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95話  ポイントシフト

ズドオオーーーーーーーーン!!!!


周囲に圧縮した魔力による衝撃波が放たれ六樹は壁に叩き付けられた。


「かっ!」


後頭部を打ち、視覚野が一瞬チカッと光の幻覚を見せる。


痛む頭を無視して六樹はすぐさま立ち上がった。


「…………なっちゃん…」


エスタが脳内で六樹に告げる。


エスタ(相棒!腹を括れ、相手はやる気だぞ!)


「………だめだ、なっちゃんを傷つけられない」


普段なら絶対に言わないであろう言葉を聞き、エスタが驚きを感じる。しかしすぐさま抗議に変わる。


エスタ(馬鹿野郎!!状況考えろ!やらなきゃこっちがやられちまう!!)



「……やっと」


六樹は息を吸い込みこう続けた。



「やっと…会えたんだ!10年だ、10年探し続けた!死んだと思ってた、でも生きててくれたんだ」


「なのに……今さら傷つけられない」



エスタ(相棒……お前そこまで…)



魔力が再び圧縮され始める。第二波が来る。


そしてエスタが語りかけた


エスタ(相棒、お前の気持ちはよく分かった。だがよく考えろ、今突っ立って的になる事がお前の目的か?)


「っ!…でもなつめを攻撃するなんて」



エスタ(相棒、お前は何のためにここに来た。魔王を倒すためか?)


「違う!俺はなつめを取り戻す為にここにいる!」


六樹は強く返事をする。するとエスタは優しそうでありながら力強くこう聞き返した。


エスタ(なら聞こう。お(・)前(・)が(・)取(・)り(・)戻(・)し(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)相(・)手(・)は、そのやり方で戻って来るのか?)


「!」


その言葉を聞いた瞬間六樹の目の曇りが少しだけ晴れた。直後、なつめの第二波が来た。



「衝界(インパルス)」


ドゴーーーン!!ガラガラ……



突発的に放った先ほどの一撃とは違う。今度は周囲の建物を倒壊させる程の威力だった。


瓦礫の山となった場所には


六樹が立っていた。


「…………。」


そして彼の手には彼の新しい剣である葦刈が握られていた。



突然の戦闘に周囲から悲鳴が聞こえる。

周囲の人間が逃げ惑う。


しかし逆に騒ぎを知り駆けつけてきた者達もいた。衛兵達だ


「こっちだ!」「早く!」


だがその者達の足元に剣筋が走った。


「来るな」


たった一太刀、六樹はそれだけで周囲を牽制した。


「君!?何を言って…」


「っ!!」


六樹は凄まじい眼力で一瞬だけ振り向いた。


「ぐっ……い、行くぞ!住民の避難を優先する!………ご武運を」


衛兵達はただならぬ雰囲気を悟りその場から離れた。


これでいい。なつめを誰にも傷つけさせないし、なつめが誰かを傷つけない為にはこれが一番だ


なつめは六樹が手に持つ剣について言及した。


「葦刈……剣聖カノイの剣か」


「貰い物だ、気に入ってる」


六樹はやましい事など何も無いと言うようにキッパリとそう答えた。


「………カノイさん…」


なつめは一瞬、そう悲しそうな顔をしたがすぐに冷酷な魔王の顔に切り替わる。



「なら、敵討ちといかせてもらう」



なつめは手を構え、唱えた。



「攻撃魔法(アサルト)」


ドン!!


無色透明な一撃、六樹は咄嗟に剣で受けた。


「くっ…!」


ギギギ……ジャギン!!!


重たい一撃、しかし六樹は攻撃魔法を叩き切った。


なつめは無言でそれを観察した後こう唱えた。


「刻式魔法(インスクリプション)」


なつめの言葉に応じ

空中に突然魔法陣が浮かび上がる。一つ、また一つとどんどん数が増えていく


「嘘だろ、おい」


無数の魔法陣が展開される。当然狙いはひとつだ


「掃射魔法(サルヴォ・アサルト)」


一発でダメなら百発撃ち込む、そう言わんばかりの一斉掃射が放たれた。


「!!」


六樹は駆け出した。少しでも弾を散らすためだ


ドドドド!!!


六樹を取り逃がした魔法は地面にその痕跡を残していく、六樹は移動しながら自身に当たる魔法だけ葦刈で捌いていく。

この調子なら、と期待したのも束の間、目の前の地面や壁に魔法陣が展開した。


「衝界(インパルス)」


ドーーーン!!!  「くっ!」


六樹は目の前に放たれた衝撃波をもろに受けた。タメの少ない発動だった為か、ダメージ自体は微々たるものだ。しかし問題はそこではなかった。


今六樹はノーガードだ


「!?」


「掃射魔法(サルヴォ・アサルト)」


ドドドドドドドドドドドドドドドドン!!!!!


六樹は無属性魔法により蜂の巣にされた。


「くっ、あぁ!」


うめき声をあげる六樹、しかしなつめからするとそれは異常事態だった。本来ズタズタになっていないとおかしい威力だからだ。


「効果微弱、防御魔法と断定、刻式魔法(インスクリプション)」


なつめは目の前の異常事態に魔法をすぐさま切り替えた。


「穿界魔法(ペネトレーター)」


ジャキ!!……ズドーーーーン!!!


魔力の槍の様な一撃が六樹に叩きつけられ、そして爆ぜた


なつめは手を止め様子を見た、しかしすぐさま眉を顰めた。


「………何故生きてる?」


ガラガラ……と崩れた地面の中から、立ち上がる人影が見える。六樹だ、


あれだけの攻撃を受けたとは思えない。若干の出血は見られるが致命傷とは程遠かった。


「なっちゃん、やめよう」


六樹は悲痛な表情で続けた。


「何で? 何の為にこんな事を」


すると、なつめは眉ひとつ動かさずにこう答えた。


「決まっている」


「私達は人(・)間(・)を(・)滅(・)ぼ(・)す(・)為(・)に(・)戦(・)っ(・)て(・)い(・)|る」


「!?」


六樹は信じられないと言った表情で聞き返す。


「主権を維持するとか!? 金とか領土とか!? そうじゃなくてもガドル王国(この国)が憎いとかじゃないのか!?」


「恨みはある。だがそれが目的ではない」


「じゃあ何で……!」


「人間だから」


「……は?」


「人間だから、滅ぼす」


あまりにも簡潔な答えだった。


「人間を、根絶やしにするつもりなのか? 善人も悪人も見境なく……」


「当然」


「当然って……!」


「人間であることに、善悪は関係ない」


なつめは淡々と言葉を続ける。


「善い人間がいることくらい、私達も知っている」


「なら」


「でも、それが何?」


六樹の言葉を遮る。


「一人の善人がいたからって、人間という種族が別のものになるわけじゃない」


「…………」


「私達が戦っているのは、あなた達一人一人じゃない」


なつめは六樹を真っ直ぐに見つめる。


「人(・)間(・)と(・)い(・)う(・)種(・)族(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)」


「そんな……」


「だから、終わるまで戦う」


「終わるって……どうなったら?」


なつめは少しも躊躇わなかった。


「人間がいなくなったら」


「……っ」


六樹の顔から血の気が引く。


「じゃあ……講和は?」


「講和?」


なつめは不思議そうに首を傾げた。


「どうして?」


「だって、戦争なんだろ!? だったらいつか話し合って」


「話し合って、何をするの?」


「……」


「私達は人間を滅ぼすために戦っている」


「だったら、講和なんて必要ないでしょう?」


六樹は言葉を失った。


目の前にいる少女は、自分の知っているなつめとはあまりにも違っていた。



「…………ごめん、なっちゃん」


「?」


突然の謝罪になつめは目を細める。


六樹は一度俯き、そして顔を上げた。


「もし、君に確固たる信念があって、それが賛同できるものなら……」


六樹はなつめの目を見つめる。


「俺は世界を敵に回してでも、君の味方になるつもりだった」


一瞬だけ、なつめの瞳が揺れた。


「でも……」


六樹は葦刈を構える。


「今の君には、賛同できない」


「俺は、君を止める」


そう言うと六樹はなつめに向かって飛び出した。


対してなつめは冷静に六樹を分析する。


「通常攻撃である攻撃魔法(アサルト)だけでなく対防御性能の穿界魔法(ペネトレーター)共に決定力に欠ける。防御力によるものではない、ならば考えられる要因は…………」


「魔法そのものへの耐性」


なつめはその結論にたどり着いた。そして


「ならば、直接攻撃する必要はない」


「浮遊魔法《レヴィテーション》」


なつめの身体がふわりと宙へ浮かび上がる。


「なっ……!」


六樹が見上げる。

上空に浮き上がったなつめは周囲に転がる瓦礫へ手を向ける。


「操作魔法《マニピュレーション》」


ガラガラガラッ!!


崩れた建物の瓦礫が、一斉に宙へ浮かび上がった。


「こりゃまずいな…」


「潰せ」


次の瞬間、とんでもなく高度でありながら原始的な攻撃が放たれた。


ズドドドドドドッ!!!!


「くっ!!」


六樹は全力で回避する。それと同時になつめの方に向かって走る。しかし攻撃する訳にはいかない。


エスタが脳内で質問した。


エスタ(相棒!近づいてどうするつもりだ!?緋影でも打ち込むのか!?)


六樹(緋影は却下だ!あれだけの魔力制御だ、剣聖カノイの時みたいに不発に終わる可能性が高い。それに何より)


六樹はなつめを見上げる。


六樹(なっちゃんを傷つけたくない!)


エスタ(だったらどうする!?)


エスタは六樹の考えを否定するでもなくただそう問う。六樹はしばしの沈黙の後答えを出した。


六樹(……………解毒魔法だ!血中酸素を減らして意識を奪う!後遺症は残らないはずだ!手を貸してくれエスタ!)


エスタ(了解だ相棒!全く無茶言ってくれるぜ!)



瓦礫から逃げる六樹、しかしまたしてもそれを許さんと近くの壁や地面に魔法陣が展開される。


しかし六樹は笑った


「同じ手は食わない!トリプルショット!!」


魔法陣に緋影が突き刺さる。


ジジッ…バチッ!!  と緋影の特殊な魔力が流し込まれた魔法陣が暴走した。


「暗障!硬化!」


黒い壁が魔法陣の上に覆い被さる様に展開され六樹はそれに飛び乗った。次の瞬間


ドーーーーーーン!!!!


暴走した魔法陣が衝撃波を放ち、六樹はその推進力をそのまま利用して空に飛び上がった。


「追ってきたか」


飛び上がる六樹を見てなつめは呟いた。すると新たに唱える。


「操作魔法(マニュピレーション)・旋界(ヴォーテックス)」


ガガガガガガゴゴゴゴゴッ!!!!


なつめの周囲の瓦礫が高速で回転し渦を巻いた。それは瓦礫の竜巻と言っていいだろう。


まさしく災害、しかし自然のものよりも遥かに強力であり、それを起こしているのは1人の少女だ。


そしてその余波が六樹に横から殴りつけた。


ガッ、ゴン! ガガ!!


「がぁ!!」


飛んできた瓦礫のいくつかが六樹に命中した。六樹も痛みに声を荒げる。しかしなつめは安堵などしなかった。


「効果あり、だが………足りない。やはり想定よりも効果が薄い」


「刻式魔法(インスクリプション)」


そしてなつめは更に魔法陣を増やし続ける。


それに対して六樹はアイテムボックスから取り出した大量の粗悪な剣をめちゃくちゃに瓦礫の竜巻の中に放り投げた。


ガガガガガガギギギギ………ガギンギギン!!!


鉄の剣達が瓦礫とぶつかり、けたたましい音を奏でる。当然であるが剣達に竜巻を止めるだけの力はない。それどころか竜巻を構成する瓦礫の一部となる。


だがこれでいい、エ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)は充分溜まった。


六樹は叫んだ


「集積(エキュミレイト)衝撃(インパクト)!!!」


ズドーーーーーーン!!!


その瞬間、瓦礫に紛れ込んでいた六樹の剣達から一斉に衝撃波が放たれた。


ガラガラガラガラ……


瓦礫の竜巻が吹き飛んだ。


真っさらな空が再び現れる。そして中にいたなつめと目が合った



「!」



刹那、六樹は悪寒を覚えたその時、なつめは唱えた。




「座標指定(ポイントシフト)・連衝(チェイン・インパルス)」







「…………………ごふっ」







ごぼっ、と六樹の口から何かが溢れた。それは赤黒い液体だった。



ドン!!


六樹は空中から自由落下し地面に打ち付けられる。


「ごふっ、こぼ…ごぼ……」



しかし六樹は何も言わない。いや何も話せない。ただ口から血が噴き出すのみだ。必死で手で抑えようとするが効果は無い。それどころか自分の体温を感じることしか出来ない。


「!?」


手で抑えた血溜まり、そこには液(・)体(・)で(・)は(・)な(・)い(・)物も混ざっていた。


「!!?…くぶっ!」


体がいう事を聞かない。命が流れていくのを感じる。

するとなつめが降りてきた。


そして這いつくばる六樹に何をしたのかを打ち明けた。


「強力な魔法耐性、特筆すべきはその皮膚、ならばどうするか」


自身の出した言葉になつめはこう答えを出した。


「座標指定(ポイントシフト)、お前を内臓(うちがわ)から、壊した」


キャラ紹介


名前 紅 なつめ (奈津芽)

年齢 18

身長 172

容姿 黒髪ロング 赤い瞳 幸薄系美少女


備考 この作品のラスボス兼ある意味メインヒロインの幸薄系少女。六樹とは同じ幼稚園であり仲良くなる。そこから家族ぐるみの付き合いになりよく六樹家の家の裏山で遊んでいた。ある日六樹とかくれんぼをしていた際に六樹の目を掻い潜る為に山奥に入ってしまい。道に迷い、放浪していた所を江川歩の実験用魔法陣に引っかかり、事故で召喚される。当時小学1年生であり、江川歩死後は魔王と呼ばれる存在となる。魔法使いであるが戦い方はさまざまな属性を活用するヴェルフ翁とは真逆の無属性魔法の高度な技術によるゴリ押しタイプ。

紅奈津芽というのが本名だが、召喚された際にはまだ小学1年生だった為に「奈津芽」という漢字が分からず、「なつめ」となってしまった。名前の由来はベニバナツメクサ


細かい設定は今後本編内で語るつもりです。

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