彼女の今
カラは三人兄弟の真ん中だ。兄は父親について木工細工の修行。カラと妹は母親について機織りをしている。
カラが転生者として唯一の業績は、糸をところどころ染まらないように縛り上げ、それを織ることで出来る絣織を母に教えたことだけだ。
といっても前世では、織物など一度もやったことはなく、なんとなく知っていたから教えたのだが、きちんと模様になるよう技術革新したのはひとえに母の努力のたまものだった。
カラの前世は恐ろしくものを知らない女だった。
暇さえあればトレーニングに打ち込み、学校の勉強は二の次三の次、いわゆるスポーツ特待生という人種だった。
オリンピック強化選手にも選ばれた将来を嘱望されていたはずだった。
あの日、死ななければ。
大会に行く途中、交通事故、あのありえない位置にあった腕は、折れたのかちぎれたのか。そして事故で漏れたガソリンに、火花が引火して、すべて燃え尽きたのだろう。
おそらく葬式では、棺桶に厳重にくぎを打ち、決して空いたりしないようにしたに違いない。
そのようなむなしい最期を遂げるなど夢にも思わず、毎日毎日、トレーニングに明け暮れた生活、オリンピックに出られさえすれば将来は嘱望されて、そんな夢ばかり見ていた。
そんな生活の結果が、現在の残念転生者と呼ばれる所以だった。
そのことを大いに反省し、学校で学べる機会には勤勉に学問にはげんだ。そしてその知識を兄や妹に惜しげもなく与えた。
普通に考えれば、来世のために勉強する人間はそういないと思うが、とにかくカラは前世を反省し、頑張って勉強したのだ。
かつて鍛え上げた肉体は、きれいに燃えてしまった。
カラは誰よりもこの世界の人間とかつての人間だった身体の違いをかみしめていた。
なにしろ、持って生まれた運動神経が違いすぎた。
スポーツ選手というものは選ばれた遺伝子をまず持っているかどうかで決まる。
例えば、大会に添えて、亡き祖父に見せたかったと涙ぐむ選手、そして次の画面で、在りし日のどこかの大会に出場していたおじいさんの雄姿などが映し出されるのだ。
政治家並みに二世や三世がぞろぞろいる。
かつての両親もどこかの大会で知り合った縁だったという。
翻って現在の両親は父、職人、母、職人、生粋のインドア、運動神経のいい人間は三代さかのぼっても見当たらないという。
子供の頃、川に落ちたのはカラだけではない、兄も妹も落ちた。
むろん、カラもかつてのトレーニング方法を試して努力した。しかしどうにもならないくらい運動神経に見放されていた。
かつて空中で華麗に回転していた記憶がある、その記憶通りに技を再現できたなら、カラは残念転生者と呼ばれることはなかったかもしれない。
しかし、普通以下の運動神経しかもたない木の実ではそのような技を伝えることは夢のまた夢。
カラは結局うちで、織り子の修行をしていた。




