飛竜
「そうだ、さっき言ってたリュークのもう一つのものって?」
登録と準備を済ませ、街を出た後。
青々とした、開けた高原をエント村の方に歩いて行く途中、ふと気になったので聞いてみる。
「忘れられたのかと思ってました……。……驚かないでくださいね?」
リュークはそう前置きすると、口笛を吹く。
「…………っ」
何もないかと気を緩める直前。
探知の範囲に、大型の生物が入った。
そちらの方向に目を凝らす。
(……?……いや、空から何か……)
極々小さい黒い点。
それが、だんだん大きくなってくる。
「〈遠目〉」
魔法を発動すると、それが何かわかった。
鶯色の体に、大きく羽ばたく2枚の羽根。目は薄黄色で、敵意は感じない。
(飛竜かっ!)
ややこしいが、飛竜と飛龍とワイバーンは別物だ。
飛竜は大型動物、飛龍は大型魔物、ワイバーンは中型魔物。
僕らが戦ったことがあるのは飛龍で、飛竜ではない。
最も簡単な見分け方は「目の色」だ。赤なら飛龍、それ以外なら飛竜。
リュークの方をチラリと見ると、至って冷静で、むしろ笑顔を浮かべている。
(……大丈夫そうか)
一応いつでも動ける様に心構えはしておくが、恐らく何も起こらないだろう。
そのまま待っていると、リュークの前に飛竜が降りて来る。
リュークと見比べるとかなりの差があるが、7mサイズの為飛竜としてはまだまだ子供だろう。成体は12〜14mが一般的な大きさとして知られている。
「リュイ!待たせてごめんな」
「リューク君、リュイっていうのはその子の名前?」
その飛竜に駆け寄り、頭を撫でつつ話しかけているリュークに、レアが声を掛ける。
「はいっ!俺の……相棒です!」
リュークの言葉に反応してか、リュイが『キュウ!』と鳴く。
(思ったより可愛い鳴き声だな……)
今までのイメージを壊しかねないその鳴き声に、僕としては苦笑いを浮かべざるを得ない。
「仲が良さそうだね」
「相棒でもあり、家族みたいなものですから!」
僕としては、仮に魔物であっても……絆があるのなら倒す必要も差別する必要もないと思っている。
迫害する者の気持ちもわからなくはないが、恐怖で言えば人間も大して変わらない。
人も動物も、それぞれ違うのだ。
「じゃあ、リュイも混ぜて軽く戦闘のすり合わせでもしようか」
パーティーを組んで即実践なんて、出来るわけがない。
「えぇ。……まずは私とソラの戦いを見せた方がいいかしらね?」
「了解。リュークは剣弓槍使えるって言ってたけど、一番慣れてるのは?」
僕がそう聞くと、リュークは少し考えた後に口を開く。
「基本リュイの上から狙撃していたので、遠距離もしくは中距離ですね」
「えっ!私も乗ってみたい!」
後ろで「リュイの上から」と言う単語に反応したレアが、リュークに詰め寄っている。
リュイの攻撃方法は恐らく噛みつき突進と言った肉体的な事と、魔法は……使えるのだろうか?
そもそもリュークを乗せて遠距離に行く、という事は空を飛んでいるのだろう。
すると、前衛になるのは無理そうか。
(なら、僕が前に出た方がいいな)
「わかった。それじゃ、行こうか」
そう言って、〈探知〉で発見した、少し離れた位置にある洞窟の奥へ向かう。
「この辺りにも魔物いるのね」
「え?えっと、どこに?」
いつの間にか切り替えていたレアは当然のように後ろを付いてくるが、リュークは困惑している。
「あー、ごめん。探知で魔物を見つけたから、そこに行くよ」
(そりゃわからないよな……)
ミュイラとトーチは特に何も言わずとも普通に付いてきていたから、そういう物だと思ってしまった。
若しかすると、ノベクが予め説明してくれていたのかもしれない。
「あ、了解です」
(僕は、甘え過ぎてるのかもしれない)
レアとノベク、それからマイラさんとか。
高原を少し進み、道を外れた場所にある洞窟。
特に鉱石なんかがあるわけでもなく、探索はとっくの昔に終わっているものの、街から微妙に離れ、塞いでも魔物や動物に開けられるために放置されている洞窟。
人が3人横に広がれる程度には幅があり、長さもそこそこ。
奥に進めばすぐに光が入らなくなる、そんな洞窟。
視界に関しては全員に〈暗視〉をかけている。光球は周囲を照らせるが相手にもいることがバレる為、今の状況には向いていない。
「〈剛力〉〈疾風〉」
自身に補助魔法を掛け、剣と盾を取り出す。
「いつでもいいわ」
僕らの眼前には、とぐろを巻きじっとしている、闇の中ではよく目立つ赤色の目を持った、黒色の蛇の魔物がいた。
体長は3m程だろうか。尾の方が岩に隠れている為、正確な事は言えないが、かなり大きい事は間違いない。
蛇の魔物……見た目だけでは判断し辛いのだが、恐らく黒牙魔蛇と言う種類だと思われる。
特徴としては牙に何らかの毒を持ち、大きさからは想像出来ないような速さで移動する。木が登れず、風があまりない暗い場所を好む……らしい。
時折動いていることから、眠っているわけではないのだろう。
「行くぞ」
小声でそう呟き、全力で接近する。
魔蛇は僕を認識し、バネのような動きで突進してきた。
「〈土壁〉」
魔蛇との間に壁を作り、突進を防ぎつつ少し横に避け、魔蛇が土壁に当たった瞬間に破壊、突然目の前がひらけ隙の出来た魔蛇の首部分に剣を振り下ろす。
しかし魔蛇はそれを体をくねらせる事で対応し、紙一重で躱される。
「炎よ、塊となりてかの敵を燃やし尽くせ〈連炎弾〉」
「〈風切〉」
レアが詠唱を始めたのを確認し、魔蛇の逃げ場を封じる為、床を滑らせるように風の刃を放ちつつ飛び退る。
今、魔蛇は体の大部分が浮いた状態だ。
魔蛇は何とか躱そうと体を回転させるが、そこに5つの炎が飛来する。
風切を避けるのに精一杯な状態で、新しい攻撃に対応出来る筈もなく命中し、正面から力が加わったことで墜落、そのまま風の刃にも切り刻まれた。
「ふッ」
燃えている蛇の頭を切り離し、体は冷やして回収する。
「お疲れ様、流石ね」
「レアもお疲れ様。……じゃ、洞窟出ようか」




