エント村の人々
「リューク、お願いね」
「はいっ! 任せてください」
リュイの背に乗って、いつでも飛べる様に準備しているリュークに、僕とレアの報告書を託す。
報告書に書いたことは、襲撃があった事、新しい遺跡を『紅蓮の剣』と共に発見した事、住民に被害は出ていない事、人為的な何かがある事。
全員で移動する訳にもいかないし、一番早く移動出来るのがリュークがリュイに乗っていくことだったので頼んだ形だ。
その間、僕とレアは警戒を続ける。
「それでは、行ってきます」
そう言い残して、飛び立つリュイとリュークを眺めつつ、あの魔物が閉じ込められた箱が他に無いかを探す為、スコップを取り出す。
〈探知〉では、魔力を広げる性質上、土の中の物や密閉された場所はわからないのだ。
それを加味しても便利で優秀なことには変わらない為、愛用しているし、これからも使っていくが。
村に近い場所は農家の人や紅蓮の剣の面々——グレンとジウは休んでいるが——にも手伝って貰い、地面を掘り返していく。
レアはいつでも助けに入れるよう、掘る手伝いはしていない。
そこそこ硬い土も〈剛力〉のお陰で難なく掘れるが、それでも疲れることには変わりなく。
範囲も広く、仮にあったとしても深さもわからない為かなり精神的にくる作業だ。
「ないな……いや、無いのはいいことなんだけど」
魔法も駆使して数十分程掘り続けたが、何も出ない。
全く代わり映えしない単純作業になっており、手伝ってくれている人達も休み始めている。
「おい、あんたもそろそろ休憩しな」
変わらず掘り続けていた僕に、20代くらいの男性が声をかけてくる。
「あー、今何時くらいですか?」
「ん?14時だ」
(早めに安全は確保しておきたいし……まだ動けるから、後でいいかな)
「ありがとうございます、でも何かあれば困るので僕は大丈夫です」
と、微笑みかける。
すると、男性は嬉しさを滲ませつつも困った様な表情を作り、頭をかきつつ口を開く。
「あんた……いや、ありがたいんだが、休んでくれ。あんたが休んでくれないと俺らも満足に休めねぇよ」
それを聞き周囲を見ると、先に休んでいた人達が手を振って呼んでいた。
レアもおにぎりを片手に警戒は続けつつも半ば休憩しており、村娘の少女と談笑している。
(確かに一人だけ作業してると休み辛いか)
「すみません、じゃあお言葉に甘えて少し休ませて貰います」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
作業を切り上げ村の中に入ると、女性からおにぎりと水を貰う。
どうやら、作業していた全員に配っているようで、いくつかのグループに分かれて和気藹々としていた。
「ありがとうございます」
「感謝を言うのはあたしらの方だよ、ありがとね、冒険者さん」
「僕らの場合は仕事ですから」
(……でも、やっぱりいい人達だな)
会話を切り上げ門の前に移動し、塩気の強いおにぎりを頬張りつつ、そんなことを考える。
すると、3~40代程の、ガタイの良い男性が近付いて来た。
「食事中失礼します」
「はい? なんでしょうか」
畏まった態度で接せられ、なんだろうかと記憶を辿る。
村の事ならここまで畏まる必要はないだろうし、するとしても村長さんだろう。
「私はグレンの父です。息子を助けて頂き、本当にありがとうございました……!」
そう言って、男性は頭を深く下げた。
その言葉になるほど、と納得しつつ、少し訂正する。
「グレンとジウを助けたのはリュークとリーシェですよ、僕は……まぁ少しは協力しましたが、お礼はあの二人に」
僕はリーシェの手伝いをしたくらいだし、感謝されるべきなのはあの二人だろう。
と言っても、リュークは今いないのだが。
「それでも、ありがとうございました!」
「……まぁ、はい」
その上でと言うなら、受け入れておこう。
減る物でもないし、それで納得するのなら。
グレンの父親はお礼にと業物の剣を渡そうとして来たが、流石に受け取れなかった為、代わりにお酒を2本貰う事で話を着けた。
(……にしても、本当に子供のことが大事なんだな)
お礼にと差し出そうとしていた剣は、家宝の一つで、グレンの先祖様が使っていた剣らしい。
かなり古いにも関わらず綺麗な状態で残っていたし、過去の有名な、かの勇者の武器を作ったとされる鍛治士の作品だった。
それ程のものを差し出そうとするだけで、グレン父の感謝の気持ちは伝わってくる。
ちなみに気が付けたのは、武具屋の店主の憧れらしく、待ち時間に語られていたおかげだ。
「……さて」
続きを始めよう。
「〈整地〉」
汗を腕で拭いつつ、掘った穴を全て埋める。
結局、周囲をかなり掘り返した結果、4つの箱がみつかった。
何れも魔物……レアが戦っていたあの蜘蛛の魔物が入っており、レアと紅蓮の剣の面々にも手伝って貰って直ぐに討伐し回収を終えた。
まだどこかに残っている可能性もあるが、見つかった箱は殆ど同じ高さにあった為、その高さ+数十cmは堀切り、他に見つからなかったと言うことで作業を終える事に。
長時間の作業で村の子供からお礼を言われたりと、精神的にはかなり楽だった。
「ソラ、お疲れ様。リューク君も帰ってきたし、そろそろ護衛の冒険者も来るそうよ」
「レアもお疲れ様」
声を掛けてきたレアに言葉を返しつつリュークを探すと、グレン父に捕まっていた。
遠目からでもかなり困っていることがわかる。
困っていると言っても、嫌がっていると言うよりどう対応すればいいかわからないと言う感じだが。
(まぁ、そのうち解放されるでしょ)
リュークから視線を外し、レアの方に向き直る。
「この依頼もそろそろ終わりだね」
「そうね。……まだ油断は出来ないけれど」
護衛の冒険者に引き継ぎ次第、僕らの仕事は終わりだ。
それまでは警戒を続けないと。
と警戒していたが、数十分後、何も起こらずに引き渡しが完了した。
護衛の冒険者はCランクパーティーで、Cランク冒険者6人、全員男性のバランスの取れた良いパーティー。
Cランク冒険者と言うことで、ギルドからの信頼も厚いのだろう。軽く話した感じ、年下の僕らにも丁寧に接してくれ、この人達なら問題は起こさないだろうと思えた。
(偶に、護衛対象と揉める冒険者とかいるからなぁ……)
だからこそ、実力だけではDまでしか上がれないし、依頼人もCランクやBランクの冒険者を選びたがる。
……Aランク冒険者は依頼料の相場が高すぎて、それこそ大商人や国のお偉いさんくらいしか依頼しないのだが。
「それでは、僕らは先に失礼します」
「はい、後は我々にお任せください」
リーダーの人と挨拶し、エント村を離れる。
(今の内に、マイラさんに報告する内容を纏めておかないとな……)




