思惑
三日後、むしろ数が増えている。男女七歳にして席を同じゅうせずと時代がかかったことをわめきそうなウィスラー夫人をものともせず彼女達は集まっていたのだ。
そこにはアニスの姿もあった。
「カラ様、私どうしても今一度カラ様の教えを受けたいと思いまして」
キラキラとした目で両手を組んでカラを見る。
その視線にいたたまれないものを、そして明らかにかつてよりだいぶ細くなった輪郭にもやっとしたものを感じつつ、ラジオ体操第一を始めた。
さすがに二度目なので、全員戸惑う様子もなくやっている。
大きく脇を伸ばす運動をしながら、カラはあんなにへばっていたのに、と思いながら、次に腰のひねり運動をしていた。
トントンと軽いジャンプ。
そもそも体操という概念がない彼女達だ、これは痩せるためのおまじないと思っているのかもしれない。
「じゃ、ここで足踏み」
バタバタと足を踏みしめる。
「それじゃ、走り込み用意」
カラの合図で彼女達は走り始める。
イリアス少佐は扉の前に仁王立ちしているウィスラー夫人と押し問答をしていた。
「何やら面白いことをしているようですね」
「面白いかどうかは知りませんが、この体育館は、今男子禁制です」
ウィスラー夫人の四角い身体は文字通りの鉄壁だった。
「私は身分をひけらかすようなことはしたくないのだがね」
「それは結構でございます、なさりたくないならなさらなければよろしい」
ウィスラー夫人は慇懃に笑う。
文字通り取り付くシマのないウィスラー夫人にイリアス少佐はため息をつく。
しかしウィスラー夫人としては若い娘が寝巻のような格好をして、足を高く上げたり、腹ばいになって転がったりする姿を男性に見せるわけにはいかないという信念があった。
明らかに不謹慎な思いを彼女達に抱くに違いないと確信していた。
なんでも異世界の健康法なのだそうだが、異世界には全く変わった健康法があるものだと思う。
女性職員は彼女の統治下にある。それを揺るがすものは将軍でも許す気はない。
ウィスラー夫人は断固たる意志で、イリアス少佐を遮った。
イリアス少佐は、カラがこちらに明かそうとはしない異世界の謎をどうしても見たかった。
できることなら女装して入り込みたいぐらいだとも思っていた。
この話の分からない老女に対して殺意すら覚えた。
「何やってんですか、あんた達」
いつの間にかタロが現れた。手には水差しと、コップを持っていた。
「それは一体?」
「ああ、ミルクセーキですよ、卵と牛乳を混ぜた甘い飲み物です」
「それを一体なんで?」
鍛錬に甘い飲み物という組み合わせが謎だった。
「なんでもカラの話では、筋肉を使った後に甘いものを取ると、筋肉の疲労が早く癒えるんだそうです、あちらでは身体を使う人間には常識らしいんですがねえ」
「身体を使う人間というと」
「ああ、俺は知りませんでした、それで、こっちでも試してもらおうと、そのための試作品を提供しているんです」
そう言って、タロは扉を開けようとしたが、ウィスラー夫人に睨まれた。
「ノックしてもらえますか、カラに直接渡しますから」
タロがそう言うと、ウィスラー夫人は厳かにうなずいた。




