35話
なんだかちょっと変な雰囲気になった空気は、小さなノックで、すっと冷えるように無くなった。
私からそっと離れたヒューゴさんの顔は、いつもの仕事の顔になっていた。
静かに返事をすると、何やら書類を持った制服の人。
仕事ですね。
部外者がいてはいけないだろうと、私は「では、また」と簡単に挨拶をしてそそくさと部屋を出た。
うは~~~~。ビビった。
なんか言い包められたような気がしないこともない様な…う~ん?
しかし、お風呂に入りたい。ベットに横になりたいので、部屋に戻ることにした。
2度ほど迷子になったのはお約束です! は~余計疲れた。
エリーナさんの魔法により、私のバスルームには浴槽があるのです。
お願いして作って貰って本当に良かった。
湯船に浸かり、伸びをする。は~。体から力が抜けて楽になるぅぅぅぅ。極楽極楽。
それにしても、ちょとっとだけ話をしたデンディールさんが、あんな大層なお守りを何故私にくれたのか、謎だ。
自惚れちゃいけないんだろうけど、私に好意を寄せてくれたんだよね。
しかし、どこを好かれたのか…さっぱり分からない。
私…いいとこないよ?
女子力弱いしさ~。ここに来てから、スッピンだし。いや、眉毛あるからセーフ! とか自己弁護してますが、面倒なんですよね~。落とすのが。あと、ファンデ塗った後気持ち悪いし。下手に汗拭けないし。
話がズレた。
えっと。こんなズボラなんだけど。
それから大食らいだし。デブ…は最近解消したけど、おっぱい小さいし。顔地味だし。
どこに惚れる要因が?!
異世界人の感性は違うから…とか?
言ってて空しくなりますが。
あ、魔力?
そっか、魔力あると好かれるんだっけ。
このイマイチ使えない魔力が魅力なのか。…なんか全然嬉しくないな。これ元の世界に還ったら無くなる魅力なんだよね。
…追い打ちをかけるように情けないんですけど!
それに。
魔獣を魔石にした時は何とも思わなかったけど、昨日気付いた、もし、人間を魔石に変えてしまったら。
私、バケモノなんじゃない?
こう云うお話で、人を殺してしまって、自分は人殺しだと悩む主人公がいたけれど。
物語の中の出来事で、実際人を殺した事のない私はイマイチ分かって無かった。
実際、魔法を使っても、なんだか物語の中の出来事の様だし、不気味な容姿の魔獣が、綺麗な石に変わるのはゲーム感覚だったし。敵を倒してアイテムゲットだぜ!って感じだった。
でも、もし、私が魔法を使って人が魔石になってしまったら…人間を賢者の石にした某マンガを思い出した。
バケモノだ。人間じゃない。
嫌だ。絶対。人相手に魔法を使いたくない。
そして、知られたくない。
私がバケモノかもしれないなんて事。
そしたらそんな魔力を魅力に感じて好かれるのって、オカシイ気がした。間違ってるし、
知ったら絶対後悔する。
あまり、人間関係を深いものにしない方がいいかもしれない。
それに、私はあと一月もしたら元の世界に還る。
元の世界なら、私は只の人だ。
優しくしてくれるヒューゴさん。これ以上お世話になって、ややこしい事になってはいけない。
少し、距離を置いた方がいい…そう思った。
お風呂から出て、暗い考えになってしまったので、ベッドに横になった。
これ以上、何も考えたくなかった。
そしていつの間にか眠ってしまっていた。
エリーナさんに叩き起こされたのは、例のディナーの10分前だった。
「ちょっと!早く用意しなさいよ!」
「このワンピースでいい…」
「マーヤ!ちょっとは可愛い恰好したら~~!」
「だって、無いもん!」
「あっちゃ~。そういえば作って無かったわね!迂闊だったわ!」
「だからこれでいいって」
「じゃあ、頭!髪形可愛くしてあげるからこっちいらっしゃい!」
寝起きから怒涛の身づくろいに巻き込まれてしまった。
ディナーの会場となったエリーナさんの私室の控室。
貴族みたいな恰好のデンディールさんがいた。 …なんですかそれ。王子様みたいなんですけど。
ワイルドだったレンガ色の髪は、きちんと櫛が入り、なんかカッコイイ髪形になっていた。
瞳の色に合わせたように緑色のアクセントが効いた服。体格がいいから決まって見える。
そして、それが着慣れた感じで。
あの…何者なんでしょうか?この国の冒険者ってこんな感じなんですか?
だったら私が冒険者に成れないのは諦めがつきそうです。無理ですからね。
それと、ジェリックさんとヒューゴさんとイザークさんもいた。
皆さんそれなりにめかしこんだ格好。エリーナさんも素敵なドレスを着ていた。
ちょ。私だけ思いっきり外してるんですけど!
「ごめんなさいね~。私、この子のドレス作ってあげるのすっかり忘れてて~」
エリーナさんがフォローしてくれた。た、助かった。
「こちらに来たら、作ろうとは思ってたんだけど、連日仕事続きでしょ~。作ってる暇なくって」
あ、自分の良い訳もしてる。
「そうか。そうだったら、私が作ってあげないといけないな」
ジェリックさんが私の手を取り、軽く口づけすると、席までエスコートをした。
ほんっと、このおっさん。こういう所スマートで感心するんだよね!…鳥肌立つけど。
そのままエリーナさんもエスコートして。
なんだか微妙なお食事会が始まったのです。




