天才の中の凡才
一応残酷な描写注意です。
人族最古の国、ファルス。
竜との共存を目指した国、リュートレクス。
二つの国の、丁度中間。
山の麓にある小さな村に、ソラは生まれた。
その村は、魔族と人族の融和を目指した、平和の象徴と呼ばれる村だった。
父は魔王、母は半人半魔。
父も母も優しく、時には厳しかったが、彼は幸せに暮らしていた。
5歳になった頃、彼には妹が生まれた。
彼は妹を溺愛し、妹を守ろうと誓った。
彼は天才だった。
類い稀な魔力量に、全属性への適応、魔力操作のセンス。
特に魔力操作に関しては、6歳の段階で魔王である父と同レベルにまで到達していた。
しかし、それは周りと比較すればの話。
歴代魔王と比べるのであれば、彼は凡才だった。
初代の様な統治能力があったわけでもなく。
二代目の様な野心や統率力があったわけでもなく。
勇者に敗れた先先代の様な強さがあったわけでもなく。
先代、父親の様な求心力があったわけでもない。
しかしそれでもよかったのだ。
その村は、平和だったから。
友人や妹と遊んだり、父や母、村の大人から色々なことを教わる。
村には掟などもあり、したくても禁じられている事もあったが、それでも仕方ないと諦め。
平穏な日常に、満足していた。
そんな平穏が崩れたのは、ソラが10歳の誕生日を迎えて間もないある日のこと。
ファルスから、騎士団が到着した。
理由は、近々始まるかもしれない戦争時の護衛。
訪れた騎士達は態度も悪く、怪しい点も多々あったが、正式な騎士である事は保証されていた。
保証されてしまっていた。
先代魔王は無下にする事も出来ず、彼らをもてなした。
———息子の存在を隠して。
その次の日の昼。
先代魔王は、ソラ、レア、ノベクの三人に、近くの森に遊びに行く事を提案した。
その森は、入る事を掟で禁じられている森。
思い掛け無い許可に、先代魔王から手渡された地図を持ち、三人は喜んで探検しに行った。
魔王の、酷く疲れたような、自分を責めるような表情には気付かず。
その夜。
森で道に迷った三人は時間をかけつつも、なんとか村に辿り着いていた。
しかし、彼らが村に帰る事はない。
先代魔王が、胸を貫かれるところを見てしまったから。
劈く様な怒号。
燃える家。
上る煙。
地面を染める大量の血。
殺し合い。
蹴られ、泣き叫ぶ妹。
犯される母。
大事なものが踏み躙られる光景を、目の前で、どうすることも出来ず、ただ眺めていた。
我に帰ったノベクは、二人を引っ張って森の奥に引き返した。
人間に見つからない前に。
翌朝、雨が降った。
その雨も、昼にはやみ。
快晴の元、三人は村に戻った。
そこにあったのは、村の残骸。
燃え残った家の柱。
焼け落ちた木々。
焼け爛れた知り合いの体。
母の裸の死体。
首のない父の死体。
無惨に潰された、子供の死体。
———静寂。
そこに人は居らず。
残ったのは、凄惨な姿の思い出の地。
人を憎むのに、これ以上の理由は要らなかった。
彼は天才だった。
天才の中の、凡才。
そのはずだった。
代償。
呪い。
人族にとって幸運だったのは、彼が一人ではなかったこと。
彼の父が、魔族の中では稀有な優しい人物であったこと。
そして、彼が死ななかったこと。
『人を恨んじゃいけないよ。人族も魔族も大して変わらないんだ』
『力は誰かを傷付けるんじゃなく、何かを守る為に使いなさい』
父が残した言葉。
それだけでは、彼を止めるに至らなかった。




