻しなさいよ! なんで一緒に危険地帯を連れ回してるのよ!?」


「ライアお手伝いできるもん!」


 アリアのもっともな指摘に、ルドーは言い訳も出来ずしどろもどろになる。

 事態を把握できているのかいないのか、ライアはプクッと頬を膨らませて抗議した。


「えぇい、そもそもなぜこんなにも魔物だらけなのだ、ここは!」


 フランゲルが大声を上げながら、火炎魔法で円を描くように広げ、周囲の魔物を焼き消していった。


 落下した戦艦の中が、ここまで魔物が蠢いているとはフランゲルも思っていなかったようだ。

 火炎魔法で照らし出された通路の先は、まだ魔物の黒い影が蠢いている。


 しかし通路の奥にいた魔物が複数、一瞬でザクっと切り刻まれた。


『ルドー!』


「あぁ、分かってる! ライア、二人といてくれ!」


「ちょっと!?」


「ルドにぃ!?」


 聖剣(レギア)の呼びかけと同時に背中にいたライアをアリアに放り投げて、ルドーは通路を走り始めた。


 見覚えのある攻撃方法。

 聖剣(レギア)にわざわざ言われなくても、ルドーにも分かっていた。


 転移魔法で飛ばしてくる、居合の斬撃。


 ラグンセン残党に、かつてルドーが対峙した鉄線の元幹部、あの居合切りの男がいる。


「敵意迎撃!」


 攻撃が来る前に、ルドーは叫んだ。


 転移魔法で斬撃を飛ばすなら、ルドーを敵として認識していなければいけない。

 一方的に切り刻まれた、あの時のルドーではないのだ。


 魔物の波を切り刻んで、雷魔法で焼き飛ばしながら、ルドーは先を目指す。

 聖剣(レギア)の一部の腕輪から、雷の盾をバチンと展開する。


 通路は真っ暗だが一本道だ。


 走り続けていると、転移魔法の斬撃が、バチンと雷の盾に相殺された。

 敵意迎撃の雷撃が、遥か彼方の前方で光り輝く。


 場所はわかった。


「でぇい!」


 ルドーは即座に、聖剣(レギア)を勢いよくブーメランのように前方に放り投げた。

 バチバチと弾けて回転する聖剣(レギア)の雷撃が、通路に立ちふさがる魔物を、次々と切り捨てていく。


「雷転斬!」


 男の目の前で、聖剣(レギア)が居合に弾かれたと同時に、ルドーは雷の速度で移動した。


 青い着物に、禿げた白髪を束ねた、傷だらけの老人。

 腰に下げた刀に手をかけ、居合切りの体制をとっている。


 間違いなくあの男だった。


 ルドーは即座に聖剣(レギア)を握って振り下ろすが、黒い刀身は空を切る。


 ここまでも想定内だ。


「二連雷転斬!」


 転移魔法で背後に回った男の、更に背後にルドーは移動する。


 居合の斬撃が転移魔法で飛ばせるなら、当然本人も転移魔法が使える。

 一度は雷転斬で不意を突いたのだ。

 同じ攻撃を行えば、当然通用せず、対策してくることは読めていた。


 対策してくるならば、ルドーが油断する背後に、この居合切りの男は転移するはず。


 そう分析したルドーは、雷の盾を敢えてその予測範囲に設置した。


 聖剣(レギア)までの距離を雷の速度で移動できるなら。

 聖剣(レギア)の一部である雷の盾まで、同じように移動することも、理論上は可能なはず。


 ルドーの考え通り、雷の盾の位置まで、雷転斬と同じように雷の速度で移動できた。


 背後に回ろうとしていた男の、がら空きの背中がルドーには丸見えだ。


『取った!』


「雷閃!」


 聖剣(レギア)の掛け声と同時に雷転斬の攻撃を叩き付けながら、ルドーは更に追撃を叫ぶ。


 以前は倒したと油断して、起き上がることを許してしまった相手だ。

 徹底的に攻撃を加えて、完全に倒し切る。


 空中から雷魔法の砲撃が、とぐろを巻くように重なり合い、次々と男を打ち貫いていく。

 バリバリと激しい雷光が周辺を照らし、雷撃の凄まじい音が狭い通路に反響した。


「おおおおおおおおおおおお……!」


 目の前の男から、野太い悲鳴が腹から吐き出されていく。

 悲鳴ながら、ルドーは男の声をここで初めて聞いた気がした。


 ほどなくして、真っ黒に焼け焦げた男が、白目をむいてバタンと床に倒れ伏す。


『おー、おー、おー。あんなに苦戦してたってのに、やるようになったねぇ』


「……茶化すなよ、これでも必死だったんだって」


 クツクツと不敵に笑い始めた聖剣(レギア)に、ルドーは少し照れ臭くなった。


 確かに聖剣(レギア)の言う通り、以前は一方的に切り刻まれ、辛勝とも言い切れない結果だった。

 それがここまであっさり倒せるようになって、ルドー自身も成長を感じ取ることが出来る。


 聖剣(レギア)にそう客観的に指摘されて、ルドーはムズ痒い気分だった。


 念には念をと、ルドーは靴先で黒焦げの男の頭をつつく。

 男が起き上がりそうにないのを確認していると、背後からパタパタと足音が迫ってきた。


「ルドにぃ! 凄い、あっという間にやっつけた!」


 アリアに投げ渡したライアが、紫髪を揺らしてパタパタと走り寄ってルドーに飛びついてきた。

 背後の魔物を駆逐しながら、フランゲルとアリアも走り寄ってくる。


「急に走り出すから驚いたではないか!」


「何かするときは先に言いなさいよ」


「悪い、場所が割れたら全員危ないって思って」


 右手に光魔法の球体を浮かべ、周囲を照らし始めたアリアのジト目に、ルドーは苦笑いで返した。


 実際、ルドー単体を狙われたから、ここまであっさり撃破出来たと思っている。

 アリアやフランゲル、その上ライアにまで転移魔法の斬撃が飛んで来たら。

 その時は凄惨な事態に発展していただろう。


 それを防ぐには、男にルドーたちの場所がはっきりバレない内に、素早く倒す以外に方法がなかった。


 説明したらその危険を冒すとルドーが話せば、アリアは渋々納得したように顔を背ける。


「おや、おもったよりやるじゃないか。手助けは不要だったかい」


 更に前方から聞いたことのある声が聞こえて、ルドーたちは顔を向ける。


「……ヤシャブさんまで、なんでここに?」


 思いがけない登場人物に、ルドーは首を傾げた。


 薄暗い通路にコツコツと足を響かせ、アリアの光魔法の球体に照らされたのは、ソラウからの協力者、勇者ヤシャブだった。


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