リュークとリュイ
「で、リューク、どうだった?」
洞窟から出て、今はエント村の方に向かっている。
というのも、近くに魔物がいなかったのだ。
その為、目的地の方向に進んでいく最中に魔物を見つけたらリュークとリュイの戦いを見る、移動中は感想を聞くことになった。
因みに、移動は僕が徒歩でリュークとレアはリュイに乗っている。
流石に3人は重いらしく、ならばとレアに譲ったわけだ。
「そうですね……レアさんは魔法なので詠唱で伝わると思うんですが、僕の場合は弓なので、そこがなー、と」
「あ、それは多分大丈夫。矢も避ける練習はしてるから」
トーチが弓使いだったこともあり、〈探知〉で飛んでくる矢を判別するのは出来るようになった。
近過ぎると流石に避けきれないが、空から撃つなら恐らく大丈夫だろうと思っている。
「そうですか?」
「ソラはすごいのよ? まぁ、最初は疑うのも仕方ないと思うけどね」
疑問に思うリュークに、レアがフォローを入れる。
(……褒められても困るな)
少し照れつつ、顔を背け見られないようにする。
「まぁ確かに……補助担当とは思えない動きでしたね」
「ね、でも弱点もあるのよ?」
(僕の弱点……? )
何だろうか。
少し気になる為、止めずに聞き耳を立てる事にする。
「気になります」
「えっとね、まず女慣れしてない事でしょ?それに、褒められ慣れてない事でしょ?後、人命がかかってない時に逃げ腰なことと、人命がかかってる時に体が動いちゃうところ。後は私もそうだけど、探知に頼り過ぎなところね。……うん、他にもあるけど大体こんな感じ」
前者二つはともかく、後ろ三つは僕にだって言い分がある。
逃げ腰なのは、そもそも自分で戦う必要のない強敵に向かって行く程戦闘狂じゃないから。
命がかかってる時に動くのは、僕の力で助けられる人は出来る限り助けたいから。とはいえ、知らない人数十人とレアならレアを選ぶし、大事な人や物を優先する。
(人命に限るわけじゃないんだけどね)
勿論優先順位はあるが、犬だろうが猫だろうが狼だろうが飛竜だろうが、僕の大事な誰かの大事な存在で、僕に助けられるのなら助けたい。
探知に関しては、魔力をより遠くに飛ばす訓練であり、情報過多に慣れる目的もある。
とは言っても、流石に発動しっぱなしだと魔力切れの時に困る為、何かがあった時は節約するし、定期的に発動しないで依頼を受けようとも思っている。
急用の場合や命の危険がある所では普通に使うが。
「……そろそろ発動した方がいいかな〈探知〉」
——見つけた。
「どう?」
レアが聞いてくる。
「見つけた。このまま真っ直ぐの道沿いに、結構大きいのがいる」
大きさとこの辺りの目撃情報や環境から考えて、角魔鹿系統の魔物だと思う。
特徴としては角が魔力制御器官になっており、角が大きければ大きい程魔法の扱いが上手い個体が多く、厄介な魔物になる。
但し、基本的に温和でこちらから攻撃したりちょっかいを掛けなければ平時に襲ってくる事はまずない。
食べ物がなかったり、人の味を覚えていると話は変わってくるが。
木々が点在する程度の、視界が悪くない林。
魔物がいた場所の近くで、この林を道なりに突っ切るとエント村が見えてくる。
「何でこんな所に……?」
遠目から視認出来たその魔物は、魔鹿ではなかった。
本来もっと奥の、それこそ霊峰やその奥の山脈にいるような魔物。
僕が立ち止まると、レアがリュイから降りて近付いて来た。
「ワイバーン? ……でも、小さいわね。それに——」
あまりにも似合わない、巨大な角が生えている。
その様はどこか無理やり付けられたような、何らかの人為的な物を感じる程。
緑色の鱗に全身覆われており、体長は4m程。角以外は、成長途中の普通のワイバーンだ。
(初めて見た蛭の魔物に、黒血魔熊……それに、今回の虹魔狼、このワイバーン。……流石に多過ぎじゃないか?)
あまりに連続で珍しい事が続いている為、何かがあるのでは無いかと邪推してしまう。
「……まぁ、帰ったら報告するしか無いよね。リューク、他のにしておく?」
流石にワイバーン相手だと危険があるかと思いそう問いかけたが、リュークは既に戦う準備を終わらせていた。
「大丈夫です。任せてください! ……行くぞ、リュイ」
そう言うと、リュイが翼を羽ばたかせ、リュークを乗せたまま空へ飛んで行く。
(サポートした方がいいか? ……いや、邪魔する訳にも……)
「ソラ」
「……何」
僕が悩んでいると、レアが声をかけてくる。
「任せろって言われたんだから、待ちましょ」
「……そう、だね」
一応、すぐに動けるよう心構えはしておくが、静観する。
僕が悩んでいる間に、リューク達は真上をとっていた。
ワイバーンは気付いていないようで、動かない。
そこに、3本の矢が飛来する。
いずれも正確な射撃で、ワイバーンが避けなければ確実に当たるだろう。
しかし、突如ワイバーンの角が青く光だす。
「魔法の……盾?」
現れたのは、ワイバーンの周りを囲むように浮遊する、3枚の青色の半透明な盾のような何か。
(障壁っぽくはない、本当にただの魔力で作った盾か……?)
僕が盾の正体を観察している間にも、リュークは魔法や矢による射撃を繰り返している。
しかし、有効打にはなっていないようだ。
盾に防がれるか、避けられている。
(避けるって事はあの盾自体万能じゃないと思っていい。……にしても、なぜ飛ばないんだ……?)
と言うのも、ワイバーンが空を飛ぶ様子が見られないのだ。
攻撃の回避も走って避けている。
「角のせいで飛べない、のか?」
(なら、広範囲に影響を与える攻撃ならまず避けられないだろうし、あの盾だと防ぎ切れないだろうから……)
予想が正しいのであれば、レアなら直ぐに討伐出来るだろう。
(僕だと……どうかな)
厳しいかもしれない。
あの盾の速さにもよるけど、範囲が広い魔法には殆ど手を出せていないのだ。
すると、いつまでも防がれ続ける事に業を煮やしたのか、リューク達が突撃する。
ぶつかる直前、リュークはリュイから飛び降り、魔法の詠唱を始めた。
そのまま至近距離まで近付いたリュイは、ワイバーンの顔に噛み付く。
体格で勝っている為か、ワイバーンが暴れ角や盾がぶつけられているにも関わらず、しっかりと押さえつけられている。
そこに、リュークの魔法が襲いかかった。
(なるほど、視覚の一部も奪ってるのか)
そりゃあ、顔を食われていたら周りのことを考えるのは難しいだろう。
作られた死角からの攻撃に対応出来るはずもなく、ワイバーンは力尽きた。
「……凄いな」
思わず、呟く。
これは、飛竜が仲間だからこそ、という戦術に見える。
人だけで出来るかと言うと……それ専用に魔法を研究し、訓練し、なんとか習得してそれっぽいことはできるか……といった感じだ。
「かっこいいわね!」
レアは、かなり興奮している。
ここまで竜好きだっただろうか。
(もうちょっと控え目だったと思うんだけど……)
初めての人と関わりのある飛竜で、テンションが上がっているのかもしれない。
「そうだね。……合流しようか」
「ええ! いきましょっ!」




