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タロの料理店

 タロは、この界隈で唯一の料理店を経営していた。

 タロは転生者だった。この世界では転生者はいろいろと優遇してもらえるらしい。タロはそのおかげでただで学校に行かせてもらったり、いろんな場所にただで連れて行ってもらえたりと特権を満喫し、前世の職業の料理人として自らの店を出した。

 若干十五歳の少年が一店を構えるなど、この世界の常識ではありえないが、底は転生者特典というやつだ。

 料理は点心の類。この界隈では小麦はほとんどパンにしてしまう。そのため、発酵の手間のかからない点心は最初は物珍しさから、今はその味から飛ぶように売れて、笑いの止まらない、新しい人生ありがとうと医誠会生活をタロはエンジョイしていた。

 その日までは。

 タロはいきなりやってきた国の役人に何やら嫌な予感を覚えた。

 よく日に焼け、前世の自分から見れば心配になるくらい細い身体をしたタロと対照的にやってきた役人はぽってりと太り、タロからすれば見上げるほどの大男だった。

 タロがサービスでと出した焼売を無言で咀嚼しながら油断ならない目でタロを見ていた。

「実はですね、転生者特典の基準が見直されまして、転生者の方で国に対する貢献度の低い方から払い戻し請求を実施することになりまして」

 言われたことに一瞬思考停止した。

「払い戻し、請求って」

 それはタロの教育にかかった費用だという。

 五歳から八年間学校に通った費用の請求。

 タロは店を出して、わずか二年、店の建設費用は借金で賄った。その借金は順調に返しているが、更なる出費がかさむとどうなるかわからない。

「あの、国に対する貢献度って」

「貢献している自覚がありますか?」

 タロの店はこの一帯では評判だがあくまでこの一帯のみの話だった。中央にまで轟くような有名店ではない。

 また、調理方法も新しく発見されたというほどのものでもない、たぶん中央に行けば同じような料理を出す店はあるだろう。

 タロだけにできる特別な貢献ははっきり言ってない。

「しかし、今そんな金はない、その、もう少し待ってもらえれば、まとまった金を作れると思うけど」

 そう言い淀む。

「言え、それで済む話ではありません、とにかく、国の金がかかっているのです、貴方はそれを返す義務がある」

 だからしばらく待ってもらえれば返すと言っているのに。

 タロは一向に話が通じないのでいらいらとつま先で床をたたいた。

 お役所仕事ってやつは、世界をまたいでも同じかい。

 思わず心中で愚痴る。

「とにかく、労働奉仕という形になります」

「ちょっと待ってください、店は?」

 店の売り上げがなければ借金は返せない。そして利息も膨らんで返すに返せなくなるかもしれない。

「店の借金がある、それはわかっております。その借金はこちらで一括して払い、それもこちらの借入金の一部にしましょう、この場合利息はありません」

「その、労働奉仕って、どれだけ続くんですか?」

「半年を目安としています」

 半年拘束されて利息なし、これはおいしいのか損なのか、忙しく頭で計算してみる。

「半年間で十分な成果が出されれば、すべての借入金が解消されます。店の借金分も」

 さらにおいしい情報も出されたが、これは成功報酬なのだ、成功しなければ借金棒引きはない。

「これは提案ではなく、命令です」

 どうやら選択の余地はないようだ。



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