朝焼け 〈レア視点〉
私、ジウ、リーシェの目の前で、ソラが血色の炎に包まれる。
苦しむ声を上げながらも、ジウにその魔法の強化を求める姿は、封印前のソラの様だった。
ジウは怯えながらも直ぐに魔法を発動し、炎の火力が上がる。
周囲を見れば、至る所でソラを焼いているものと同じ、血色の炎が見えた。
これが業火。
ソラの呪い。
(でも)
「……一人にはさせないから」
苦しむソラに近付いて、そっと抱きしめる。
炎が私も焼いてくるけど、気にしない。
『ソラのことを……頼んだよ。一人にはさせないでやってくれ』
もう6年も前のことだけど。
先代魔王様から託された言葉を忘れたことはないわ。
どのくらい、こうしていたのかしら。
ふと、ソラの声が止まる。
直後、力が抜けて崩れ落ちるソラを支えると、炎が消えた。
そして、ソラがゆっくりと目を開く。
「……思い、出した」
ぽつりと呟いたかと思うと、立ち上がる。
「待って!」
そのまま浮遊で飛ぼうとするソラの腕を掴んで止める。
「大丈夫。俺……いや。僕は僕のままだ」
そう言って、私の手を優しく剥がすと、そのまま街全体が見える高さまで飛び上がった。
ノベクと私、マイラさんに一度視線を向けたかと思うと、微笑んで目を閉じる。
そして、詠唱を始めた。
私も知らない、魔王と魔王候補だけが知る魔法を。
「魔よ 王よ 古よ 源よ 力よ 魂よ 過去に生きた英霊達よ 天地創造せし神よ 我が名はソラ 第二十七代目魔王 嘗ての魔王よ 力の根源たる神よ その知に刻め 〈魔王伝来〉」
黒いもやがソラを包み、見えなくなる。
心配する私達を他所に、そのもやは直ぐに晴れた。
現れたソラは、少し姿が変わっていた。
頭に生えた、二本の角。
左は欠けているのか、右の角より短く、左右対称ではない。
左腕を覆う、黒い鱗。
光沢を放ち、指先まで隈なく覆っている。
しかし、見た目の変化はそのくらいで、ソラだと認識出来る。
更に変わっているのは、その存在感。
いるだけで威圧感を発し、ジウとリーシェは立っていられ無くなっている。
魔力も感じられる程増えているし、明らかに今までとは格が違う。
「〈空盾〉」
ソラが唱えると、私達の周囲に半透明の盾が5枚ずつ現れる。
全員に。
様子からして、私だけではないのだろう。
現に、見える範囲の人間全てに盾がくっついている。
少し、私達の物より薄い様に見えるけれど。
「レア達はリューク達と合流して、説明してくれると助かるよ」
ソラが話しかけてくる。
「……ソラは?」
「僕は……あれを壊してくる」
そう言って、ゴーレムを見やる。
「わかったわ、無理はしないで」
「うん」
そう微笑んで、ソラは飛んで行った。
———side 救援のBランク冒険者
なんだあれは?
味方なのか?
俺は、目の前の光景を認められていないでいる。
十代後半の少年が、俺らが束になっても太刀打ち出来なかったゴーレムをたった一人で破壊しただなんて。
それも、肉弾戦で。
1分もかけずに。
あり得ないだろ。
「ま、おう……」
隣にいた別パーティーの冒険者が、呆然と呟く。
あれが、魔王?
あんな子供が?
……いや、ありえるかもしれない。
寧ろそうでもなければ、おかしいだろう。
違ったら俺の心が折れる。
取り敢えず、今は味方みたいでよかった。
あんなのと敵対したら、命がいくつあっても足りる気がしない。
……それにしてもこの盾みたいなやつ、何?
———side???
「……無理だな」
かなり高性能のものを持ってきたのだが、それを最も容易く破壊して見せたのを見るに撤退しろ、ということなのだろう。
向こうとしても、こちらを殺す気はないと見える。
ここは素直に引いておくか。
「総員! 撤退! 魔物とゴーレムは置いていけ! どうせ奴らじゃ解析も出来ん!」
さて。
生きているのはわかっていたが。
何故そちらに与するのか。
貴方も憎いでしょう?
現魔王様。
———sideホーガン
「ゴーレムは全て破壊を確認した! アイツらがなければこちらの物! 一匹たりとも逃すな!」
「「「「「「おぉ!!!」」」」」」
下位ランクの冒険者に指示を出しつつ、思考する。
ゴーレムを破壊した少年。
あれは、大魔熊を倒したあの少年だろう。確かソラといったか。
「……魔王、か」
暴走しないでくれよ。
殺し合いなどしたくないし、そもそも俺に止められる気がしない。
今は、血色の炎で瀕死の魔物に留めを刺すことに集中しよう。
人々が元の暮らしに安心して戻れるように。
……あの炎も少年だろうな。
本当に、戦うことにならないことを祈るばかりだ。
———sideレア
私がマイラさん達に説明し終わるのと、全てのゴーレムを破壊し尽くしてソラが戻ってくるのに差はほとんど無かった。
「ソラ!」
ゆっくりと降りてきたソラは、私の方に倒れ込んだ。
それを抱きとめ、怪我がないか確認する。
「大丈夫、ちょっと疲れただけだから……。ごめん、後は任せてもいいかな」
そう言ったソラは、既に意識が朦朧としているようで、目の焦点が定まっていなかった。
「えぇ、任せて」
「うん、おね……が、い……ね……」
途端に体が重くなる。
息はある。眠ってしまったようだ。
ソラがここまでしてくれたのだから、後は頑張ろう。
任せてと言ったのだし。
家の中まで入り込んでいた魔物を全て殺し、討ち漏らしがないか丁寧に確認し、完了の合図が出た頃には、既に空が明るみ始めていた。
空を赤く染める、暖かな光。
朝焼けが、ボロボロになったこの街を優しく照らしていた。




