96話 死なせない
なんかここの六樹となつめはメンヘラ彼女にDVされる彼氏の図なんですよね。六樹可哀想
「ごひゅっ!……くっ…」
六樹はなつめの言葉に驚愕の表情を浮かべる。言葉は出ない。出るのは赤黒い液体だけだ
自身の身に何が起きたのか初めて理解した。
あの時受けた攻撃。それは魔法の発動位置を変化させるものであり、それによって体内に直接、上級魔法を叩き込まれたという訳だ。
「こひゅ…こひゅ…」
呼吸が浅くなる。あれだけ鮮明に感じていた痛みすら引いていく、意識が少しずつ遠のいていくのを感じる。
(これが、死…)
しかしまだ死ぬ訳にはいかない、だが身体が言う事を聞かない。それどころか頭も回らなくなっていく。
なつめが近づいて来た。そして手を構えた。
「終わりだ、百足の六樹」
なつめが六樹に対してトドメを刺そうとしたその瞬間だった。
「!!」
なつめの瞳孔が開く
「…………かっ、はっ!?……はぁはぁ…っ!?」
ドクン!!ドクン!!!
なつめの心臓の音がここまで聞こえてくるように感じる。なつめが突然胸や頭を押さえて苦しそうに膝をつく。
「はぁっ!はっはっ……!!くぅっ!!」
なつめはそのまま倒れそうになる自分を必死で押さえ込んだ。頭痛がひどいのか頭を強く抑える。
「あっ!あっ!ああぁ〜〜〜!!!」
その時
「……こひゅ………なっ、ちゃん」
「!?」
六樹だ、瀕死の重傷を負った六樹は僅かな力を振り絞ってなつめの方に這って来た。
「…なっ、ちゃん………大丈夫……か…」
「……リョウ…くん?」
「俺が…ついてる……から…」
ドサッ、 六樹はそう言い残して意識を失った。
その瞬間、なつめの苦しみが収まった。それと同時になつめの顔から血の気が引いた。
「………あっ…あっ…あっ…」
真っ青になったなつめの言葉にならない声が漏れる。
「あっ……あっ……あっ……」
なつめは震える手をどけて目の前の現実を直視した。
そこにはいた
血まみれになった幼馴染|のずっと会いたかった筈の《・》リョウくんが
「…………」
なつめの視線が、六樹の身体へと向けられる。
地面に広がる赤黒い血
その中に混じる、人間の身体から出てはいけないもの。
「…………うそ」
一歩、後ずさる。
「……私……?」
震える声が漏れる。
「私が……やった……?」
返事はない。六樹は血溜まりから動かない。
「……違う」
「違う……違う違う違う……」
両手で頭を抱える。
「私は……こんなこと……」
脳裏に、先ほどまでの光景が蘇る。
魔法を放った。六樹が吹き飛んだ。
それでも立ち上がった。
何度も攻撃した。何度も何度も何度も何度も、動かなくなるまで攻撃した。
それでも六樹は、自分を止めようとしただけだった。かすり傷もつけられていない。
そんな相手を執拗に攻撃し続けた。物量で攻めて、貫通魔法で攻めて、瓦礫を投げた。それでも耐えたから最後には
内臓をぐちゃぐちゃにした。
そして
「終わりだ、百足の六樹」
自分の声で、自分の言葉で、自分の手で、自分の魔法で
「……っ!」
なつめは口元を押さえた。
「違う……」
胃の奥から何かが込み上げる。
「違う、私じゃない……!」
けれど、その言葉を口にした瞬間、なつめ自身が凍りついた。
目の前にいるのは、自分が殺そうとした六樹。
そして最後に聞いた言葉。
『俺が……ついてる……から……』
「…………」
なつめの顔から血の気が引いていく。
「なんで……」
震える声。
「なんで……私なんかを……」
一歩、六樹へ近づく。
しかし、血溜まりを見た瞬間に足が止まる。
所々に固形物が紛れるその赤黒い液体が彼女に現実を突きつける。
「……いや」
さらに一歩、後ずさる。
「いや……いやぁ……!」
頭を抱え、なつめはその場にしゃがみ込んだ。
「リョウくん……」
返事はない
「ねえ……起きてよ……」
返事はない、もう自分を気遣ってくれた優しい言葉は返ってこない。
「……お願い……」
声が震える。
「私、こんなことするつもりじゃ……」
そこで言葉が止まる。
なつめは自分の口を両手で塞いだ。
違う
確かにあの時の自分は本気で六樹を殺すつもりだった。
無抵抗の相手を、勇者だからという理由で殺すつもりだった。
「違う……違うの……」
何が違うのか、自分でも分からない。
ただ、目の前の現実だけがあまりにも鮮明だった。
「リョウくん……」
なつめは這うように六樹へ近づく。
「ごめん……」
震える手を伸ばす。
けれど、触れる寸前で止まった。触れる資格なんて無い。
「……ごめんなさい……」
その手が震える。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
何度も何度も謝る。
それでも六樹は動かない。死んだように動かない。
「誰か……」
なつめは周囲を見回す。
「誰か……助けて……!」
声が裏返る。
「誰か、リョウくんを……!」
そこでようやく、自分が何をしたのかを完全に理解した。
「…………私が……」
なつめの顔が歪む。
「私が……殺しちゃう……せっかく、会えたのに…ずっと……」
その言葉を最後まで言えなかった。
「嫌だ、イヤ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
なつめが発狂したその瞬間
ガシャーーーーンッ!!!
近くの瓦礫が崩れた
「!!」
そこから1人の少女が飛び出した。向かうはなつめ
なつめは咄嗟にガードする。
「ぷっ、守護魔法!」
「瓦拳!!!」
バリーーン!!!
防御魔法を叩き割り、その一撃はなつめに直撃した。
「あぁ!!」
ゴロゴロ……となつめの体が吹き飛ばされる。
先程いた場所、六樹の隣を見るとそこには龍の鱗で作られた鎧を着た茶髪で青い目の少女が立っていた。アンリだ
「理解していますか?」
少女は静かに、低く、それでいて恐ろしいほど冷たい声で問いかける。
「あなたが今殺そうとしたその人は、あなたを救う為にここまで来たんですよ?」
「……あ…嫌」
なつめが嗚咽にも近い声をあげる。
「…リョウくんが、死んじゃう」
「死なせません」
一言、アンリはそう遮った。
「!?」
「私が、死なせません」
そう言うとアンリは六樹に駆け寄った。
「リョウ………ひどい。でも呼吸はしてる…なら…」
もはやなつめの事など見ていない。
「あっ…あっ…」
なつめはへたり込んだまま六樹の方に手を伸ばす。
「私も………」
私も手伝うと言いたかった
しかし声にならなかった。言えるわけがなかった。
自分は彼を壊した張本人だから。
その時だった。
「撃て!!」
幼い少女の様な声の号令と共に突然魔法や大量の矢が降り注いだ
ヒューー!!!ビギギギギ!!!!
それはなつめが自動で発動する様に設定していた防御魔法によって防がれた。
発生源を見ると、多くの援軍が続々と集まっていた。
「こっちだ!!集まれ!!」
「リョウ兄ィ!?アン姉ェ!?無事か!?」
人混みに紛れて白髪の少女が二人に駆け寄る。そしてその少女は六樹の惨状を目の当たりにする。
「嘘だろリョウ兄ィ!?しっかりしろ!?何でこんな……ひどい…事に…」
援軍は続々と集まってきている。屈強な兵隊達に続いて手練れと思しき魔法使い達が我先にとやってくる。
当然だ。試験のためにこの街には腕自慢の魔法使い達が集まっていたのだ
「……リョウくん」
なつめは六樹の方を見た。アンリがつきっきりで面倒を見ている。今なつめに出来ることは何もない。
いや、一つだけある。それは諸悪の根源である自分が去ること、六樹を戦いに巻き込まない事だけだ。
勝てる勝てないでは無い。今彼の隣に立っているだけで害なのだ
なつめは悲痛な声色で詠唱した
「刻式魔法!!!」
地面に魔法陣が展開される。円陣、その周りに第二陣、第三陣とどんどん広がっていく。
そして、なつめは六樹を横目に一言だけつぶやいた。
「……ごめんなさい。リョウくん」
「帰還魔法」
_____________シュッ!!!
一人の少女がその場から消え去った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
バチバチバチッ!!!
モルガル共和国、なつめの研究室の魔法陣が光る。
そしてなつめが姿を現した。
「くっ、はぁ……」
ドサッと力なく倒れ込む。そしてそこに
「かっ!!あぁああぁーーー!!!くっ!うっ!!」
胸を抑え苦しみだした
それに気づいたエルトが慌てて駆け寄った。
「なつめ様!?」
エルトが近寄るとなつめは横になったままうわ言の様に呟いた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「なつめ様!?……しっかりしてください!……発作だ!………ここ最近は出てなかったのに!」
エルトはなつめを楽な姿勢にし、ゆっくりと落ち着かせた。なつめの発作は次第に落ち着いてきた。
「なつめ様………一体……何があったんですか?……百足のムツキは?」
その問いかけに、なつめはボロボロと涙を流してこう言った。
「私が、死なせたかもしれない」
そう言ってなつめは静かに泣き崩れるのだった。
なつめにとって12年ぶりであり、六樹にとって10年ぶりとなる再会は最悪の形で幕を閉じた。
この戦いは珍しく六樹が完全に意表を突かれた形での敗北となりました。しかし肉体的には六樹の敗北でも、それ以上になつめは精神的にダメージを負ってます。
アンリは腑が煮えくりかえる位ブチ切れてますが、なつめへの怒りよりも六樹の生存が最優先なので
一言かけた後は目もくれず治療に専念してました。もしなつめが手伝うと言いだした場合、理性が切れてたと思われます。




