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第二百八十九話 突然の乱入者

 


「――――だから、俺が兄貴だって言ってんだろ!」


「え? この方が? こちらのお連れではなく?」


「はい、そっちが兄です……」


「なんだよ、喧嘩売ってんなら買うぞ」


 本日何度目になるか分からない問答に、ルドーは既に疲弊していた。


 煌びやかなシャンデリアが輝き、着飾った人々が優雅に踊る舞踏会の会場。

 ルドーの危惧していた通り、入場するなりリリアはレチマスの招待客らしき男たちに群がられた。


 二卵性双生児で見た目が真逆なルドーは、どう見てもお付きの使用人のような容姿だ。

 リリアを庇って前に出ると、部外者は引っ込めと遠回しに釘を刺される。


 その度にルドーは双子の兄で関係者だと名乗り上げるのだが、リリアがフォローしてくれない限り、誰も信じてくれない。


 まだリリアをエスコートしているエリンジの方が、双子と言われても納得する。

 そんな疑いの視線まで、セットで送りつけられながら。


 ここまではルドーも予想していた。

 悲しきかな、元々似ていない双子なので、この手の問答は初対面には日常茶飯事なのだ。


 問題はここからである。


「そのような方々に囲まれて、さぞ息苦しいでしょう」


「そうですとも。どうです、そちらのバルコニーで少し息抜きでも」


「えーっと……」


 男に声を掛けられて、リリアがどうすればいいか分からなさそうに困惑している。

 ルドーという双子の兄と、エリンジのエスコートをもってしても、男たちは諦めなかった。


 そう、問題は、ルドーとエリンジのガードが、会場にいる男たちにとって逆効果だった点だ。


 庇護欲そそる可愛らしい容姿のリリアが、どう見ても不良の面構えの兄ルドーと、不愛想な無表情のエリンジに囲われている。


 これは助け出さなければと、男たちの心に火をつけてしまったのだ。

 助け出して、そのままあわよくばという男たちの下心も、ルドーには若干透けて見える。


 会場を注意して観察しようにも、こう囲まれてはどうしようもない。

 ルドーとエリンジでは、リリアを守ることに逆効果だった。


「あら、既に断られておりますのに。言い募りますのはマナー違反ではなくて?」


「表の言動は本人の性質。この程度では、ここの方々も程度が知れますわね」


 サラリと当たり障りのない、しかし釘の入った一言。

 キシアとビタが、それぞれ扇子を広げて口元に当て、冷ややかな目を浮かべていた。


 指摘された男たちは、一気に部が悪くなる。

 当たり障りのない別れを告げて、そそくさと蜘蛛の子のように散り始めた。


 貴族子女と元貴族子女、流石である。


「駄目ですわよ、お二人共。もう少しシャキッとしてくださいまし」


「これだから田舎者は嫌になりますわ」


「わ、悪い。助かった……」


 息を吐いた二人からの非難を、ルドーは甘んじて受け入れた。

 限界集落出身のルドーには、このマナーを盾にした対処はまだよくわからない。


 だがエリンジは一応公爵家子息ではないのか。

 ルドーがそう思ってエリンジの方を向いたが、不可解そうな無表情があるだけだった。


「分からん。いつもは放っておいたら、知らん内にいなくなっている」


「エリンジくん、それ無言に耐えられなくなってるだけだよ……」


 エリンジの相変わらずの朴念仁ぶりに、リリアが補いきれないと呆れ果てた。


 エリンジは会話こそするが、基本的に最低限だけ話すので、口数が少ない。

 そこに他意は全くないのだが、言葉に裏があるのが基本の貴族社会では、意味深に聞こえる。


 結果、知らない間に周囲が気を悪くしたと、慌てて撤退するのが常だったようだ。

 それでは牽制もなにもあったものではない。


 ルドーとエリンジの様子を見たキシアとビタが、額を寄せて扇子で口元を覆い、ひそひそと話し始めた。


「駄目ですわ、キシアさん。この方々役に立ちませんわ」


「そうですわね。かといって、リリアさんにクロノさんの真似をさせるのは酷ですし……」


 ボコボコの酷評を受けつつ、ルドーはキシアとビタがちらりと視線を向けた先を見る。

 そこにはクロノが、真っ赤にゆで上がったようなカイムに、慣れないエスコートされていた。


「そこの方。どうです、一曲」


「学生の身です。踊るつもりで来ておりません、他を当たってください」


「ファブのレペレル辺境伯ご令嬢とお見受けします、噂通り見目麗しく……」


「話が無いなら結構です、お引き取りください」


 クロノは言い寄って来た男を、片っ端からバッサリと一刀両断、冷徹に蹴散らしていた。

 横にいるカイムは男が来るたびに警戒しているが、何かする前にクロノに対処されて混乱している。


 クロノもあれで一応貴族子女だが、周囲への無礼も承知で取り付く島もない。


「あれはクロノさんにしか出来ない対処法ですわ」


レペレル辺境伯(化け物辺境伯)の子女ですもの、身の上を気にしなくてよろしいですものね」


 感心したようなキシアとビタの評価を、ルドーは黙って聞いている。


 普通の貴族子女なら、あの対応は反感を買って問題になるだろう。

 ただクロノは世界に名を轟かせる、レペレル辺境伯(化け物辺境伯)の末女だ。


 大型魔物暴走(ビッグスタンピード)を屠るファブの化け物辺境伯は、誰も敵には回したくない。

 取り入ろうと近付くことはあっても、反感から陥れることなど、恐れ多くて出来ないのだ。


 もっともクロノ本人も、簡単に陥られるほど軟でもないが。


「やはりエリンジさんに、リリアさんの対応は難しかったかしら?」


「なんだと?」


 遠くを眺め、扇子越しで意味深に発したキシアの発言に、エリンジが食いつく。


 完璧主義のエリートには、出来ないこともあると断言されることが無性に腹が立つのだろう。

 特にエリンジは、出来ないことでも泥臭く努力を重ねるタイプだ。

 睡眠時間一時間で勉強するのは極端だが、キシアは何の意図があってその発言をしたのか。


 火の付いたエリンジは、しばらく会場を見渡した後、無表情でリリアに向き直った。


「要は男に声を掛けられなければいいのだろう。リリア」


「えっと、なに?」


「踊るぞ、付いて来い」


 そう言ってエリンジは、スッとリリアに手を差し出した。


 突然のダンスの誘いである。

 確かにダンスフロアで踊っていれば、男は誰も声を掛けられないが。


 あまりにも力技すぎるエリンジの対処方法。

 想定外の提案をされて、リリアは真っ赤になって慌てだした。


「えっ!? 私、踊ったことない!」


「リードする、合わせていればいい」


 有無を言わせぬエリンジの気迫に、リリアは屈した。

 真っ赤になったまま、恐る恐るエリンジの掌に手を乗せ、そのままダンスフロアまで連れて行かれる。


 そうしてエリンジとリリアは踊り出したわけだが、これがなかなか様になっていた。

 エリンジは流石公爵家子息、リリアを完璧にリードしている。


 リリアもエリンジとそれなりの付き合いだから、何となく歩調を合わせやすいようだ。

 真っ赤になりながらも、なんとか食らいついてエリンジに付いて行っている。


 してやったりとキシアが微笑む。

 どうやらキシアの狙いはこれだったようだ。


 どうして双子の妹と親友の、息ピッタリのダンスを見せつけられなければならないのだろう。


『兄ちゃん、そんな落ち込むなって』


「そうだよ、ルドー。トラスト見てみろ、こんななってんのに」


 ルドーは聖剣(レギア)のからかい交じりの声を無視した。

 そのままキシアの後ろにいたアルスに言われて、ルドーは横を見る。


 完全に焼き切れ真っ白になったトラストが、ぐしゃぐしゃのコントラストで呆然と佇んでいた。


 視線の先には、トラストが惚れている想い人のリリアが、エリンジと完璧に息ピッタリ踊っている姿。

 完全に玉砕しているが、トラストはまだ諦めないのだろうか。


 リリアの相手に、エリンジならまだいいが、ルドー的にはトラストはない。

 トラストにはリリアを守るだけの実力が伴っていないのだ。


 なのでルドーはここぞとばかりに追撃を与えた。


「トラスト。正直言って、リリアはお前のこと友人止まりだと思うぞ」


「うわ、言わない方が良かった」


「今追い打ちかけるんですの?」


「その容赦のなさは、もはや恐ろしいですわ……」


 身内の兄としてのルドーの警告に、アルスとキシアとビタが仰天する。


 だがルドーからすれば知ったことではない。

 将来的な相手を考えるなら、リリアの身の安全がルドーにとっては第一なのだから。


 それにトラストは、リリアの優しさに触れて惚れた。

 それでは村の若男衆と大差がない。


 リリアの頑固さの本質を理解していないのだ。

 容姿だけ見ているようで、どうにもルドーには気に食わない。


 ルドーの一言で、トラストは完全に崩れ落ちる砂のように、ザラザラと真っ白になった。


『兄ちゃん、相変わらずガード硬くて容赦ねぇな』


 聖剣(レギア)がゲラゲラ笑いだしたが、ルドーはまた無視して改めて会場を見渡した。


 フランゲルは相変わらず、大量の女性にまとわりつかれている。

 もはやハニートラップを疑わざるを得ない状況だ。

 フランゲルはその可能性は考慮できているのだろうか、いないだろうな。


 もはやフランゲルは、背後に控えているネルテ先生とボンブに任せるしかない。


 対照的にアリアは、珍しく会場の隅の方でじっとしている。

 視線の先にはフランゲルがいるが、絶妙にタイミングが合わず、お互いの目が合わない。


 ヘルシュとウォポンが必死に励ましているが、効果がないようだ。

 アーゲストも飲み物を渡しながら、アリアに軽く声をかけている。


 これは今回の件が終わってからも、厄介なことになりそうだ。


 一方で会場の別方向では、ノースターが男女問わず様々な相手を魅了していた。

 カゲツがその横で悪い顔をして、見物料を取り始めている。


 貴族相手にその商売は通じるのか。

 まぁ、ここにいる貴族は腹黒い連中も多くいるのだろうが。


 メロンは会場の料理を、片っ端から口に突っ込んでいる。

 目的を忘れていないだろうか。

 イエディが傍に居るので大丈夫だと思うが、不安だ。


『ん?』


 ルドーが周囲の確認をしていると、不意に聖剣(レギア)がバチッと弾けた。

 敵襲かとルドーは一瞬警戒したが、警告を発しないあたりどうやら違うらしい。


 何か不審な点はあるが襲撃の類ではないのか、聖剣(レギア)はバチバチ何かを探り始めている。


『中庭か。ルドー、ちょっと様子見てくれ』


「えぇ? 急になんだよ」


『早くしたほうがいい、面倒になるぞ』


 急かされるようにバチッと頭に雷を受けて、ルドーは渋々会場から外に出た。


 煌びやかでダンスの熱気がある会場とは違って、少し薄暗い外は、夜風が吹いて心地よかった。

 人気の少ない廊下を、聖剣(レギア)に言われるがままルドーは進む。


 そこまで遠くないという指示に従い、会場から死角になっていた、噴水のある中庭にたどり着いた。


 ここも休憩スペースとして開放されているので、入ってきて問題ない場所のはず。

 一体何があるのかとルドーが辺りを見渡していると、すぐ傍の植込みがガサッと揺れた。


「……えっ? ライア!?」


「わぁ! ルドにぃにバレた!」


 ガサゴソと揺れる植込みを覗き込むと、見慣れた紫髪が垂れていた。

 薄暗い夜に輝く黄色い瞳を真ん丸にして、なぜか待機していたはずのライアがそこにいたのだ。


 ルドーは慌てて周囲を見回し、人がいないのを確認してから、ライアの傍に見つからないようしゃがみ込む。


「なんで付いてきてるんだよ!? レイルとロイズと一緒に、キャビンと城で待ってるはずだろ!?」


「だって、お手伝いできなくて、つまんないんだもん!」


 声を潜めてルドーは咎めたが、ライアは思いっきり大声をあげる。

 言っても聞かない七歳児は、そう言ってプクッと頬を膨らませた。


 どうやら城や島までは一緒に行動できたのに、肝心の舞踏会に参加できず、ライアたちには不服だったようだ。

 しかしここは、人攫いも平気で行うラグンセンの残党がいるかもしれない、敵陣ど真ん中。


 魔人族な上に、かつて大人と一緒にカプセルに詰め込まれるほど魔力が多いライアが一人では、危険極まりない。

 実際にライアたち三つ子は、一年前に兄であるカイムの目の前で人攫いにあったのだから。


 ルドーは目立つライアの容姿をなんとかしようと、タキシードの上着を脱いで被せた。


「わぷっ」


『転移魔法で、直接ねじ込んできたみてぇだ。反応あったからもしやと思ったが……』


 様子を見ていた聖剣(レギア)の説明に、ルドーは項垂れる。


 中庭に急げと警告した聖剣(レギア)は、どうやらライアが転移してきた魔力反応を捉えたようだ。

 聖剣(レギア)は確信を持てなかったが、もしそうならとんでもない。

 そこでルドーに確認しろと騒いだのだ。


 結果的に見れば、ルドーが見に来て正解だった。


「ライア、お前一人か?」


「レイルとロイズも一緒しようとしたけど、失敗しちゃった……」


 ルドーの質問にしょんぼりと答えるライア。

 どうやらまだ転移魔法の制御は完全には出来ないようだ。


 無理もない。

 転移魔法は、ルドーたちエレイーネーの魔法科でも、エリンジ並みでなければ扱えない高度な魔法。

 ライアは魔力の多さで無理を通し、ゴリ押しでなんとかしているのだろう。


「キャビンが今頃悲鳴あげてるだろうな。とりあえずカイムのところに行くぞ」


「えー!? 手伝うー!」


「危ないからダメなの!」


 聞き分けのないライアを嗜め、ルドーは周囲の安全を確認しようと身を屈めたまま見渡す。


「カイムは確かまだ、クロノと一緒に会場に……」


『あ、悪い。ついさっきお前が会場出たあと、地下を探ろうとあいつら二人こっそり出ていったわ』


 聖剣(レギア)の報告に、ルドーはガクッと肩を落とした。


 地下の簡易転移門の場所がわかるのは、妨害を突破して透視出来るクロノだけ。

 必然的に、クロノと行動を共にするカイムも、地下に向かうことになる。


 おおよそあまりにも誘いが多くて疲れたなどと、適当な言い訳で会場から離脱したのだろう。


 流石に敵陣の深部である地下に、ライアを連れていけない。


「会場は、エリンジとリリがまだ踊ってるから会話できないし。そもそも人が多すぎて、誰が敵かもわからないからな……」


 どうすればいいか、ルドーは思考を巡らせる。


 ルドーは役職勇者のデメリットで、戦闘以外の魔法が使えない。

 だから連絡を取り合う通信魔法が使えないのだ。


 ラグンセンの残党がどこに潜んでいるか分からない。

 会場にノコノコとライア()をぶら下げて行けるわけがない。


 ネルテ先生もフランゲルを注意して見ている。

 一番目立つ場所だ、余計に連れて行けなかった。


 かといってこのままでもよくない。

 ライアの有用性は裏社会のマフィアで実証済み。


 ライア一人で放置すれば、万一捕まった際に何をされるか分からない。


「……ぴえっ」


「ん?」


 ルドーが考えていると、ライアが囀って植込みにガサッと隠れた。

 一体なんだろうとルドーも身を屈めて隠れていると、コツコツと中庭に続く廊下を、一人の人物が歩いてきた。



 ――――探していた、ナナニラだった。



 ルドーは身を屈めたまま、ゴクッと生唾を飲み込む。


 ナナニラは見分けが付きにくいように、外套を目深に被っていた。

 そのまま人気のない方へ、廊下をコツコツと一人突き進んでいく。


 離れていくナナニラに注意を向けながら、ルドーは一瞬ライアを盗み見た。

 頭を植込みに突っ込んでお尻だけ出ているライアは、怖がってプルプル震えていた。


 そもそもルドーが初めてライアを目撃したのは、魔力を無理矢理抽出するカプセルの中。

 コロバとナナニラが画策していた、アシュの歌姫像暴走事件での塔の上だ。


 あの時ライアは魔力源として扱われていた。

 気絶しても回復魔力を使って無理矢理動かしてきたナナニラを、ライアは覚えていたのだろう。


 ナナニラの姿が廊下の角に消えたところで、ルドーは震えるライアに話しかける。


「わかっただろ? ここには怖い人がいるんだ。ライアにはまだ早い」


「……あのワルモノ、追いかけるの?」


「そうしたいけど、ライアが一緒はダメだ。でもこのままってのも……」


 廊下の角を睨むように凝視して、ルドーは考える。


 通信魔法は使えない。

 報告しに会場に一旦戻っても、ライアをどうにかできなければ動けない。


 なによりその行動一つで、ナナニラを見失ってしまったら意味がない。


「……ルドにぃ。今のワルモノ、捕まえるの?」


「うん、そうしたいから探してたんだ」


「じゃあ、ライアも一緒に行く!」


「えっ?!」


 植込みから飛び出し、両手を握り涙目で見上げてきたライアに、ルドーは驚愕した。


 ライアは間違いなく、ナナニラに恐怖していたはずだ。

 それなのに、ルドーに協力してナナニラを追いかけたいと訴えている。


「あのワルモノの魔力、ライア覚えてるよ! だから、だから、追いかけっこできるもん!」


 葉っぱまみれでルドーのタキシードに包まったまま、ライアはルドーのズボンに縋り付いてくる。


 確かにライアは魔力が多い。

 人の顔より魔力で覚える程だ。


 気絶から無理矢理回復魔法を何度もかけてきたナナニラ相手なら、ライアも魔力をしっかり覚えている。

 だから聖剣(レギア)よりも先に、ナナニラの魅力を感じ取って隠れることができた。


「危ないんだって。ライア、そう言っても……」


「だって逃げちゃうよ、ルドにぃ! ライア、追いかけられるもん! ルドにぃと一緒なら、怖くないもん!」


 ルドーは説得しようとしたが、逆にライアを焚き付けるだけだった。


 もしこの状態で、ライアを連れ戻そうとしたらどうなる。

 また制御出来ない転移魔法を使って、役に立とうと単身ナナニラを追いかけ始めたりしないか。


 危険すぎる。

 それだけはさせてはいけない。


 ルドーはじっと、廊下の角を見つめた。


 ナナニラが通り過ぎてから、すでに数分過ぎてしまっている。

 ルドーの敵対探知も、周囲にラグンセンの残党がいれば、敵だらけでナナニラ単体を探しにくい。


 その点ライアなら、ピンポイントでナナニラの魔力を追える。


 選択肢は絞られてしまっていた。


「……聖剣(レギア)


『感覚に頼りな。お前の判断に従う』


 自信を持ちきれないルドーは、聖剣(レギア)から最後の後押しを貰った。

 そっとライアの前にしゃがみ込み、黄色い瞳と目線を合わせる。


「分かった、ライア。いいか、俺より絶対に前に出るな」


「うん」


「俺の命令にも絶対従うんだ。“俺を見捨てて逃げろ”も。“俺を気にせず攻撃しろ”もだ」


 しっかりと言い含めるように、ルドーはライアの両肩に手を置く。


 話を聞いたライアは、驚いて両目を大きく見開いた。

 だが首を縦に振らなければ、ルドーは同行を許すつもりはない。


 しばらくして、一度ライアは俯く。

 ルドーに言われた言葉を噛み締め、ゆっくりゆっくりと顔を上げ、決意した目に涙を貯めた。


「……うん」


「よし、それじゃ行くぞ」


 ライアの返答にしっかりと頷いたルドーは、立ち上がって廊下の先を睨みつけた。


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