表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/190

第二十六話 暴走する古代魔道具

 濃度の高い瘴気がどんどん充満していくにつれ、発生する魔物の規模が少しずつ大きくなってきていた。

 踝ほどだった瘴気が膝上まで上がってきており、このままだと瘴気にのまれて自分の居場所さえ見失いそうだった。


 転移魔法と通信魔法は使えなくなったが、攻撃魔法まで妨害されていなかったのは不幸中の幸いとでもいうのだろうか。

 それでもこれまでずっと戦い続けたせいか消耗が激しく、魔力が枯渇すれば戦えなくなるわけで、いつまで持つかわからない中戦い続けるのは通常の戦闘よりずっと危険が伴う。


 古代魔道具は経年劣化でさえ壊れることはない永久機関だ。だからこそ戦争や内戦の火種になるそれは滅多に表に出回ってこない。

 そんな厄介物を各国が厳重に保管しているのは、破壊することが出来ないからだ。

 破壊することが出来ない以上、厳重に封印して表に出てこないようにするしかない。

 国庫の奥深くに封印するように保管された古代魔道具は、その国の王族でさえ正確に把握できているかさえ怪しいと聞く。

 そんな破壊することが出来ない古代魔道具が吐き出している超濃度の瘴気、破壊することが出来ないのにどうやって止めればいい。

 未だに響き続けている金属音は思考を揺らして考えをまとめさせてくれない。


「古代魔道具が瘴気を生むだと!? なぜそんことになるのだ!」


「魔の森の中のこの遺跡、ずっと昔に滅んだ国のなにかだったんだよきっと。ここに放置されて何年たってるかわからない、数十年か下手したら数百年か。存在を忘れ去られて誰にも管理されなくなったから暴走してんのよ!」


 瘴気から出現する魔物がどんどんと大きく強力になっていく。

 そんな魔物を一撃一撃で確実に仕留めながら、疑問を呈したフランゲルの叫びにクロノが答えた。


『あぁなったらもうだめだ。どうにもならねぇ』


「あの瘴気が発生しないように直すことは出来ねぇってことか!?」


『完全に腐っちまったもんはどうにもなんねぇだろ』


 その言葉の意味がよくわからずルドーは一瞬怪訝な顔になる。

 聖剣(レギア)の例えが分かりにくいが、要は修復することも不可能だという事だろうか。

 腰まで上がってきた瘴気から中規模魔物が発生し始め、戦える者で何とか処理している。


「この濃度の瘴気がこの勢いで増えたらマズイ! このままだと数日で遺跡から溢れて近隣の町が襲われる!」


「つまり逃げるのも悪手だと?」


「最悪はそうしたかったけどね。だが転移魔法を封じられた今、君たち全員を抱えて飛行魔法は不可能だから残念だけどもう戦うしかない」


 エリンジの返答にそういうとネルテ先生は服の裾をビリっと破ったと思ったら、血を流している左腕にギュッと巻いて止血する。

 そしてそのまま魔力を練ると次々魔物を屠りだす。回復に使う魔力も惜しいという事だ。


 エリンジも会話をしながら虹魔法を順次展開して魔物を確実に仕留めていた。

 ただ先程の戦闘の消耗が酷過ぎるせいか、いつもの火力が少しずつ下がってきている。


 フランゲルはまだ魔法が不安定ではあるが火力は申し分ない様子で、こういう多数の魔物に対して効果的だった。

 ただ後先考えずに剣を振って炎をぶっ放しているので、数発放っては息を切らして、息が整ったらまた数発繰り返している。


 メロンも何とか魔物を倒そうと画策しているが、まだ練度が低くそもそも自力で水を作れないせいで、水路からこぼれていた水をかき集めて弾き返すのがやっと。しかも数が多いせいで息切れし始めている。

 イディアに至っては魔物に対処する確実な魔法すらないようで、メロンの後ろにしがみ付いていた。


「カイム、連絡はまだ?」


「さっきのくそ人間どもの余波に食われた。さっきから試してるがうんともすんともいわねぇ」


「妨害されてるか」


「それでも連絡取れなきゃこっち来るだろうね、この瘴気さえなければ」


 クロノたちの方もそれぞれ魔物を倒しながら何やら話している。

 どうやらここに居たのは今までのように施設を破壊するのとは別の目的のようだ。

 何の目的かは皆目見当がつかないが、それもこの瘴気のせいで向こうも動けなくなっている。

 魔物を倒しながら現状を何とかしようと必死に話し合う声が聞こえる。


「おめぇのいつもの馬鹿力であれぶっ叩いて壊せねぇのかよ」


「そっちは無理。多分もっと瘴気が出て悪化する」


「なんでやってもねぇのに分かんだよ!」


「色々と見てるからだよ……ん?」


 カイムと話していたクロノが何かに気付いたように暴走している古代魔道具の方をじっと見つめる。

 髪の刃で次々と魔物を屠りながら、その様子に気付いたカイムが怪訝な声を浴びせた。


「今度は何だよ!?」


「傷が付いてる……? いやでもそんなはずは……」


「聞けよ! だからなんだってんだよ!?」


「ボンブ! ここで戦ってた時あのあたりで傷がつくような攻撃に心当たりある!?」


 クロノが大声を上げて指差した方向にルドー達も視線を向けると、黒ずんだ真鍮の巨大な鍋の縁当たりにうっすらと亀裂のような掌大の傷があった。

 それがなんだと叫ぶカイムを無視してクロノはボンブに必死に返答を求めたので、ボンブは魔物に攻撃魔法を浴びせつつ、先程の戦闘を思い返すように唸りながら伝える。


「俺はここに落ちてきただけだ。その後すぐ合流したからあそこには攻撃してない」


「あのちっちぇえ傷が何だってんだよ!」


「破壊できないはずの古代魔道具に傷を付けられるものがあるってことだよ! それなら破壊できるかもしれない!」


 クロノの叫びにその場にいた全員が驚愕してもう一度傷を見直し、間違いなく傷がついている事を確認する。

 その場の全員が先程の戦闘でその様なものがあったか必死に記憶を探り始めるが、誰一人思い当たる攻撃が全く出てこない。

 全員が魔物を対処しながら必死に頭を回しているとき、不意に聖剣(レギア)が呟いた。


『あ、あれ俺が刺さってた時の傷じゃね?』


「あっ! さっき聖剣(レギア)がぶっ刺さってたのこれか!」


 思い出したかのような聖剣(レギア)の言葉にルドーも引き抜いたときのことに思い至った。

 真っ暗で何も見えなかったが、確かに五メートルほどの高さから落下した。

 今の明るい状況から見返して見れば、ちょうどあの真鍮の大鍋の高さと同じくらいだ。

 ルドーの声にその場の全員がこちらを振り返る。


「たしかその聖剣も古代魔道具だったな、まさか古代魔道具なら古代魔道具を破壊できる?」


「前例はないよ、でも傷の原因がそれなら可能性はある!」


 エリンジとネルテ先生の会話に、ルドーは聖剣(レギア)を両手で握りしめて問い詰めた。


「おい聖剣(レギア)どうなんだよ!」


『流石にやったことねぇから知らん! でもそうかあのよくねぇ感覚……』


 聖剣(レギア)が珍しくブツブツ言い始めて最後の方は聞き取れなくなる。


「おいトゲ髪三白眼! 出来んのか出来ねぇのか!」


「なんだその呼び方! 流石にやってねぇからわかんねぇけどやるしかねぇ!」


 向こう側で戦いながらこちらの話を聞いていたのか、カイムがしびれを切らしたように上げてくる大声に、ルドーは意味も分からず切れ返す。

 しかしルドーが試しに雷魔法で攻撃しようとした時、タイミング悪く瘴気が胸まで届き始めたせいか、今まで戦った比ではない超大型の魔物が沸いた。


 大きな竜のような、蛇のような、首を擡げるようにしながら、暴走する古代魔道具のすぐ後ろから同じほどの大きさの頭が現れ、ゆっくりと首を振って縦に長い目がこちらを視認している。

 少しずつ全身を現していくそれと比例するような絶望が身を支配していくように全員が動けなくなって呆然と見ていたが、突如大きな打撃音と共に超大型魔物の首が大きく曲がって霧散する。

 クロノが跳び上がって超大型魔物の首を屠ったところだった。


「魔物はこっちで何とかするから壊すの頼んだ!」


「てめぇまた勝手に!」


「言ってる暇ないでしょ! 他に方法あんの!?」


 魔物を屠って着地した後、クロノはそう叫んでは噛み付いてきたカイムに言い返し、再び湧き始めた超大型魔物に飛び上がってまた蹴撃を食らわせ始める。

 大きく舌打ちして悪態をつきながら、カイムもルドー達周辺の小中規模魔物を髪の刃を使って駆逐し始め、それを見たボンブも倣うように周囲の魔物に赤黒い魔力を練って攻撃魔法を放って狩り始めた。

 どうやら渋々だが協力してくれるようだ。


「全員ルドーの援護だ!」


 ネルテ先生が大声を上げて周囲の魔物を魔力の拳でボコボコに叩き始め、エリンジたちもそれに頷いて続く。

 全員の消耗が激しい今散り散りに戦っていては効率が悪い、皆ルドーの周辺に集まってその周辺のみ集中的に魔物と戦い始める。

 その様子を見た後、ルドーは聖剣(レギア)を構えて真鍮の大鍋に向き直った。


『大分ボロボロだがいけそうか? ルドー』


「多分あと全力一発使ったら気絶ってところか」


『いつも通りギリギリだな』


「それより気になるのはその一発であれが破壊しきれるかどうかだって」


 ルドーはなんとか足を奮い立たせて深呼吸し、魔力を溜め始める。

 色々と戦い続けて短時間に雷閃を二発も撃ったせいか、魔力を溜めるのもかなり集中力を使い、いつもよりずっと遅く感じる。

 そんな疲労困憊の状態で古代魔道具を一撃で破壊できるかルドーは不安に思っていたが、聖剣(レギア)はあっさりとそれを否定した。


『そっちは多分大丈夫だ』


「なんか根拠あんのか?」


『あれはもうダメだって言ったろ、そういう事だよ』


 暴走するほどダメになっているから、耐久はそれほどないという事だろうか。

 どうにもこの辺りの事は若干ぼかされて伝えられている様な気がするが、今は気にしていられないと魔力を溜める方にルドーは集中した。


 狙うとしたら先程の傷口にもう一度当てるのが一番効果的だろうか。

 他の傷のない部分に当てて弾かれたら目も当てられない、間に魔物が入ってきてそいつに攻撃が吸われるのもダメだ。


 ギリギリで戦っているのは何もルドーだけではない。

 全員の限界が近い中確実に全力が当たるタイミングで攻撃を放たなければならない。

 どうするべきか魔力を溜めながら考えていると、急に聖剣(レギア)からバチッと雷が弾けた。


『ゴチャゴチャ考えてんな、捨てろその考え』


「いやでも外せねぇ」


『だから余計なんだよそのゴチャゴチャした考え。魔法は感覚でやれ』


「いやだからそれわかんねぇって……」


『当たれって思って撃ちゃいいんだよ、アホ』


 さらにバチッと額に小さな雷が当たった。

 まるでデコピンでもされたような感覚だが、そこで初めてルドーは身体が緊張して固くなっていたことに気が付いた。


『肩の力抜けや、それじゃ当たるもんも当たらねぇ』


「いやホント助かる」


『おうよ』


 思わず礼を告げるとクツクツ笑うように返される。

 目を瞑ってゆっくりと息を吐いた後、当てる部分にのみ視線を向けた。

 周りの戦闘の音がどこか遠く聞える。魔力は充分に溜まった。やることはいつだってシンプルだ。


「あたれえええええええええええええええええええ!!!!」


 大声を上げながら大きく聖剣(レギア)を振り上げる。

 超極太のレーザー状の雷魔法、雷閃が刃から放出され、真鍮の大鍋ど真ん中に命中して轟音と激しい雷光を放ちながら反対側まで綺麗に貫いた。

 貫いた場所から次々と亀裂が入り、まるでパズルがバラバラにされていくかのように白く激しく光りながら粉々になっていく。

 魔物が崩れる時の様にボロボロと崩壊して、連鎖していくように超濃度の瘴気の発生が消え、既に発生していた瘴気も掻き消えていき、湧いた魔物と一緒にただ塵になっていくだけだった。

 攻撃の余波と真鍮の大鍋が崩れていく衝撃で、その空間そのものが大きく震え、全員がその場に蹲って耐え続けた。


『……っと、……れ……』


 不意に小さくなにか聞えた気がしたが、それが何かを理解するよりも先に、全力を出したせいでルドーの意識は混濁し、そのまま闇にのまれて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ