噂〈トーチ視点〉
———sideトーチ
「報告ありがとうございます。幻想峡谷には調査団を派遣する様要請しておきます」
「はい」
ノベク殿がギルドの受付嬢との話を終え、こちらに戻ってくる。
今、我々を包む空気は酷く重い。
と言うのも、依頼に失敗したのだ。
「……悪かった。ソラとレアがいない以上、もっと簡単な依頼を受けるべきだった」
戻って来たノベク殿は、椅子に座る前に頭を下げる。
表情からは後悔の色が見て取れ、失敗が尾を引いているのだろう。
あの二人がいなくなる前は殆ど依頼失敗はなかったと言っていたし、失敗する経験がないのかもしれない。
「いえ、それは仕方ないでしょう。俺も止めませんでしたし……イレギュラーもありましたしね」
実際、普段通りならあの二人がいなくともなんとかなったはずだ。
失敗した主な原因は、幻想峡谷に現れた巨大なゴーレム。
我々はそのゴーレムに敗北し、命辛辛逃げ出して来た。
そもそも相性が悪く、私の弓はダメージを与えられないし、ノベク殿の剣も通らない。
ミュイラの魔法はそこまで攻撃力が高く無い為、有効打がなかったのだ。
「いや、違うんだ。俺はあいつと出会った時点で撤退の指示を出すべきだった。ミュイラとトーチを危険に晒した。本当にすまなかった」
我々がそうして振り返っていると、ギルドに多くの冒険者が戻ってくる。
やけに人数が少ないと思ったが、何かあったのだろうか。
情報収集の為に聞き耳を立てると、話が少しずつ聞こえてきた。
「みなさん、おかえりなさい。ヴァルトさん、どうでしたか?」
「ああ、かなり怪我人が多い。ある程度の処置はしてもらったがゆっくり出来るところでしっかり検査する様に言われたから、先に準備してくれると助かる」
「わかりました」
「あの銀髪の少年は誰なんだ?」
「Bランク冒険者の方です」
「Bランクか。まぁそらそうだわな。あんな逸材が低ランクにいたらギルドは何をやっているんだと言わざるおえん。……しかし、Bだと流石に人間関係も固定されているだろうし引き抜きは無理か」
「本人の知り合いの前で引き抜きの話をしないでください……。あ、でも彼最近パーティーを追放されてますし、話だけでもしてみては? Aランク冒険者からのお誘いなら乗ってくれるかもしれませんよ? まぁ、一人だけ引き抜く、は無理だと思いますけど」
「あぁ、あの少女か。考えておこう。……にしても追放って、勿体ない事する奴もいたもんだな。何かやらかす様な奴じゃなさそうだったが」
「にしても、あの化け物の相手はAランクじゃないと無理だと思ってたぜ。まさかBランクの、しかもCランクパーティーの奴が討伐しちまうなんてなぁ……。一体どんな魔法を使ったんだ? あれはちょっとやそっとじゃ通らねぇと思うが」
「噂だと、天まで届くような火柱が立ってたらしいぞ」
「天まで届く様な火柱、ねぇ……勇者の再来ってか?」
「そんな話もあったな」
「え、冗談だったんだが」
何やら、化け物が現れ、それをここの冒険者ギルドの総力で討伐しに行っていたらしい。
討伐したのは、銀髪で、Bランク冒険者で、最近パーティーを追放された……。
脳裏に、一人の顔が浮かぶ。
しかし、炎の魔法を使っているイメージはない。どちらかと言えば、ソラ殿よりもレアさんの方だろう。
首を傾げつつ、同じく聞き耳を立てていたのか不機嫌になっているミュイラを横目で見る。
ノベク殿も気が付いたようで、席を立った。
「移動しよう、怪我人が運び込まれてきてる」
そう言いつつ、ノベク殿はチラリと入り口の方に視線を向けた。
釣られて見ると、実際に、包帯を巻いた人や、意識がない人が運び込まれて来ている。
「ええ、そうしましょう」
ミュイラはそう言って早々に、しかし邪魔にはならないようにギルドを出て行った。
後ろをノベク殿が付いていく。
この機に乗じて、ミュイラの不利になる噂でも流しておくか。
「ソラが追放された」と言う情報は、まだそこまで出回っていません。吹聴したりするわけでもありませんし、交流関係も広い方ではないので。




