イリアス少佐
本日のメニューはヨガ、ただポーズをとるだけと考えていると痛い目に合う。
そのポーズを維持するだけで結構な筋力を使うのだ。
身体の柔軟性を高めるためにカラもトレーニングに取り入れていた。
「曲がらないなら無理しなくていい、曲がるところまで頑張って」
そう言いながらポーズを直していく。
足を空中に上げるポーズはさすがにスカートをはいているとあられもない格好になってしまう。
「やっぱり、体操服は必要だよねえ、だぼだぼの動きを妨げないパンツがあればいいんだけど」
そんなことを呟きながら、ふらつく足を支える。
「大きく息を吸って、吐いてください、いいですか、大きく深呼吸ですよ」
きちんと酸素を使うことが脂肪燃焼のコツだ。
アニスは鬼気迫る様子で頑張っている。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
最高にいい笑顔で返された。
「お菓子を減らしたのは辛くないの?」
「ええ、辛くありません」
アニスがホームシックからのストレス過食であったことをカラは知る由もない。またそれがストレス解消に筋トレ依存へと進んでしまったこともまたカラの知る由もないことであった。このままアニスは身体を鍛え続け、最終的に職業軍人へと転職することとなるが、そのこともまた今のカラは知る由もなかった。
ノックの音にカラが振り返る。
「いったん中止」
ポーズを元に戻させてからは扉を開ける。
ウィスラー夫人が立っていた。
「何か、ご用ですか」
ウィスラー夫人の影からタロが現れる。
「本日の甘いもの、水分補給も兼ねた、ミルクセーキだ」
「よかった、今日も美味しそう」
カラは嬉々として水差しを受け取る。
中にいる女性はタロから見れば全員だぼっとしたワンピースを着ているようにしか見えない、しかしウィスラー夫人はカラにを水差しを渡した瞬間にタロの襟首を引っ張って体育館から強引に出した。
「あの?」
「あのような姿のご婦人をまじまじ眺めるなど許されないことです」
どうやら、あの格好は男性の前に出るのにはあるまじきことらしい。
あの格好でだめなら、かつて前世のカラが身にまとっていたレオタードはどうなるんだろう。
そんなことを思いつつ、後ろのいるイリアス少佐を振り返る。
何をしていたのか薄々察しはついた。
「ああ、残念がることはありませんよ、あの女性たちが結果を出せば、おそらくそちらのほうに男性兵士の訓練を要求する可能性はありますからね」
「そうですね、その時に見せてもらえばいいですか」
そしてタロを見る。
「いろいろとやっていますね」
「そりゃ、人生がかかっていますからねえ」
タロは笑う。見た目年齢とは裏腹などこか老獪な笑みを。
それを見てイリアス少佐は納得する。
転生者はは本当に二度目の生を生きているのだと。
「店を持った以上、責任というか、生きがいというか」
タロの店はあの地域で唯一のレストランだ。
唯一にして、最初のレストランといってもいい。あの元農奴の住まう地域にレストランができるなど今まで考えたこともなかった。
だからこその思い入れがあるのだろう。
扉の向こうから若い女性の笑いさざめく声が聞こえた。
「どうやら好評らしいですねえ」
ミルクセーキを試飲している女性たちの声が聞こえているのだろう。
「しかし、訓練途中に甘いものか、これまででは考えられんな」
「疲れた身体には手っ取り早い栄養補給が必要らしいっすよ、だから、栄養のまわりの早い糖分を取るのがおすすめらしいっす」
「いや、聞かなければわからないものだな」
イリアス少佐は、これからカラの様子も慎重に見ることにしようと考えた。
「彼女がまた面白いことを始めたら教えてください」
イリアス少佐の言葉を、タロは気のない顔で答えた。




