第二百六十話 運用の妙は一心に存す
魔法訓練が終わった後、ルドーはどうクロノに声を掛けようかと考えていた。
エリンジがあれだけ無理を言った後なので、多少ほとぼりが冷めてから出なければ、クロノが話を聞くとは思えなかった。
「リリ、エリンジどうだった?」
「ダメ。いくら説明しても、納得いかないの一点張り」
「こっちもなんとかしねぇとなぁ……」
少し機嫌が悪そうに頬を膨らませたリリアに、ルドーはどうしたものかと目頭を押さえる。
エリンジのあの行動は、あくまで善意だからこそ質が悪い。
しかもクロノは恐怖が先行していて、受け流すだけの心の余裕がないから、過剰に受け取ってしまっている。
クロノのいつもの飄々とした態度なら、エリンジのあの強引な主張も、ある程度皮肉を言って受け流すことが出来るだろうからだ。
恐怖を克服させるにしても、エリンジがあの調子だと、緩和したと思ってもまた振り出しに戻りかねない。
クロノの恐怖対策と同時に、エリンジの朴念仁ぶりも、いい加減どうにかしないといけなかった。
「全くもう、エリンジくんはいつもいつも……」
一度言い始めたら止まらなくなったのか。
リリアはエリンジの朴念仁ぶりの愚痴を盛大にこぼし始めた。
「いつも黙っておかないとってところで、黙らないし……」
「あー、うん」
「人が一番気にしていることを、無遠慮に突っ込んでくるし……」
「お、おう……」
「挙句の果てには、傍にいないと落ち着かないから、遠くに行くなとか言うんだよ!?」
「ん? リリ、それって……」
「え? あっ……い、いや、違う! 絶対違うの!!!」
ルドーに話した後でハッとしたリリアは、自爆したことに気付いて真っ赤になっていた。
ベシベシ制服を叩いてくるリリアに、ルドーはなんともいえない気まずさを味わう。
エリンジはあの調子だから、自覚なくリリアに言ったのだろう。
何が悲しくて、妹と親友の無自覚な恋愛模様を聞かなければならないのか。
ルドーが知らない間にリリアはエリンジと会話している機会が思ったより多く、別の意味でドギマギしてしまった。
『おーおー、なんか惚気聞かされてないかこれ』
「考えるな、聖剣。考えるな………ん?」
疑問を持つように聖剣がパチパチ弾けたところで、ルドーはふと思い至った。
『どうした?』
「いや、エリンジのあれをマシにするには、実例見せてやったほうがいいかなってさ」
歌姫を抜きにした話し合いだと提案すれば、クロノも会話に参加するし、エリンジの朴念仁の調整にも、多少役に立つのではと。
「あれに実例見せたとこで、人の機微とか分かんのかよ」
「うわぁ!? カイムくんいたの!?」
「はぁ? どこみてんだよてめぇ」
後ろをずっと付いてきていたカイムに、リリアはたった今気が付いた。
リリアは先程の会話を聞かれたと、羞恥で真っ赤になって、カイムの眼前をワタワタと両手を振り回している。
「カイム、ちょうどいいから、話し合いに参加してくれないか?」
「……クロノの逃げ場所になっとけってか?」
「そういうこと」
ルドーが真っ赤なリリアを落ち着かせつつ声を掛ければ、カイムはすぐに理解した。
「何の話し合いすんだよ。歌姫についてなら来ねぇぞ、あいつ」
「一旦歌姫については忘れて、例の、女神深教の対策を話しておこうかと思って」
ルドーの提案に、カイムは真顔に変わり、リリアも驚いて赤面を引っ込めた。
対策のために探していた、心理鏡は手に入れた。
女神深教の祈願持ちたちについて、本格的に話し合う必要がある。
クロノのトラウマの元凶だ、きっと話し合いには参加してくる。
カイムという逃げ場所があれば、尚更。
それでも大丈夫なのかと疑心を抱くカイムに、ルドーはさらに付け加えた。
「エリンジには条件を付ける」
「条件だぁ?」
「このままじゃ、話し合うにしても平行線だからな。大丈夫だ、任せてくれ」
ルドーはそう言って、カイムをじっと見据える。
しばらく無言でいたカイムは、やがて唸るようなため息を吐いた。
「……まぁ、何考えてんのか知らねぇが、話し合う必要はあらぁな」
「助かる、カイム」
ルドーが軽く礼を言えば、カイムは面倒そうに手を振る。
クロノを呼んでくると、カイムはそう言って立ち去って行った。
「条件とは何だ」
「ひゃあ!? エリンジくん!?」
リリアがそう叫んで、ルドーの背中に隠れた。
カイムは気を使って知らないふりをしてくれた。
だがエリンジはリリアの先程の発言を聞いても、気を使うとは思えない。
自身の発言を聞かれたと思って、リリアは真っ赤になってルドーの背中で震え始めた。
幸い、リリアの発言をエリンジが聞いたとはルドーには思えない根拠があるので、背中で震える妹にルドーはそっと呼び掛けた。
「リリ、安心しろって。カイムと話してる途中で、エリンジがこっちに来てたの見えてたから」
「……ほんと?」
「だから条件とは結局なんだ」
ルドーの発言を裏付けるように、エリンジはリリアの発言より、カイムと話していた会話に注力していた。
この様子から、カイムと話す前の、リリアの独白をエリンジは聞いていない。
それでも油断ならないと、ジトリと訝しむ視線をエリンジに投げながら、リリアがルドーの背中からそっと出てくる。
リリアの様子を確認した後、早く話せと言わんばかりの態度の無表情に、ルドーは向き直った。
「エリンジ、お前は今回、クロノに意見求められない限り黙ってろ」
「なんだと?」
「歌姫の歌に必要なのは、クロノの信頼だ。エリンジ、お前のじゃない。お前がクロノに信用されない限り、歌姫の強化は平行線のままだ」
『一旦黙って様子見て、あいつが信頼できると思う要素探せってことか。考えたな、ルドー』
納得したようにパチリと弾けた聖剣とは対照的に、エリンジは理解できないとばかりに機嫌の悪い無表情を浮かべ始めた。
それもルドーの予想通りと、さらに畳みかける。
「エリンジ、お前、クロノのこと何も知らないだろ」
「知るわけないだろ、あいつは話さん」
「話してきたことだけが情報じゃないだろ。仕草とか、表情とか。話さない空気からでも、得られることはあるんだよ。だからエリンジ、今回はそれを試してみろって」
「……エリンジくんにそれは、難しくない?」
ルドーの話を聞いたリリアが、流石に不安になって声をあげた。
だがこれが、エリンジにとっては決定打となる。
最強の魔導士を目指すエリンジは、出来ないことがあるのが看過できない。
エリート思想の完璧主義者に、リリアの何気ない一言が火をつけたのだった。
「……いいだろう、やってやる」
「えっ?」
了承の旨を返したエリンジに、リリアが驚いてその無表情を見つめる。
「黙ってクロノの様子を見て、あいつがどういうことに信頼を置くか、観察しろということだろう」
「そういうこと。ま、女神深教対策には、エリンジの持ってる心理鏡が鍵だ。クロノもエリンジのこと、完全には無視しないだろって」
決心した顔の無表情に、ルドーはそう言いつつ不安そうなリリアの頭をポンポンと叩いた。
「――――で? あいつらに対する対策を話したいって聞いたんだけど、具体的に何話すわけ?」
魔法科校舎二階の応接室。
普段はエレイーネー外部からの依頼応対用の場所を、ルドーは無断で間借りした。
机を挟んで向かい合うようにルドー、リリア、エリンジ、カイム、そしクロノが集まって椅子に座る。
カイムがいいように連れ出してくれたのか、クロノはルドーが思ったより素直に話し合いに応じてくれた。
クロノは話し合いの場にエリンジがいて、一瞬警戒の色を見せる。
だが心理鏡がエリンジの目の前の机に置かれているので、必要な同席だとなんとか納得してくれたようだ。
「女神深教の祈願持ちたち。あいつらと戦うとして、どう動くかを決めておこうと思って」
「動き方?」
「あいつらを見つけ出しても、結局は戦わないとダメだ。不意の遭遇もあるんだし、どう連係して動くか決めときたいと思って」
ルドーはそう言って全員を見渡した。
心理鏡が手に入ったからといって、それで女神深教の祈願持ちを一撃で倒せるわけではない。
ルドーたちが祈願持ちに心理鏡が有効と考えたのには、相手の内面が攻略の鍵だと考えたからだ。
ライアの発言で、一度縁祈願の器が破壊できた。
つまり祈願持ちたちには、あの不老不死の肉体に影響を与える、地雷ワードが存在する。
その地雷ワードを探る最も有効な手段として、人の内面を映し出す心理鏡を探していた訳だ。
心理鏡を取り戻した今、次の攻略の段階に入った。
そのための動きを、不意に遭遇する可能性も考えて話し合っておきたかったのだ。
「とりあえず、あいつらは複数来られたら相手しきれない。単独撃破するとして、それぞれにどう対応するべきか。今の時点で何か分かるか?」
周囲に意見を求めるように、ルドーは全員を見渡した。
その実一番意見を求めているのは、女神深教に一番詳しいだろうクロノだ。
ルドーは話ながら、ちらりとエリンジを盗み見る。
エリンジはルドーの条件通り、自分から言葉を発する様子はなかった。
「縁祈願は、魔力なんていらないっていうライアの発言で錯乱した。縁祈願の主能力は魔力奪取。だから俺が思うに、祈願の能力関係が地雷だと思うんだ」
『なるほどな。祈願の能力そのものが、地雷そのものに繋がるって考えてる訳か』
「まぁそうだな。だから能力もある程度分かってる今なら、あいつらがどういうことを言われれば崩れるか、推察しやすくなってきてるんじゃないかと思うんだ」
「そっか。戦うにしてもその弱点を探り出すなら、ある程度推察してからの方が、戦闘も長引かせないで済むんだ」
ルドーと聖剣の話し合いに、リリアが納得の声をあげる。
リリアにその通りだと頷いた後、ルドーが様子を探ろうとカイムの隣に座ったクロノの方を向く。
クロノはエリンジの方に視線を向けて、気味悪そうな瞳の色を浮かべていた。
「……ねぇ、この手の話ならいつも一番に話しだすのに、凄い黙ってて不気味なんだけど」
黙り込んだままのエリンジに、クロノは不信を募らせていた。
信頼関係の構築の為にルドーが出した条件だが、エリンジはそこからどう信頼関係に繋がるかわからず、とりあえず言われた通りにと律義に黙ってみることにしている。
まだエリンジは人間観察まで至っていない。
だからただ人形のように、静かに黙っているだけだった。
前途多難だと思いつつも、ルドーはなんとか助け舟を出す。
「あー、エリンジなりに気を使ってんだよ。声掛けてやれって」
「何それ気持ち悪い……」
今までクロノの地雷を踏み続けていたエリンジの行動が行動だけに、ルドーがつけた制限とはいえ、急に押し黙ったエリンジにクロノは逆に薄気味悪がっていた。
少しショックを受けたような無表情をルドーは一瞥し、視線を戻してクロノに向かって促せば、クロノはカイムの方に身を引きつつ、渋々というように口を開く。
「エリンジはどう思うの?」
「連中との戦闘は長引けば長引くほど危険だ。ある程度弱点として絞れるならするべきだ」
エリンジはクロノの質問に、いつも通り淡々と答えた。
不老不死の祈願持ちたちとの戦闘は、単体それだけでも危険性が高い。
単体戦闘でも長引けば、他の祈願持ちを増援に呼ばれるリスクも上がる。
撃破するための弱点探しでもあり、リスク回避するためのもの。
これは能力だけではない。
今までルドーたちが見てきた、祈願持ちたちの人間性の推察でもある。
「そこまでは合理性で誰でもわかるけど……なに言えばあいつらに効きそうか、エリンジは推察できんの?」
「……わからん」
「でしょうね」
自覚がなかった苦手分野を叩き付けられたエリンジが、クロノの分かり切ったような反応を見て、下を向いてグッと手を握っていた。
人間性の観察。
クロノに対する信頼構築だけではない。
人の思考回路を考えるようにならなければ、祈願持ちたちを倒せない。
特にエリンジは、ジュエリ王国から直々に心理鏡の所有許可が下りている。
祈願持ちたちの内面を探るには、エリンジが率先して動く必要性がある。
これがエリンジがいつまでも朴念仁のままでいられないと、ルドーが判断した理由だ。
「てめぇはなんか考えあんのかよ」
「あいつらのことはあんま考えたくない」
「人のこと言えねぇじゃねぇかよ」
バッサリと切り捨てられたエリンジが可哀想になったのか、カイムがクロノに問いかけていた。
だがトラウマ相手である祈願持ちには、クロノは当然ながら近寄ろうとしていなかったので、あまり理解は出来ていないようだ。
そんな中、リリアがなにか気付いたようにある疑問をあげる。
「ねぇ、この間のストシオンで、女神さんはまた祈願持ちを作ろうとしたんだよね」
「はるき相手にな。空想の魔導書で反撃したから上手くいかなかったけど」
「ひょっとしてあの四人も、同じように元になった人がいて、最初から祈願持ちだったわけじゃなかったりするのかな」
思いがけない指摘に、その場の全員が一瞬呆けた。
考えをまとめるように自らの疑問を言葉にしたリリアも、余計混乱するように気まずそうに首を傾げる。
「えっと、ちょっと思いついたってだけ、なんだけど……」
『……いや、可能性はあるな。古代魔道具も元は人間だ。役職だって基になる人間に与えてる』
自信をなくしていくようにしどろもどろになり始めたリリアを、聖剣が肯定した。
祈願持ちたちが、元は普通に生まれた人間であった可能性。
女神の今までの行動を考えれば、それは十分に考えられる。
役職は突然女神に与えられ、古代魔道具も歌姫という特殊な役職を持つ人間を元にしたもの。
千五百年仕事をしていない女神は、ひょっとしたら一からものを作ることが出来なくなっているのかもしれない。
「……それが分かったところで、連中の思考回路がイカレてんのは変わんねぇだろ。なんだってんだよ」
「価値観が人間かどうかっていうのは、結構重要な部分だと思うよ」
混乱している様子のカイムに、クロノはそう言って考え込むように顎に指を置いた。
一から価値観の違う人間によく似た容姿のバケモノと、人間だった故に人間の価値観を持ったいたバケモノ。
それは似て非なるものだ。
女神深教の祈願持ちたちの考えを推察するなら、人間の価値観が分かるかどうかはかなり重要になる。
破綻した破滅的な思考回路ではあるものの、そこに人間の価値観があるのとないのとでは、推察の差は大きい。
そこからさらに、ルドーはある考えに辿り着いた。
「女神深教は、危機的状況を自分たちで作り出して、そこから助かることで、女神の奇跡だと信じ込ませて信者を増やす……」
『どうした?』
「いや、ひょっとして――――
――――実体験として死ぬより酷い経験をしてるから、同じような行動で信者を増やしているって考えられないか?」
考えをまとめるように指で頭を叩きながらルドーが発言すると、しんと応接室の空気が重く変わった。
祈願持ちが元人間ならば、人間の価値観を持ち合わせていたはずなら。
そこに人々を地獄に叩き落す合理性を、誰より理解しているのなら。
実体験が、何よりの行動の確信に繋がるのではないのだろうか。
「お兄ちゃん、それって……」
「だってよ、元は人間の可能性があるなら、祈願になる前の状態があるはずだろ」
声を震わせたリリアに、ルドーはさらに考えを絞り出す。
「死ぬより酷い目に遭って、そこを女神に祈願を与えられて助けられた。価値観が歪んでぶっこわれても、それって当然の結果にならないか?」
祈願持ちたちが元々が人間ならば、なぜあそこまで倫理観がぶっ飛んでしまったのか。
人を苦しめることを楽しみ、そして女神の為に動こうと考えてしまうのか。
女神によって救いを既に与えられているのなら、その行動にも色々と納得できてしまう。
「あいつらの行動が、受けたことの仕返しだとでも言いたいわけ!?」
バンと机を叩いて、クロノが椅子をひっくり返しながら立ち上がった。
今までクロノは、祈願持ちたちを理解不能な理不尽だとして、深くトラウマに刻まれてしまっている。
そこにほんのわずかでも正当性が生まれることが、きっと我慢ならないのだろう。
嬉々として家族を惨殺してくるような連中だ、その時間軸の記憶を持つクロノの怒りは当然だ。
同じような考えであるように、ルドーの背中で聖剣が苛立つようにバチバチ弾けている。
立ち上がったクロノを落ち着かせるように、ルドーは息を吐きつつ静かに声を掛けた。
「もしそうだとしても、あいつらが出てきたのは千五百年前だろ。今やってることに、あいつらの正当性なんかねぇよ」
「落ち着けや。誰もあいつら庇いたくて話してんじゃねぇよ」
カイムが落ち着かせるように、ポンとクロノの肩を叩く。
クロノはしばらく荒い呼吸を吸い込み、何とか落ち着かせつつ、倒れた椅子を戻して座り直した。
その様子を、エリンジが無言のままじっと見つめ続ける。
「一旦話を戻すぞ」
落ち着いた様子のクロノを確認してから、ルドーはまた声をあげた。
「俺が言いたいのは、あいつらは元々人間で、女神に助けられて祈願持ちになった。ならどうやって助けられたかが、地雷になってるんじゃないかって話だ」
『祈願として与えられた能力が、その時助けられた能力だってことか』
なるほどというように、聖剣がルドーの背中でパチンと音を鳴らした。
既に一度酷い経験をして、女神に助けられて、祈願の力を与えられた。
そこから推察するに、祈願の能力に対する連中の信頼が、そのまま裏返しの弱点にならないだろうか。
現に縁祈願は魔力を奪う能力で、ライアに魔力がいらないと叫ばれたことで、器が壊れた。
つまり、祈願能力に対する連中の執着こそが、あいつらを倒す攻略の鍵だ。
「要するに、あいつらの能力からどんな酷い目に遭っていたのかを推察して、地雷を導き出せって?」
「まぁ、仮説があってればの話にはなるけど」
刺々しい口調で言ったクロノに、ルドーは天を仰ぐように背もたれにどっかりと背を預けた。
倒すべき敵の弱点考察のはずが、能力から推察される悲惨な過去の推察に変化してしまった。
祈願持ちたちが長い年月の間にやって来たことは、許されるべきことではない。
だがそれでも、他人の悲惨な過去を暴くという行為は、どうにも気分のいいものではなかった。
「……えっと、クロノさん」
「あーもう。言いたいことがあるなら言いなよ、エリンジ」
無表情の変化に気づいたリリアがおずおずと声を掛ければ、クロノは面倒そうに投げやりに答えた。
一体何を話すのかと、ルドーもエリンジの方に視線を向ける。
「俺に前に出てやらせろ。あいつらがどんな悲惨な過去を持っていようが、俺は躊躇せずに戦える」
場に再び沈黙が降りた。
女神深教の祈願持ちたちは、今まで数えきれない人々を不幸に叩き落してきた。
たとえそれに理由があっても、理不尽には対抗しなければ後がない。
朴念仁のエリンジならば、逆にその悲惨な過去も、無遠慮に探りだすだろう。
倒すべき敵の弱点だと、合理性に十分割り切って。
「……まぁ、確かに適任ではあるし、それなら任せるよ」
拍子抜けしたような色を赤い瞳に浮かべながら、クロノが小さく応える。
悪い意味ではない、朴念仁ぶりに対する信頼が、ルドーたちに初めて生まれた気がした。




