襲撃
「おはよう、待たせちゃったかな?」
今は6時過ぎ頃、リュークとレアと共にギルドに着くと、既にグレンが待っており、こちらを見つけた途端駆け寄ってきた。
「おはようございます! 俺が楽しみすぎて待ちきれなかっただけなので大丈夫です!」
その言葉を聞いて周りを見ると、本当のことらしく、他のメンバーはジウしかいなかった。
そのジウは椅子に腰をかけ、苦笑いしながらこちらを見ている。
「ジウもおはよう」
「おはようございます」
「他のみんなは?」
そう聞くと、ジウは少し迷って考えるそぶりを見せる。
「えっと、アリアちゃんはそろそろ起きるくらいだと思います。エントル君は……朝食を食べてる頃かな? リーシェちゃんは教会に顔を出してます」
「なるほど、ありがとう。アリア以外は結構早く集まる感じかな?」
「そうですね」
紅蓮の剣のメンバーは、それぞれ行動が別々のようだ。
僕とレアとノベクは朝に行くところもないし、起きる時間もほぼ変わらなかったから基本的に単独行動は少なかった。
「じゃあ、軽く待ってようか」
「すみません! アリアが少し寝坊しまして……遅れました」
ジウとグレンと僕らの五人で会話しつつ待っていると、リーシェが数分で合流し、そこから十数分待ってようやく残りの二人が来た。
駆け気味に入ってきたアリアの髪はボサボサで、少し眠そうに見える。
「もう! 起こしてくれてもよかったのにっ!」
「でもアリア、寝起き機嫌悪いじゃん。起きないし」
開口一番グレンに当たったアリアは、返されたその一言に言い返せないようだ。
普段からこんな感じなのだろう。起こして欲しい旨の発言をしていることから、楽しみにはしていたのだろうが。
「まぁまぁ。遺跡は逃げないからさ。……遅れすぎると取られるけど」
流石に数分数時間探索が遅れたくらいで問題は起きない。とは言っても、同行パーティーとのいざこざが起きる可能性はあるが。
「取り敢えず、軽く体を動かして情報共有して、準備の確認をしてから移動しましょうか」
「はい!」
「……よし、それじゃあ行きましょう」
そんなレアの声を聞き、グレン達が目を輝かせる。
準備の間もずっと挙動不審で、早く行きたいことが伝わってきていた。
「うん」
「「「はいっ!」」」
「ええ!」
「はい」
上から僕、グレン、ジウ、リューク、アリア、エントルだ。リーシェは一歩引いた所で静かに微笑んでいる。
グレンが駆け足気味に歩いて行き、その後ろを全員でついていくような状態。
そのまま街を出る門のあたりまで行くと、突然レアが振り返り、軽く周囲を見始めた。
「……?」
「どうしたの? レア」
僕がそう聞くと、こちらに振り向いた。怪訝そうな表情が浮かんでおり、特段何かが起こったとかそんなわけではなさそうだ。
「いえ……視線を感じた気がして」
そう言いながら、もう一度街の方を見る。
釣られてみても、特に普段と変わった様子は見られない。人はいるが、こちらに気を止めている様子もなく、単純にそれぞれの事情でそこに来ているのだと感じる。
「……リーシェか、通りがかった人がちょっと僕らを気にしただけじゃない? ほら、大人数だし」
僕らの後ろにいるのはリーシェくらいだし、8人が集まっていれば少しは気になる人もいるかもしれない。そう考え、そのままレアに話す。
「……そうね、一瞬だったし、気のせいかも」
レアはそう言って街の方から視線を外し、僕もグレン達の方を見る。
すると、だいぶ離れた所に5人が見えた。おそらく僕らが後ろを気にしすぎたのと、グレン達が浮かれて早く進んでしまったのだろう。
「あ、早く行かないと。……リーシェ、走れる?」
「はい」
「〈疾風〉〈疾風〉〈疾風〉 多分ジウのとは感覚が違うと思うから、転ばないように気を付けて」
二人と自分に魔法を掛け、確認と注意をしてから走り出す。
少し走ってから後ろを見ると、特に問題なく着いてきていた。
「リューク! グレン! ペース落として!」
先頭にいる二人に大声で指示を出すと、足を止めて振り向き、そこで早く進みすぎている事を自覚したようで、少ししゅんとしながらエントル達に歩幅を合わせに行った。
「すみません! 浮かれすぎました」
そのまま少し待ってもらい合流すると、リュークが僕らに謝ってきた。
それを見て、グレンも近付いてくる。
「すみません!」
「いや、僕らも遅れてたし、グレンとリュークのせいだけじゃないよ。三人はごめんね」
「大丈夫です」
返事をくれたのはジウだけだが、他の二人も怒っている訳ではないようでジウの言葉に頷いていた。
「あ、グレンとリュークはエントルの後ろに入ってくれる?」
ホッと胸を撫でおろしているグレンに少し下がって貰い、順番を入れ替える。
はぐれても探知で見つけられるとは思うが、はぐれたタイミングで何かある可能性も考えれば少しでも対策した方がいいだろう。
「……?」
そのまま進んでいき、そろそろ着く頃だと考えていると、不満げな表情でレアが再び後ろを見る。
しかし何もなかったのか、すぐに視線を戻したようだ。
「また?」
「ええ」
(節約してたけど……そろそろ使うか)
遺跡には何があるか分からない為、少しでも万全の状態で挑めるように魔力を温存していたが、何度も気になるならレアのためにも流石に使った方がいいかもしれない。
「〈探知〉 …………人、後ろから二人つけて来てる」
探知に引っかかったのは、僕らを抜いて7人。
僕らを後ろからつけてきている三人の後ろを更に2人がつけているのと、遺跡の周辺に2人いる。
「……流石に何もないとは思うけど、警戒しておくわ」
「お願い」
遺跡の周辺にいるのはおそらく警備担当の人だと思うが、つけてきている方は分からない。
横取りなんかは禁止されているし、まともな人間なら何もないとは思うが。
「……何の用ですか?」
遺跡の目前で急激に接近してきた三人に振り返り、笑顔を作ってそう話しかける。
三人は全員男で、それぞれが武器を構えている。武装は無骨な皮鎧にナイフ、剣、剣。
明らかに友好的な雰囲気ではないし、笑顔を浮かべてはいるが目が笑っていない。切先はこちらに向いており、今にも襲いかかって来そうだ。
「あぁ……すまねぇが、お前ら邪魔なんだわ。死んでくんね?」
そう言って、ナイフを持った男が一番近くにいたレアに斬りかかる。
動きは洗練されたものとはいえず、ほぼ素人のもの。
(いきなりか)
どうやら、残念ながらまともな人間ではなかったようだ。
その男の単調な攻撃を、レアは少し身を引くことで簡単に躱し、飛びのいて距離を取った。反撃しなかったのは面倒事を減らす為だろう。
そんなことを考えつつ、念のために全員に魔法をかける。
「〈空盾〉〈堅牢〉 あなた達は何をしているのか分かってるんですか? そもそもあなた達、冒険者ですか?」
問答無用で襲いかかって来た時点で非は向こうにあるのだが、一応確認をしておく。
「チッ」
「三秒以内に返答がなければ返答をする気がないとみなし、反撃します」
舌打ちした男にそう警告しつつ、場の状況を確認する。
残り二人は動いていないが、リューク達を警戒しているらしい。
「らァッ!」
「……〈土堀〉」
三秒待った後、後ろ二人の立っている地面と飛びかかって来た男の着地地点を掘り抜く。
「なっ」
三人はまともな抵抗もできず、簡単に落ちていった。
冒険者でルールを犯すには弱すぎるし、一般人で犯罪を犯すにもここまで来ている目的なんかが分からない。よく分からないが、誰かに唆されたとかだろうか。
「……あの、見てないで助けてもらっていいですか?」
思考に一区切りつけ、対処した三人を追っていた二人に声をかける。
僕らの戦闘開始直後には追いついていたが、静観していたのだ。
「いやぁすまん。出ていく場所を見失った」
そう言いながら姿を表したのは、ホーガンさんだった。
(Aランク冒険者が何やってるんだ……)
何かあれば止めるつもりはあったのだろうが、僕らの対処を見る為にわざと手を出さなかったと考える方が妥当だろうか。
(……自作自演とかではないよな。流石に)
「……三人の対応はしてくれるんですよね」
「勿論だ。あとは任せてくれていい」
「では、よろしくお願いします。……行こうか、皆」
「え、いいんですか?」
グレンがそう聞いてくるが、ずっと見ていたし僕らが話せることなんてない。
ギルド的にもさっさと遺跡探索を済ませて欲しいだろうし、任せて問題ないはずだ。後で処遇なんかは聞くことになるだろうけど。
「いいのいいの。こういう時の為の警備だから」
「レアの言う通りだよ。ほら、早くいこ」
「はい」




