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第十九話 組手と必殺技

 

「おい! 逃げてばかりでは訓練にならんだろう!」


「いや俺結界魔法使えねぇっつーの!」


「使えん奴が悪い!」


「お前ならそういうよな!」


『くっちゃべって足止めるとくらうぜ!』


 虹色の魔法が大量に降り注いでくる中を必死に走り抜ける。

 魔法訓練では基礎的な魔法を学んだり、それぞれの得意不得意を分析して伸ばしたり克服したり、一番個性的になる部分だ。

 早速その日の魔法訓練で嬉々としてエリンジが組手を申請し、相手側であるルドーの同意を経てこの状況なのでネルテ先生は笑うのみで当然止めようともしない。

 周囲の生徒達も自身の魔法訓練をしながらこちらをチラチラと様子見している。まぁ大量に爆発しているので集中出来やしないだろう。


『魔法特化だな、複数魔法を同時発動してるせいで虹色に見える、眩しいねぇ』


「言ってねぇでなんかねぇのかよ!」


『まぁこのままだと体力尽きてバテてオジャンだな、攻撃しようぜ』


「そうはいっても弾幕が激しくて攻撃態勢にすらならねぇ!」


 ルドーはまだ意識せずに魔法が使えない。

 元々雷魔法を溜めて放つ攻撃方法だ。息次ぐ暇なく魔法攻撃を飛ばしてくるエリンジとは元々相性が悪過ぎる。


『力を逃がす方法を試すんじゃねぇのかぁ?』


「だから、結界魔法で、時間稼げば、出来る、だろうけど、これじゃあ……」


『おめぇ頭固いな、別に結界魔法だけが攻撃を防ぐ方法じゃねぇだろ』


 魔法攻撃を避けるためにジグザグに走り続けているルドーに、聖剣(レギア)が声を掛けてきた。

 校庭は障害物もないせいで隠れる場所もなく既に肩で息をしている状態だが、魔法を使う体力はまだ有り余っている。


「どうした! 逃げてるだけでは手合いにもならんぞ!」


「ちったぁ待ってくれてもいいだろ!」


「魔物は待ってくれんだろう!」


 追尾弾も追加で撃ち始めたのか、真っすぐだけではなくヘビのようにグネグネと動く攻撃魔法も追加され始めた。

 エリンジの言い分も尤もだが、こうも一方的に攻撃され続ければ文句も言いたくなるものだ。


「だぁらちったぁ待てってぇの!」


 ルドーが振り向きざまに大きく一振りして雷を放出すると、追尾魔法に次々と命中していく。

 まだ扱いきれず雑な部分があるからこそ、雷魔法は範囲が大雑把に広がって面攻撃になる。


「雷魔法で相殺したか。だったらこれはどうだ!」


 なんとか攻撃を防げたとルドーが安堵したと思ったら、エリンジは手を下から上に振り上げる。

 すると地面の砂が噴水のように拭き上げ、まるで砂嵐のようにルドーの周囲を包み込んで巻き上げ始めた。


『避雷針代わりか、これだと雑に撃つと攻撃全部砂に吸われるぜ』


「でもそれなら砂が邪魔して向こうも攻撃出来ないんじゃ……」


 ルドーがそう思った瞬間、虹色の攻撃魔法が的確に狙いを定めて飛んできた。

 なんとかかわすも砂嵐は攻撃魔法を避けるように小さく穴が開いて次々攻撃が繰り出され、砂嵐のせいで動く範囲を限定されたルドーは聖剣(レギア)で何とか防ぐしかない。


『アホ! あいつの魔法の砂嵐だぞ、好きなように制御できて当然だろ!』


「こっちが一方的に不利になっただけかよ!」


「不利な状況も何とかするのが魔導士だ!」


 次々とくる攻撃を防ぎながらルドーが理不尽を叫ぶも、エリンジは逆に叫び返してきた。


「魔物もあの魔人族も、こちらを待ってはくれない! こうしている間にもあいつらはそれぞれで暴れている! あの時お前は攻撃を防ぐだけで精一杯だったろう! それ以上の攻撃が来た時どうするつもりだ!」


 エリンジの叫びにルドーははっとする。

 あの時、立っている事も出来ないほどの攻撃を受けて反撃する余地もなかった。

 今もそこまでではないが防ぐだけで精一杯の状況、よく似ている。


「また相対したとき、出来ないことを言い訳するつもりか! 理不尽な状況でただ弱音を吐くだけか! そんなもの俺の目指している最強の魔導士ではない!!!!」


 また同じ状況になった時、相手は待ってはくれない。

 不利な状況でも何とかしなければその先がない。

 エリンジがずっと叫んでいた危機感の無さに対する苛立ちはきっとそこにあったのだろう、あいつはずっと敵を見ていたのだ。


「そうだよなぁ」


 聖剣(レギア)で攻撃を防げるのは一方だけ、複数方向から同時に攻撃が来れば防ぎきれない。

 正面と背後からの同時攻撃で、防ぎきれなかった背中に攻撃を直撃させながらも、ルドーはどこか乾いた笑いがこみあげてくるのを止められなかった。


 いつから勘違いしていたのだろう、魔物はいつだって理不尽だったじゃないか。


聖剣(レギア)、思いっきりぶちかますぞ」


『防ぐのをやめるか。いいねぇ、最初のイカレっぷりが戻ってきたぜ』


 相手の攻撃でこちらが攻撃できないなら、防がずに全部くらえばいい。

 博打だが攻撃できる唯一の手段に賭ける。

 虹色の魔法が雨のようにルドーの身体に降り注いだ。水、火、風、氷、土、様々な魔法で色々な衝撃がルドーの身体を襲い、うめき声を上げながらなんとか耐え忍ぶ。

 雷魔法を制御するのではなく、いつも通り全力で放出する。そのイメージを、闇雲にするのではなく、ただ一点に集中する。


「くらえええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


 真直ぐ一点を狙って、ルドーは剣を振った。

 まるで超極太のレーザーのような雷魔法が刃から放出され、砂嵐を大きく破壊して巻き上げ、突破して真直ぐにエリンジに向かい、防御魔法を張ったエリンジに直撃する。

 激しい閃光と轟音がしばらく続いた。

 攻撃の余波で地面を焼いて煙が舞い、轟音が鳴り響く中、ルドーは魔法攻撃の損傷と全力を出した反動でその場に倒れた。

 黒焦げにはなっていないしまだ意識はあるが、身体が動かなかった。


「ふん、まだまだだな。攻撃までの溜め時間も長ければ、攻撃後は隙だらけじゃないか」


「そういうおめぇもボロボロだろ」


「まだ俺は魔法を使える余力が残っている。まぁ組手はこれ以上続けられんが」


 流石に結界魔法で攻撃は防ぎきれなかったらしい。

 エリンジが今まで見たことないようなボロボロ具合で傍まで歩いてきた。

 不敵に笑っている顔を見ると多少腹が立つが、それでもルドーはどこかスッキリした気分だった。


「あ、リリ。ありがぶべっ!」


 リリアがいつの間にか駆け寄ってきて回復(ヒール)を掛けてくれたのでお礼を言おうとした瞬間、ルドーはスパアンと豪快に頬を叩かれた。解せぬ。


「あぁもう全く……」


「ん? 俺は自分で回復できるぞ」


「え? はっ! ごめんなさいつい!」


 ブツブツ言いながらエリンジにも回復魔法をかけたリリアがエリンジに指摘されて慌てている。

 どうやら完全に無意識でやっていたらしい。


「聖剣に聞いてみろ、今の攻撃全体の何割だ」


『一割にも届いてねぇ』


「はぁ!? 今ので一割にもいかねぇの!?」


「まだまだ改善の余地がありそうだな」


 まるで良い遊び道具を手に入れたかのような顔で言ってくるエリンジを恨めしく見ながらも、黒焦げにならなかったことに一歩前進した気分になるルドー。


「ちょっと先生! 今の攻撃は危険すぎるわよ! 今すぐ使用禁止にして!」


 ようやく落ち着いてきたと思ったら耳に付くキンキンした大声にルドー達は振り向く。

 今まで散々文句ばかり言っていたあの自称聖女だ。

 こちらを非難するような顔で指を差し、もう片方の手をあざとく胸に当てて震えている。

 いつの間にか魔法訓練をしていた他の生徒も周囲に集まってきており、完全に観戦されていた形にルドー達は今気が付いた。


「いんや禁止にはしないさ」


「なんでよ! どう見ても危ないじゃない! あの人だから防げたのよ、他の人間が当たったら死んじゃうわよ!」


 多分他の人と言い換えているだけで、要は自分が当たったら死ぬので禁止して欲しいとネルテ先生に訴えているようだ。

 彼女の周囲にいるフランゲルたちも身の危険を感じているのかうんうんと激しく頷いていた。

 フランゲルを遠目に見ている他の生徒達はどうしたものかと顔を見合わせている。


「まずねぇ、君たちそもそも勘違いしてないかい?」


 ネルテ先生の顔から笑顔が消えた。

 笑顔でかけてくる圧も恐ろしかったが、普段笑顔でい続けているせいで真顔での圧力は比べようもない。


「君たち何のためにここに来てるんだい、義務で来ている君たちは国を守る勇者と聖女になるためだろう。つまり君たちが背負うのは国だ。何があっても国の民のためにその命を注がないといけない。それなのに君たち、訓練もまだ基本的な部分まで到達できてないじゃないか。スタートラインにすら立ててないのに、何を偉そうにずっと先を進んでいる相手の力を縛ろうとしてんだい?」


 周辺の気温が一気に下がった気がした。


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