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対魔熊



 そもそも魔力での情報伝達は、「ある固有種が使用していた」と言う発見情報以外には事例がなく、存在すら怪しいとされている魔法だ。

 話を聞いて試そうとした者もいたらしいが、魔力制御が極端に難しいらしく、送信側が少し間違えるだけで受信側の頭が破裂するとかそんな噂が流れたりしていた。


 (同族ですらないのに……)


 いや、今はそれどころではない。

 倒すことに集中しないと。


 「ワイバーンは任せていい?」

 「ええ、勿論。時間稼ぎお願いね」


 軽く言葉を交わし、収納から武器を取り出す。

 因みに逃げると言う選択肢はない。

 速さ的に振り切れないだろうし、僕らを追ってきた場合、他の人に被害が及ぶ可能性が高すぎる。


 「大丈夫ですか!?」


 そこに、リューク達が飛んできた。


 「リュークはレアのサポートをお願い。〈剛力〉〈堅牢〉〈疾風〉」


 戦いの準備を終え、魔熊を見据える。

 ワイバーンに身を任せており、仲間意識があるのだろうとはわかるが、普通は芽生えるはずがない。

 何かに、それこそ魔族なんかに使役されているか、そう言う力があるか。実際に、相手に自分の子供だと思わせて寄生する魔物もいる為、ないとは言い切れない。


 見た目は黒血魔熊に似ていて、それを大きくしたような姿だが、体毛にも所々に斑のような血色が見える。

 爪はさらに鋭く、血に濡れていた。


 誰の血かを想像してしまい顔を顰めるが、先に攻撃しない手はない。


 「〈炎弾〉〈風切〉」

 「炎よ、かの敵を滅ぼせ〈炎滅〉」


 レアと共に魔熊を狙うと、魔熊は落下して回避し、ワイバーンは散り散りになった。

 そこそこの高さから落ちた事で魔熊の落下地点には土埃が舞っており、視界が悪い。


 「任せた!〈風切〉」


 魔法で強化された体を動かし、魔法を放ちつつ魔熊の方に走る。


 接近中に土埃が晴れると、中から無傷の魔熊が現れた。

 その赤い瞳はこちらを睨んでおり、威圧感を放っている。


 (風には耐性があるのか? それともワイバーンみたいに盾でも出して防いだのか?)


 ひとまずわかるのは、〈風切〉が効いていないことだ。

 近付き過ぎない程度の場所で止まり、魔熊の注意を引き付けつつ遠距離から攻撃する。


 「〈炎弾〉〈落雷〉」


 正面から放った〈炎弾〉を見ても魔熊は避ける素振りを見せず、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 そこに〈落雷〉を落とすが、気に留めた様子もなく、傷も火傷も見られない。


 (単純に硬いのか? なら……)


 貫通力の高い魔法を試そう。


 「〈蒼炎槍〉……っ!?」


 僕が青い炎の槍を放った直後、魔熊は猛スピードで接近し、爪を振り下ろしてくる。


 (重っ……!)


 咄嗟に剣で防ぎ、後ろに飛び退く。

 魔熊は追撃して来ず、のっそりとこちらを見た。


 (蒼炎槍も効いてないし……攻撃が重すぎる)


 持っている剣を見ると、爪に当たった所に小さなひびがはいっている。

 かなり長く使って来た剣で、そこそこいい物なのだが。


 (動きが素早くて岩すら粉砕出来る、ね。……どうするか)


 まず、爪はダメージを与えられないだろう。

 皮は実際に剣を当てたわけでもなく感触がわかっていない為不明だが、恐らくかなり硬いと思う。


 (とすると、やっぱり目か)


 感情の浮かんでいない赤い瞳を睨み付け、折れかけの剣を投げつける。

 魔熊はその剣に見向きもせず、防ごうとしていないことがわかる。当たっても痛くないのだろう。


 その様子を見つつ替えの剣を取り出し、特攻する。

 さっきの攻撃はかなり大振りだった為、超至近距離の方が良いと判断した。

 強化魔法にものを言わせ、懐に入り込む。


 「ふッ」


 脇の下を通り抜けつつ剣を振ったが、『カンッ』と言う乾いた音が鳴っただけだった。


 (飛龍みたいな手応えだな……)


 こちらの刃が全く通っていないような音。飛龍は鱗だが、こちらは体毛である。

 苦笑しつつ振り返ると、薙ぎ払うように右腕を振っているのが見えた。

 咄嗟に上に飛び、その腕を回避する。


 「〈浮遊〉〈蒼炎槍〉」


 そのまま上に浮かんでいき、先程よりも近いところから目を狙って槍を放つ。

 魔熊はその槍を左腕で防ぎ、距離を取った。


 (よしっ)


 心の中で喜びつつ、〈浮遊〉を解除し地に足をつける。

 防いだという事は、至近距離からの目への攻撃ならダメージを与えられる可能性が高いという事。やりようはある。

 魔熊を見ると、先程よりこちらを警戒しているように見えた。


 「〈土壁〉〈土壁〉〈土壁〉〈土壁〉〈土掘〉」


 こちらを警戒してか動かない魔熊の四方を〈土壁〉で覆い、覆った範囲を掘り下げる。

 壊そうと思えば簡単に壊せるだろうが、時間稼ぎにはなるだろう。


 「……はは」


 しかし、そんな思考を嘲笑うかのように、魔熊は壁を壊すでもなく、跳んで出てきた。

 下に下がり続けている不安定な足場からの跳躍で、目算10m程は跳んでいる。


 さらに、爪の血色部分が光ったかと思えば、火球が飛んで来た。


 (着地狩りはさせないって事か?)


 幸い魔熊の速さよりも少し遅いくらいの速さだ。避ける事自体は問題ない。

 そう思い左に走って避けると、火球が追尾してきた。


 「なっ、〈土壁〉!」


 間に壁を作ると、土壁が黒い炎に焼かれ、燃え出した。

 おそらく追尾してくる火球が当たったのだろうが、普通の火球では無かったようで、突然土壁が崩れ去った。

 感覚としては、影響下からなくなったような感覚。


 (魔力を焼くとかか? そんなことが可能なのか?)


 そんなことを考えていると、先程までこちらをじっと見て動かなかった魔熊が飛びかかってきた。

 意識が逸れた所を狙われたのだろう。


 「っ!」


 右に跳んで避け、追撃の爪を受け流す。

 避けた時に頬に掠ったが、少し血が出る程度の軽い怪我だ。


 受け流されたことがなかったのか、体勢を崩した魔熊に肉薄し、左目に剣を突き立てる。

 〈探知〉のおかげで相手がこちらを掴もうとしているのがわかった為、即座に剣から手を離し、離脱。

 出来ればもう少し深くに突き立てたかったが、仕方ない。


 距離を取り魔熊を見ると、左目に刺さった剣を抜き捨てて、血を流している姿があった。



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