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第十六話 残された憂慮


「そういえば君たちの話しぶり、一人行方不明になった以外に何か報告があった様子だったが」


 イスレが去っていくのを見届けた後、ルドー達の気を紛らわせようとしたのか、バベナが話しかけてくる。


「……ここでは、ちょっと」


 リリアが後ろにいる衆人環視に視線をちらりと向ける。

 襲撃後の建物の崩壊だけでも皆が不安そうにしているのに、ここで瘴気の話までしては下手をしたらパニックになりかねない。

 バベナはそれで察したのか、従業員たちに安全地帯に連れていくと銘打ってルドー達を人気のない所まで連れ出してくれた。


「——魔道具の部品の一部に瘴気が?」


「かなり小さかったんですけど、見過ごせなかったのでとりあえず浄化して、報告しようと……」


 リリアは肩を震わせながらもなんとか必死に説明していた。


「これはエレイーネーに本格調査を依頼したほうがいいな。魔道具のあった場所が瘴気の発生源だったとしても、今は瓦礫の底だ、さらに溜まる可能性がある。いや、報告ありがとう」


 リリアの頭をポンと叩いたその手の動きはとても優しかった。


 しばらくして連絡受けた先生方が到着し、ネルテ先生がルドー達を引率してエレイーネーに戻った。

 事の経緯を説明した後寮で休むように言われたが、とても休める気分ではなかった。

 他の二人も同じだったらしく、再び捜索に行ったネルテ先生が戻ってくるまで廊下に行ったり職員室を確認しに行ったりと各々あちこちうろうろしていたが、夜分遅く先生が戻ってきてもいい返事はもらえなかった。




「いやー君たちホント大変だったな」


「クロノさんもまだ見つかってないのに不謹慎じゃありません事?」


 戻って数日、アルスとキシアが声をかけてきた。

 他の外での補習組は恙なく終わった。

 本来は先生の引率も必要ない安全な補習に不満やら疲れやらを愚痴っている時にこちらの崩落の知らせを聞いたらしい。

 皆反応はそれぞれだったが、全員が不安を感じたのは確かだったようだ。


 生死不明の行方不明者が出たものの、翌週からの授業は何の問題もなく続けられている。

 毎日少しずつ追加される訓練内容にルドーは正直感謝していた。何かやっていないとすぐ悪い方向に考えてしまうからだ。

 無心になってやる、奇しくもクロノの助言通りになってしまっていた。


 リリアは今まで使っていた魔法の他に、探知魔法と通信魔法の練習を始めた。

 はぐれたままにしたことを後悔しているのだろう、だからはぐれても連絡が取れるように、連絡が取れなくても居場所が分かるようにと必死になっているが、まだ学びたてのせいでどちらも思うように使えない様子だ。


 エリンジはあれから小言がぱったり止んだ。

 ただこちらも回復してはいないようで、周囲を睨み続けてはブツブツ言い続けてより近寄りがたい雰囲気になってしまっている。

 こいつの場合、今までの経緯に加えて崩落の際の捜索を放棄する言動があったせいで余計自分を追い詰めてしまっている節がある。


 聖剣(レギア)もあの一件からかなり大人しくなってしまった。

 相変わらず訓練の際は暴れてくれるがそれもどこか威力が低い。

 こいつなりに落ち込んでいるのだろうか。



 二週間経っても、クロノの遺体はもちろん、あの魔人族を自称した者の遺体も出てこなかった。

 これだけ時間がかかったのは、爆発しかねない魔道具の残骸が残っていたからで、防護魔法で包みながらの撤去をしていたため通常より時間と神経を使う作業になっていたからだ。

 複数の瓦礫が折り重なっている上に爆発によって粉々になったため現地の職人でもなければ完全修復は不可能で、通常戦闘での瓦礫を修繕魔法で直しながらの捜索が困難になったのも時間がかかった一因である。


 遺体の一部すら発見がなかったため、魔人族もクロノもおおよそ生存しているであろうと結論付けられた。


 また極少量の瘴気も出てきたが、魔物が発生するほどの濃度は溜まってなかったので浄化だけで何とかなったようだが、発生原因が不明なままだったそうだ。


「そういや俺この間職員室で聞いたんだけど、クロノって三年に兄貴いるみたいで、すっげぇ揉めてたんだよな」


 その日の午前を終えた後、ルドー達が食堂での昼食で集まっていた際、アルスが思い出したように話し始めた。


「まぁ揉めるだろ、安全なはずの訓練で家族が生死不明の行方不明じゃ」


「それが内容がさあ、『基礎科のはずの妹が魔法科になっているってどういうことだ』って」


 アルスの発言に皆が面食らって食事を止めて顔を見合わせる。


「基礎科って座学のみですわよね、王族貴族や商人たちが国や組織の防衛のための知識を付けるための科目でしょう? 実践訓練は一つもなかったはずですわ」


「うーん、そういえば私の周辺国での試験では見かけてなかったけど、誰かあの子が魔法科試験受けてたの見た人いる?」


 メロンが顎に指を当て、うーんと上を向きながら問いかける。

 魔法科の試験はそれぞれの国からの距離があるので複数の場所で行われたらしく、学校で初めて顔を合わせる者もいるので今まで誰も疑問に思っていなかったようだ。

 試験内容は筆記に体力、それから魔力測定がある。魔力量が一定基準を超えなければ適正なしとみなされて弾かれるそうで、ここが一番シビアなのだそうだ。


「私のところでは見かけませんでしたわ」


「俺も見てないねぇ」


「あちらの人たちも見ていたらもっと反応が違ったでしょうしね」


 キシアがちらりとフランゲルの集団を見る。あちらはフランゲルと文句たらたらの聖女を中心に、例のナルシスト男とハイハイ言っている男でグループ化していた。

 また数人それぞれ一人でいる者もいるが、あんな化け物が同じ試験会場に居たなら再会した際何かしら反応があるはずだ。


「あの、その事なんだけどさ」


 リリアがぽつりと話し始めた。


「前に入学式で揉めてたって言ったじゃない? あれ、クロノさんだったの。『基礎科の入学のはずですけど、なんで魔法科になってるんですか?』って……」


「そういえばなんかざわついてたあれか」


 ルドーも思い出したように呟く。


「ひょっとしてクロノさん、そもそも魔法科の試験受けていないのでは?」


 キシアが思案するように頬に手を当てながら言う。


「えっそんなことってある?」


 アルスがそういったと思ったら、ガシャンと大きな音がして全員が振り向いた。

 エリンジが食事の乗ったトレーを丸々落としていた。しかし心ここにあらずといった様子で目もどこかうつろだ。


「……あいつはそもそも魔導士を目指してすらいなかったのか?」


「あー、落ち着け、大丈夫かエリンジ」


 呆然としていたエリンジにルドーは声をかけてトレーを拾い、周囲に散らばった食べ物を拾い始めた。

 


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