治療
リュイの背中から、眼下の惨状を見る。
テントがいくつか設置されており、その周囲には腕を失った者や全身に包帯を巻いている者、顔に布をかけられ横たわっている者……。
負傷者と思われる人が大勢いた。
(リュイがそのまま降りると、驚かせてしまうか?)
「……レア、先に降りよう」
リュイを見つつ、レアに言う。
細かく説明、説得している時間はないだろうし。
飛び降りることになるが、風魔法でクッションを作れば問題ない。
「どちらにせよ驚かれるとは思うわ。多少マシかもしれないけれど」
言わんとしている事がわかったのか、真下を見つつ言う。
「リュークはちょっと待ってて、説明してくる」
「リューク君、ここまま降りるとリュイを知らない人が驚いてしまうと思うから、私たちが先に行くわ」
「わかりました」
(……しまった)
説明をすっ飛ばしてしまった。
レアに感謝しつつ、今はそれどころではないと気持ちを切り替える。
「〈風球〉〈風球〉」
今は少しの時間も惜しい。
レアの分も詠唱し、風でクッションを作る。
「よっ、と」
リュイの背から飛び降りると、重力に従って体が引っ張られ、落下を始めた。
地面に衝突する少し前、20cm程の距離でふわりと弾かれるような感触を感じたと思った次の瞬間には再び重力に従い、地に足を付ける。
周囲を見ると、突然空から降ってきた僕とレアに驚き、手が止まっている。
「援軍に来ました! 治療に集中してください!」
そう叫び、レアと共に一番広いテントの中に向かう。
見たところ、ある程度統率が取れている。
つまり、指示を出している人間がいるはずなのだ。
まずは現状把握と指示を仰いだほうがいいだろう。
「すみません、Cランクパーティーの朝焼けの空です。ここの指揮を取ってる方はどこにいますか?」
テントの中に入り、治療が終わってはいるが動けない程の怪我を負っている20代程の男性冒険者に声をかける。
「援軍か、助かる。ヴァルトさんは今忙しい、俺が代わりに答えよう」
そう言って、僕に話を促す。
「指揮を取っている人」を聞かれて名前が出ると言うことは、そのヴァルトという人がそうなのだろう。
「えっと……」
(この人はどの程度知ってるんだ……?)
聞かなくてはならない事の対応と、わかっている情報の差異が少なければいいのだが。
「ああ、すまん、俺はヴァルトさんのパーティーメンバーで、さっきまでは一緒にいた。ある程度情報も持っている」
そう思っていた事が顔に出ていたのか、男性は苦笑しつつ言う。
「わかりました。お願いします……それから、魔物じゃない方の飛竜が降りてくるんですが混乱しないようにするにはどうすればいいですか?」
「飛竜? いや、それは後で聞こう。取り敢えずこのテントの傍にいさせてくれ。安全だと言うアピールは忘れない様に人が一緒にいると尚いい」
「了解です」
そこまで聞くと、レアが「後は任せてソラは治療の手伝いに行って」と言ってきた。
リュークへ伝えなくてはいけないし、一旦別れるのが賢明か。
「わかった。負傷者……特に重傷者はどこに?」
「治療出来るのか? 助かる。小さいテントに寝かされている者が特にひどい怪我を負っている」
「わかりました。では、行ってきます。詳しいことはレアにお願いしますね」
「ああ」
そう言って、テントを出る。
「〈探知〉」
(……やばいか?)
リュークを探す為に使った探知で、マイラさんの言っていたあの熊の魔物と思われる生物と、周囲に多くの魔物が範囲にいた。
急いだほうがいいだろう。
リュイと共に空にいるリュークに〈浮遊〉で近付き言われた事とレアに合流する様に伝え、移動する。
隣の少し小さなテントに入ると、ひどい有様だった。
負傷者が27人、魔力切れか何かで座り込んでいるのが4人、今尚治療を続けているのが2人。
床は血だらけで、癒・聖魔法が使える人の魔力が足りていないのか、治療が全然進んでいなかった。
寝ている人は皆一様に傷だらけで、体の一部がなくなっている人が半数もいる。
しかし、命を優先して回復した為、今にも死にそうな人はいなさそうだ。……既に亡くなってしまった人はいたが。
(……っ)
奥歯を強く噛むが、それでどうにか出来るわけでもなく、最短で来ていても結局どうしようもなかった様な気がする。
「〈生命活性〉〈癒天〉〈治癒〉」
全員に生命活性を、重傷者には癒天を、比較的治療が進んでいる者には治癒をかけ、座り込んでいる人に片っ端から〈魔力譲渡〉で魔力を供給する。
その後、急いで外に出て外の治療すればすぐに戦える人の治療を始める。
〈探知〉で調べる限り、前線がどんどん下がっているのだ。
戦える人は出来るだけ増やしておきたい。
戦う意志のある人のみ治療し、レア達と合流する。
先程の男性冒険者が「ヴァルトさん」と呼んでいた人も居り、詳しい話を聞いたようだ。
「おお、初めまして。Cランクパーティー、剛範のパーティーリーダーを務めております、ヴァルトと申します。援軍、治療感謝いたします」
30代後半から40代程の男性で、丁寧な印象を受ける。
「朝焼けの空のソラです。今は緊急事態です、丁寧な言葉は要りません。」
時間が勿体無い。
今まで話を聞いていたレアに僕が聞いておいた方がいいと思った事を教えて貰い、ある程度状況を把握する。
現在、特に強い魔物は例の熊とワイバーン4体だそうだ。他にもいるが、主に気をつけなくてはならないのはこの五体だろう。
他には、今の作戦と動ける人数、熊の魔物の特徴を教えて貰った。
まず、なるべく時間を稼いで高ランクの冒険者の増援を待っているらしい。
少しずつ全線が下がっていたのは、時間稼ぎをしつつ犠牲が極力出ない様にしていたからのようだ。
動ける人数は僕が治療した分を含めて41人、うち、殆どはEやF、よくてDランクで、ワイバーンや熊の魔物とまともに戦えるのはヴァルトさんのパーティーと僕らくらいだそうだ。
それでも、いないよりはいてくれた方がありがたい。周囲の魔物を任せられるのだから。
特徴としては風、炎、闇、強化の魔法を使うことが確認されているらしい。
身体能力も高く、木を薙ぎ倒し、岩の粉砕すら出来るようだ。更に、動きも素早く、嗅覚と聴覚が鋭い。
鉄の鎧を爪で切り裂き、防具が一撃でダメになる冒険者が多いそうで、今までなんとか耐えているのは、真っ向から戦わない事が大きいと思う。
「同じCランクパーティーと言ってもソラさん達の方がランクが高いのですから、ソラさんが指示を出した方がいいのでは?」
ふと、そんな提案をされる。
確かに、本来緊急事態では現場の高ランク冒険者が指揮を取ることになっているが、僕は今回の場合、ヴァルトさんがそのまま指示を出した方がいいと思う。
「いえ、僕はあまり指示を出すことがありませんし、ヴァルトさんの方が信用があるのでしょう。急に指示を出す人間が変わると混乱する可能性がありますし、そのまま指揮をお願いします」
「わかりました。そう言うことなら」
そう納得してもらい、どうするかを考える。
早く前に出た方がいいとは思うのだが、ヴァルトさん達の作戦の邪魔になるわけにはいかない。
「……ソラ、戦場でワイバーンの内一体だけを区切って各個撃破するのはどうかしら?」
「?」
「ついて行けない……」
「出来なくはないと思うけど、邪魔にならない?」
レアの突然の発言に、ヴァルトさんは理解出来ておらず、リュークは言いたい事はわかるが何故突然出てくるのかがわからない、と言った感じだ。
恐らく、僕の表情から読み取ったんだと思う。
「横から巻き込めば大丈夫だと思うわよ? ね、ヴァルトさん」
「いや、話がよくわからないのですが……」
「犠牲をなるべく減らしたいので早く前に出たいのですが、作戦の邪魔にならない様にしなければ、と思いまして」
そう言うと、ヴァイトさんは少し考えてから「周りの冒険者にも伝えて隙間を作って貰えば大丈夫だと思います」と答えた。
「了解しました。それでは行ってきます……レア、リューク、行こう」
「ええ」
「はい」




