的当てゲーム
「どうでしたか?」
「凄く良かったよ。見た感じ多分大丈夫だとは思うけど……一応、一回は実践で合わせてみたいね」
リュイの突撃もリュークの魔法も、あの……ワイバーンに向かって放っていた距離からであれば避けられるとは思うが、過去に倒した事があるとは言え虹魔狼は強い。
出来れば先に、ある程度動けると言うことを証明しておきたい。それによって、リュークの動きやすさがだいぶ変わってくると思うからね。
「私は基本後衛だし、前に出るタイミングだけ教えてくれれば問題ないわ」
「わかりました!」
「どう? ソラ」
飛竜の上から、僕に声をかけてくる。
「んー、いないね」
そろそろエント村に着く。
その間、魔物を探してはいたのだが、全くいない。
(さっきのワイバーンのせいかな……)
普段この辺りに生息する他の魔物は、ワイバーンより弱い。
生命を脅かす強者が来たことで、逃げてしまったのかもしれないな。
(にしては街に何の影響もなかった気がするけど……)
「ま、いないものは仕方ないわ。いざとなれば後ろから攻撃して貰えばわかってくれると思うし」
「そうだね」
リュークとリュイに全力を出せてもらえれば最悪それでいいからね。
そんな事を考えていると、レアが飛竜を降り、耳打ちしてくる。
「でも、ソラもリューク君とリュイを信頼しなきゃ駄目よ?」
「……うん、わかってる」
恐らく先程の、リュークとリュイが戦っている時に任せなかった事で、信頼していないと思われたんだろう。
「……わかってるならいいわ。相手に信頼して貰いたいなら、先に相手を信頼しないとね」
「うん」
「いないね。……じゃあ、レア」
軽く探してみたものの、やはり魔物は見つからず。
予定通り、心配せずとも攻撃を避けることくらい出来ると証明しようと思う。
「ええ。リューク君、今から貴方には的当てゲームをやって貰うわ」
「……え?」
その言葉に、リュークの動きが固まる。
「大丈夫、私がお手本を見せるから!」
「え? あ、よろしくお願いします?」
レアがリュークに絡んで居る内に、距離を取る。
(距離としては大体このくらい……かな)
「準備出来たよー!!」
頭だけ後ろを振り向きつつ、大声で呼びかける。
「はーい!!」
返事が返ってきた為、収納から剣を取り出す。
探知に集中しているだけだと、実践とはだいぶ違ってくるからね。
レアの作り出す人形と戦いつつ、後ろからの魔法を回避するのだ。
(それでも実践とは違うけど……完全に集中出来る訳でも無いし、多少はマシな筈)
「〈探知〉」
知覚範囲が広がり、情報量が一気に増える。
空を飛んでいる鳥や、近くの木の上で眠っている小動物、リュイの上に乗るリューク。
視界に入らない情報も来る分、細かい部分まで処理しようとすると下手すれば死ぬ。
その為、近くは細かく、遠ければ遠いほど大雑把に……と情報を拾っていく。
「大地よ、その生命力を土人形へと分け与えよ〈人形演武〉」
レアの詠唱と共に、僕の目の前の土が盛り上がり、そこから腕、頭、体……と、段々と姿を露わにして来る。
這い出て来るまで待っていると、遂に全身が見えるようになった。
体長は140cm程、全体的な形は人型だが、関節の稼働領域は人とは比べ物にならないくらい広い。
僕が剣を構えると、土人形が飛びかかってきた。
半歩身を引きつつ左に避け、剣を薙ぐように振る。
「ふッ」
土人形は身体を直角に曲げる事でそれを回避、そのまま棍棒の様に上半身を振り、剣が空振ったことで空いた体に突撃してくる。
と同時に、レアから火球が放たれた。
「よっ」
土人形に合わせてタイミングよく跳び、頭部を思い切り踏みつけて上に逃げる。
その直後、踏み付けられ地面にぶつかった土人形に、レアの火球が命中。
燃える土人形に剣を突き刺し、体が崩れたことを確認してレア達の方を見る。
「これが的当てゲームよ! 」
「……これ、的はどっちなんです?」
ドヤ顔でそう言い放ったレアに、リュークが問う。
「僕と土人形、だね。土人形に当たるように、且つ僕も避けないと当たるように撃つゲームだよ」
レアが悩み始めたので、僕がそう答える。
どっちか、と言われれば悩むが、どっちもでいいと思うのだ。
「なるほど」
「……にしてもレア、土人形の操作上手くなったね」
前は、飛びかかり、殴りかかり、簡単な回避くらいしか出来なかったはずだ。
今回は火球を打つタイミングも狙う必要があったし、そちらにも思考を割いていた事を考えれば、かなり腕前が上達している。
「でしょ! 私だって訓練してるんだから」
ない胸を……いや、無くはないのだが大きくはない胸を張り、腰に手を当てて斜め上を向いている。
「それじゃ、リュークもやろうか」
「はい」
「え? ちょ、ちょっと!反応してくれてもいいじゃない!」
僕がレアを無視してリュークに話しかけると、リュークもそれに乗ってきた。
スルーされた事に気がついたレアが、慌てたように声をかけてくる。
「冗談だよ、レアが努力してることは知ってるさ」
「すみません、ちょっと……イラッとしたので」
リュークが頬を掻きつつそう言うと、レアはショックを受けたようで項垂れていた。
確かに、ほぼ初対面でやられるとうざいかもしれない。
反応も含めて可愛いんだけどね。
「お疲れ様」
リュークの矢と魔法を躱し切り、土人形にトドメを刺してから声を掛ける。
最後にリュイが突っ込んできた時は少し……いや、かなり焦ったけど、なんとか回避し切った。
「お疲れ様っ!」
「お疲れ様です……本当に当たりませんね」
少しショックを受けた様に項垂れ、リュークは言う。
(まぁ、来るのわかってるしなぁ)
何も見ずに音や感覚だけで避けるのとは話が違うのだ。
距離も充分開いているし、これは感覚の違いだろう。
「目の前からまっすぐ飛んでくるのとあんまり変わらないからね。リュークの腕が低いわけじゃないんだ。……でも、これで信用してもらえたかな?」
軽くフォローを入れつつ、確認する。
「はい!」